99.9%負けない「強いロジック」を組み立てる方法
プレジデントオンライン / 2020年1月31日 15時15分
※本稿は、髙橋洋一『ファクトに基づき、普遍を見出す 世界の正しい捉え方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■「川を上り、海を渡れ」
「高橋さんの議論における強さの秘訣は、どこにあるんですか?」などと聞かれることは多いのだが、これに対する筆者の答え、というか心がけていることは非常にシンプルだ。
川を上り、海を渡れ——。
これは、筆者が財務省(当時は大蔵省)に入省してまだ間もない頃、報告書を作成していたときに先輩から受けた指導である。
もちろんこれは比喩表現であって、「川を上る」というのは、「歴史を遡(さかのぼ)って過去の経緯を調べる」ということ、「海を渡る」というのは、「海外の事例を調べる」ということを意味している。
大学では数学を専攻し、数量分析で現状を把握し将来をも予測できると考えていた筆者にとって、この方法論はシンプルながらも思考の裾野を大きく広げてくれるものであった。
なぜならば、ある事柄の始まりから終わりに至る過去の経緯と、最低でもG7、理想的にはG20加盟国分くらいの海外の具体的事例というファクトを集めていくと、いつの時代、どこの地域にも共通する普遍的なルールというものが自然と見えてくるからである。そうして、時間的な広がりを持つタテの軸と、空間的な広がりを持つヨコの軸が通った、強い論考というのが生まれてくる。
「なんだ、そんな当たり前ことなのか」と思われるかもしれないが、世の中にはこの当たり前なことができている人がほとんどいない。学者や経済を専門とする記者の中にも、自分に都合のいいように一部の偏ったデータを取り出して議論をふっかけてくる人が少なくないし。
したがって、こうした論客に対しては、厳然たるファクトとデータを示してやればそれでこと足りることがだいたいなのである。
■信頼できる“ファクト”にあたれ
また、世の中で多くの的外れな議論が交わされるもうひとつの理由は、多くの人が信頼性の乏しい“フェイク”に基づいてロジックを組み立てていることである。
インターネットの発展によって、誰もが情報の発信者となり、その情報が瞬時に拡散される時代になった。おかげでずいぶん便利な世の中になり、筆者も情報収集のツールとしてインターネットを活用しているが、ネットの表層に浮遊している情報の九割以上はフェイクであり、ゴミも同然だ。
したがって、膨大な情報の中から“ファクト”を見極めるリテラシーというものが大事になってくる。
筆者の場合は、各国政府が発表する公式資料や金融レポートと、学術論文の内容をふまえていることが多い。論文は査読を経ているので、一般の人が勝手に発信する情報に比べればずっと信頼性が担保されているし、あまりにおかしな内容の場合にはすぐにその論文を批判する別の論文が出るからだ。
また、一般の人の中には、「ネットの情報は信用ならないが、テレビや新聞などのオールドメディアの情報なら信頼に足る」と思っている人もいるかもしれないが、わざと事実の一部分だけを切り取って印象操作をするような偏向報道も少なくないし、エビデンス(証拠)に乏しいニュースの垂れ流しが行われている。
■新聞さえ「フェイクニュース」の可能性がある
そもそも新聞の記事が「極めて頼りないもの」であるということは、筆者が役人だった時代から身をもって体感していた。
筆者が財務省(当時は大蔵省)に入ったのは1980年のことだが、当時の大蔵省は広報部署はあるが、実際には各部局で広報が行われている、いわゆる局あって省なしという状況だった。その意味で「広報」を担当したこともあり、メディアの記者に対するブリーフィングもやっていた。発表する事項がある場合には、事前に資料をつくって記者に配布するのだ。
ところが、データを示しただけの資料だと、「意味がわからない」と言って記事が書けない記者がたくさんいた。そういう記者は同じ質問を何度も繰り返したり、的外れな質問をぶつけたりしてくる。そうした質問にいちいち答えていても埒(らち)が明かないと思ったときは、嚙(か)み砕いて口頭で説明し、それでも伝わらないときにはわざわざ文章にして紙を渡すこともあった。すると、その文章がソックリそのまま記事になっていたことが、一度や二度ではなかった。
要するに、官僚は、その気になれば自分たちの言いたいことを自由に記者に書かせることもできるということだ。「権力のチェック」がジャーナリストの使命というが、新聞記事を書いている記者の中で権力を的確にチェックできるよう
■3つの言語で世界を捉えよ
しかし、この世の中からこうした“フェイク”を排除することはもはや不可能だろう。したがって、自らの力で“ファクト”を見極め、何が真実なのかを導き出す必要があるわけだ。
思考のフレームワークについては、先ほど「川を上り、海を渡る」というのを紹介したが、ファクトを探すためのツールとして「3つの言語」というのを紹介しておきたい。
筆者は、「言語」というものを三種類に分けて捉えている。まず一つめは、人前で話をするときや、本を書くときなどに使っている人文科学の言語だ。これは一般の人が普段の会話で使っている口語と考えていい。母国語に加えて、他の外国語を習得すればするほど、アクセスできるファクトは増える。今の時代は英語はマストだろう。ただ、この言語わかりやすいが、世の中には人文科学の言語では的確に説明しきれない事物がある。
そこで出てくる二つ目の言語が、自然科学の言語である。筆者の理解では、数学も自然科学の言語になる。たとえば、アインシュタインの相対性理論を人文科学の言語で説明するのは至難の業だ。要点を簡潔にまとめても、物理学の相応の知識がなければわけがわからないだろう。だから一般向けの入門書などでは「時速100キロメートルで走るクルマに乗っているとき……」などと、身近な現象に置き換えたりして説明される。
ところが数式を使えば相対性理論は一発で説明ができる。もちろん、相手にも数式を自然科学の言語として読み解く能力がなければこの会話は成立しないが、数学の能力を持った者同士であればランゲージ・バリア(言葉の壁)はないので、世界共通の普遍的知識として共有できる。日本でもバカ売れしたトマ・ピケティの『21世紀の資本』(みすず書房)も、人文科学の言語で書くからあれだけ分厚い本になるのであって、自然科学の言語が使える人なら数式だけで説明できる。海外で発表される自然科学の論文も同様だ。
■日本語だけで「普遍的心理」を見出すのは無理がある
三つ目には社会科学の言語があり、これは会計や経済理論などのことである。
筆者はこの三種類の言語を使い分けているが、言語を広げていくと、それだけいろいろな世界が見えてくる。逆に言えば、日本語だけで“普遍的真理”を見出そうと頑張るのは、かなり無理のあることなのだ。
これからも世の中はどんどん変化し複雑になっていく。2020年は、米中貿易戦争、イギリスのEU離脱、ホルムズ海峡の緊張、日韓関係の悪化など国際的な不安要素も多い。
議論や交渉の場ではもちろん、世の中にはびこるフェイクに人生を翻弄されないためにも、ぜひ、今回ご紹介したツールを活用してもらいたい。
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政策工房代表取締役会長
嘉悦大学教授。1980年に大蔵省(現財務省)に入省。大蔵省理財局資金企画室長、内閣参事官(首相官邸)などの要職を歴任。小泉内閣・第一次安倍内閣ではブレーンとして活躍。
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(政策工房代表取締役会長 髙橋 洋一)
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