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なぜ受験勉強では「テクニック」がズルいと言われるのか

プレジデントオンライン / 2020年2月1日 9時15分

精神科医・和田秀樹さん - 撮影=プレジデントオンライン

受験勉強では「テクニック」ばかりを身につけて合格するのはズルいといわれる。精神科医の和田秀樹氏は、「スポーツならやり方を習ってから練習する。勉強も同じだ。勉強に苦手意識がある子供たちの8~9割は、頭が悪いのではなく、悪いやり方のまま努力をしているんだと思う」という――。(後編/全2回)

■ズルをして東大に入ったような気がしていた

――和田さんは勉強法に関する本を書いたり、受験指導の通信講座や学習塾を運営したりしています。なぜそうした仕事に取り組むようになったのでしょうか。

2つの理由があります。1つは自分が学んだ受験テクニックをいろいろな人に教えたいと思ったからです。僕自身、ズルをして東大に入ったような気がしていたんです。だから、それをもっと多くの人に広めたかった。

もう1つは、世の中に立ちたい。最近の受験業界の風潮として、東京や大阪などの都会で小学校から高校までずっと塾通いをしているような、経済的に恵まれている人でないと東大や医学部には入れないと思われています。

現実には、僕の通信講座で学んだ富山県の子は東大理Ⅲに1番で受かっています。そんなに家庭が豊かじゃなかったり、地方の教育資源がなかったりしても、やり方さえ間違えなければ受かるはずなんです。

でもこのままだと、生まれ育つ家や地域で一生が決まるようになる。それをなんとかしたいんです。

■自分が絶対に正しいと考える人こそ「バカ」だ

――和田さんは灘校で抜群に成績のいい「本物の天才」に出会ったそうですね。そうした人たちを間近に見ていたからこそ、「自分は天才ではないけど勉強法を工夫することで東大に入れた」という意識があるんでしょうか?

和田秀樹『灘校物語』(サイゾー)

はい。僕は本当に自分が頭が良いとは思わないんです。ただ、上から言われたことしかできない人とか、歴史であれなんであれ答えが1つだと思っている人とか、自分の考えていることが絶対正しいと思っている人は、僕の定義では「バカ」なんですよね。だから、そういう意味での「バカ」になりさえしなければ、人間にはいろんな可能性があるんだと思います。

僕自身も、つい7~8年ぐらい前までは正解を求めるために本を読んでいたと思います。でも今はいろんな考えがあることを知るために読むようになりました。それって、人間としてはだいぶ進歩したんじゃないかなと思うんですよね。

■受験勉強なら「受かる」ことだけを考えればいい

――世間では「東大に入る人って、もともと頭が良かったんでしょ」と思われやすいですよね。でも、和田さんとしてはそうじゃない、と。

もちろん、もともと頭が良いから入る人はいるんですよ。だけど9割ぐらいの人はそうじゃないはずなんですね。そうすると、ど根性で勉強するかやり方を工夫するかしかないんです。それで、やり方を工夫する方がこれから生きていく上では柔軟になれるだろうし、ほかのことをやる時間もできると思うんです。

どんなスポーツでも、やり方を教わってから練習しますよね。ゴルフで前に飛ばない人が、前に飛ばないままのやり方で「1000回振って」って言われることはないでしょう。ちゃんと前に飛ばす方法をコーチに教えてもらってから、「そのやり方で1000回振ってみて」という話になる。

ところが勉強になると、みんな自己流でやっているせいで、悪いやり方を続けてしまうケースが生まれやすいんです。勉強に苦手意識がある子供たちの8~9割は、頭が悪いんじゃなくて、悪いやり方のまま努力をしているんだと思います。試験に出ないことを必死で勉強しているとかね。「それもやらないと駄目なんだ」という根性論もあるかもしれないけど、僕は受験勉強なら単純に「受かる」ことだけを考えればいいと思うんですよね。

■子供に勝つ経験をさせるのは大事

――和田さんの受験指導法には「受験は要領」や「数学は暗記だ」という有名なキャッチコピーがありますよね。それも「とにかく受かる」という考えによるんですか?

そうです。みんなそういったやり方を「ズルい」とか「テクニックでしょ」とか言うんだけど、それを知らないで努力が空回りになるほうがよっぽど悲劇だと思うんです。試験に受かれば自信がつくけど、落ちると大概の人はそこで落ち込んだり劣等感を持ったりするじゃないですか。

落ちても「たまたま俺は勉強には向いてなかっただけだから、ほかの世界で生きていこう」って開き直れるんだったらそれでもいい。でも、多くの人はそうはいかない。親や塾や学校から「こういう勉強が正しいんだから、それでがんばれ」って言われ続けて、そこで結果が出ないと劣等感を持ってしまう。人間って、一度劣等感を持ってしまうと、なかなかほかのことにも挑戦できなくなるんですよ。だから子供に勝つ経験をさせるのは大事なんだと僕は思っています。

