底辺校から東大合格を勝ち取る人に共通すること
プレジデントオンライン / 2020年1月31日 9時15分
■学生時代の苦しさを書きたかった
――和田さんの著書は数多いですが、小説は今回の『灘校物語』(サイゾー)が初になります。なぜ初めての小説で灘校時代をテーマに選んだのですか?
僕の学年って、灘校の中でも変わった人が多かったんです。例えば、コラムニストの勝谷誠彦、イスラム学者の中田考がいた。警視総監になった吉田尚正や、オウム真理教事件で有名になった弁護士の伊藤芳朗もいた。
そのように僕の学年は割と変わった人がたくさんいたことを「文春オンライン」で小林哲夫さんという方がお書きになったら、その記事が話題になったんですね〈2017年9月13日掲載「『灘高校1979年卒』の神童は、大人になってどうなったのか?」〉。
それで担当編集の穂原俊二さんに、「これはもう小説にするしかないですよ」と言われたので、書いてみることにしたんです。穂原さんはどちらかと言うと「灘校の愉快な仲間たち」みたいな感じで考えておられたんだろうけど、僕としては自分が学生時代にどれだけあがき苦しんでいたか、を書きたかったんです。
■ハガキ職人に憧れるも才能のなさを痛感
――「灘中・灘高を経て東大医学部」という和田さんの肩書だけを取り出すといかにもエリートに見えますが、苦しんだ時期もあったんですね。
小学生の頃、僕は勉強しか取り柄がない人間だったんですね。6回も転校していて、いじめられっ子だったし。そんな子が灘中学に入って1年生から遊んでいたら、学年で170人中120番ぐらいまで成績が落ちてしまい、勉強すらも取り柄じゃなくなってしまったんです。
学校の勉強は面白くなかったし、友達付き合いもあんまり良くなかったし、運動ができないという非常にみじめな欠点もあった。関西だから面白い人になれればいいなと思ったんですけど、そこも駄目だったんです。深夜ラジオにハガキを出しても全然読んでもらえず、自分の才能のなさを痛感しました。小説家になろうと思ったけど全然文章が書けないことに気付かされて、2カ月であきらめたこともありました。
生徒会の選挙もそのひとつですね。僕が中1のときに高3で生徒会長だったのが、のちにフジテレビのキャスターから神奈川県知事になった黒岩祐治さんなんです。その生徒会長の姿が当時すごく格好良く見えたんですね。それで何回となしに選挙に出たけれど、同級生の勝谷が簡単に勝って、僕は一度も勝てなかった。それで自分がいかに人望がないかを思い知らされました。
■有名塾から有名校でなくても東大には入れる
――いろいろ挫折を味わったあと、映画監督になりたいと考え、その資金を稼げる仕事として医師を目指そうと考えついた。
自分としては「なんかうまくいかないな」とずっと思い続けてきたんです。でも、そのせいで医学部を目指そうと考え、数学や物理の解法を暗記するといった受験勉強のテクニックを自分なりに考えるようになりました。
僕は受験勉強について本を書いたり、勉強法の通信講座をやったりしているんですけど、今の受験生を見ていて思うのは、初めからあきらめている人がすごく多い気がするんです。今の親御さんたちは、小学生の頃から子供を有名な塾に通わせて、開成や灘のような学校に入れないと、東大や医学部には入れないと思い込んでいる。でも、実はそんなことはなくて、それ以下のランクの高校からでも東大や医学部に入る人はいるんです。
親御さんたちはお子さんを有名な塾に入れて、そこでついていけなくても無理無理に通わせてしまう。そうすると子供が「僕はバカなんだ」って思って勉強嫌いになったり劣等感を持ったりする。その塾のやり方が合わないなら代わりを探せばいいんですけど、親御さんはそのルートが正しいと信じたらそこを変えようとしないんです。
そういう人たちが僕の本を読んでどう思われるか分からないけど、「みんな順風満帆というわけではないんだよ」ってことを知ってもらいたい気持ちはあります。高校生でも読めるような文章にしているはずなので、若い子にも読んでほしいですね。
■1番じゃなくていい、3万番で合格はする
――自分が受験生の頃、和田さんがどこかで「一流と言われる大学に合格する人は毎年2~3万人いる。その中で1番になるのは難しいかもしれないけど、3万番になるのは決して難しいことではないはずだ」と発言されていたのを読んだ覚えがあります。受験勉強はそれだけ間口が広いものだということですね。
しかも、その「3万人」という合格者数は昔から変わってないですからね。2019年に生まれた子供は86万人しかいないそうですよ。第二次ベビーブームの世代は200万人以上いたわけです。それを考えたらいかに易しくなっているか。そう考えればいいのに、なんとなくあきらめの風潮があるんですよね。
――東大や医学部を目指すような子は賢いからこそあきらめが早い、と言うこともできるんでしょうか?