■多くの人が間違った方法で努力をしている

受験は、勝つ人の数が多いんです。東大でも年間3000人は受かります。高校野球だったら、甲子園のベンチに座れる人は年間1000人ぐらいしかいない。ほかのジャンルに比べて人数が多く、テクニックも確立している。だから、そこでうまくいく経験をさせるのは、わりとやりやすい気がするんですよね。

――受験勉強は成功体験を積むのに有効だ、と。

しょせん18歳のレースじゃないですか。大人の世界で勝つことと比べたら簡単ですよね。英語を使う仕事をしている大人は、英語の入試問題を今見るとこんなに易しかったのか、って驚くでしょうし、僕は国語が苦手で全然駄目だったんだけど、国語の入試問題をいま読んでみると意外に易しいんだなと思います。そういう意味で、受験で勝つこと自体は本当はそんなに難しくない。ただ、多くの人が間違った方法で努力をしているのが問題なんです。

■記述式の共通テストは逆に頭を固くする

――いま大学入試の世界では「大学入試センター試験」が「大学入学共通テスト」に移行することが話題になっています。この新方式のテストに関してはどう思われますか?

僕はこの変更には反対の立場です。新共通テストは、マークシートだけでなく記述式を導入するのと、英語に関しては「読む・書く」だけじゃなくて「聞く・話す」も入ってくるのが大きな変更点です。記述式の試験こそ実は模範解答が求められるようなところがあるので、突飛なやり方で正しい答えを出したときにはじかれやすいんです。結果的に延期されて本当によかったと思います。

東大の入試みたいに、東大の数学科の先生が採点するんだったら、突飛な解答を書いても「こいつ面白いじゃん」って評価してくれるんだけど、共通テストのような大規模な試験で学生のバイトに採点させていたら、型にはまった解答しか認められないと思うんですよね。仮にそうだったら記述式のほうがよっぽど頭を固くすると思うんですよ。

■自分で考える人を生み出す入試方法が重要

二次試験は二次試験で、なるべくAO入試にするべきだという意見があるんですが、アドミッション・オフィス(入学管理局)がないAOなんて本来ありえないんですよ。大学の教授が面接を担当していると、上の人に逆らわないおとなしい子が入って来るようになる。

小論文は小論文で、予備校で習うような型にはまった文章を書けていれば減点のしようがないから、やっぱりそれもつまらない人間を作る危険性がある。内申書を見るようにすれば、学校の先生の言いなりになる人のほうが入りやすくなるんです。

どれを取ってみても、これからの時代に通用するような人を選ぶことはできない。高度成長の時代だったら、上の言うことを聞く人間を生み出す入試も悪くなかったのかもしれないけど、これからの時代は自分で考えることのほうが大事です。上に逆らえないという状況が、社会を停滞させる原因になると僕は考えています。

■今のシステムの中で入試改革をすると事態は悪化する

――採点者が採点しやすい、気に入られるような回答が良しとされる入試方法は危険だ、と考えていらっしゃるんですね。

そうです。新試験を導入したがっている人は「従来の受験勉強で受かるのは面白くない人間だ」という信念がある。だから、面接や小論文をやったほうが面白い人間が取れるはずだと考える。確かに、面接や小論文で面白い人間が取れる可能性はあるんだけど、そのためには面接官がよっぽど気が利いてるとか、小論文の課題自体を面白いものにするとかしないと難しいと思うんですよね。

今の大学の教授に面接させても、面白い人が取れるわけがない。入試改革が必要ないとは言わないけど、今のシステムの中で入試改革をやるとかえって事態は悪化する。それなら従来の試験制度でパフォーマンスだけを競わせるほうが、受験生がそれなりに工夫する余地があると思うんですよ。

■むしろ内申書のほうがよっぽど悪影響

――世の中では「受験勉強をやると頭の固い人間になる」みたいな悪いイメージがありますが、実際には自分で勉強法を工夫したり戦略を立てたりすることで、むしろ柔軟な頭を作ることになるんですね。

そうだと思います。だから、受験勉強よりもむしろ内申書のほうがよっぽど悪影響だと思うんですよ。地方の公立中学とかだと、地元の良い公立高校に行こうと思ったら先生に嫌われないようにしないといけない。

今は観点別評価が始まっていて、ペーパーテストでいくら良い点を取っても、意欲や態度が駄目とされると5段階評価で「3」しかつかないような事態が起こってしまう。つまり、“今の大人から見て良い人間”が良いということになるじゃないですか。子供がそこを目指してしまうと、社会が20年ぐらい遅れてしまう。それはすごくまずいことなんじゃないかなと思います。学校の先生に逆らってでも点数さえ取れれば大学に入れるシステムのほうが、内申書で良い点を取るとか面接官に気に入られないと大学に入れないシステムよりも100倍マシだと思いますね。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。

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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹 構成=ラリー遠田)

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