その可能性はありますね。人間ってやっぱり厚かましさは大事だと思っていて。例えば、私の弟(最高検察庁公判部長・和田雅樹氏)も、灘中に落ちて入学した学校が、東大には10年に1人ぐらいしか行っていないようなところだったんです。そこで学年で60~80番ぐらいだったから、「関関同立を目指せ」と教師に言われていたんですけど、「この学校のやり方が悪いだけで、灘校のやり方を使えば東大に受かるはずだから教えてほしい」って高3になる直前ぐらいに僕に言ってきたんです。彼はその厚かましさで実際に東大に入ったし、それがのちに出世争いで生き残っていることにもつながっていると思うんですよね。
■東大に入るような人には2種類しかいない
――教師に言われたことを信じるのではなく、自分でやり方を探すことで東大に受かる人もいる、と。
結局、東大に入るような人には2種類しかいないと思っているんです。まず、学校や塾の先生や親の言いなりになって一生懸命勉強して、ずっと優等生を続けて東大に入るような人。そういう人は、大学でも「優」をいっぱい取ろうとして、最終的に大きい会社や役所に入る。ずっと上の言うことばっかり聞いてきたから、組織を守るために明らかにウソの答弁を平気でするようにもなるわけです。
一方、僕の勉強法の本を読んだり、ある程度自分で工夫して勉強したりして東大に入る人もいるんです。そういう人ってやっぱりわりと柔軟な気がするんですよ。だから、大きい会社に入らずに起業しちゃったり、自分の好きなことをやったりするんですね。
つまり、受験勉強でも上から言われた通りのことだけをやるのであれば、あんまり頭が良くなるとは思えないんですね。「とにかくこの点数を取ればいいんだな」と考えて、自分で工夫をする経験を持つことは、僕は悪いことじゃないと思うんです。
■「とにかく受かりゃいいんだ」タイプ
――実は私自身も高校生の頃に和田さんの著書で勉強法を学んで、独学で東大に入りました。当時、和田さんが東大受験の攻略法について書かれた『新・受験技法 東大合格の極意』(新評論)という本が出たばかりで、その内容が大いに参考になりました。私が知っている限りでも、東大生にはコツコツ真面目にやる人と要領のいい人の2タイプがいるというのは分かります。個性豊かな人材を輩出している灘校でも、その2タイプに分かれていたんですか?
灘校でも半分以上の人は真面目にコツコツと勉強して東大に入ります。一方、個性が豊かな人は、たぶんさらに2タイプにわかれると思います。1つは、もう本当に頭の良い人。勉強しなくてもできちゃうような人も、たしかに学年で数人はいたんですよ。その人たちは自分で個性を広げていけるんですよね。もう1つは、僕みたいに受験勉強を「とにかく受かりゃいいんだ」とやる人です。
灘校の場合、先生方の学歴がそこまで高いわけでもなかったのも良い点でした。東大卒なんて1人か2人しかいなかった。だから、生徒がわりと先生たちを小ばかにしているようなところがありました。「上の人の言うことを聞かなきゃいけない」という感覚が薄かったのは良かったと思いますね。
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国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。
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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹 構成=ラリー遠田)
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