スマホのロック解除で見た「不倫LINE」は裁判証拠になるか
プレジデントオンライン / 2020年2月5日 11時15分
■親密なメッセージは不貞行為の証拠になることも
最近夫の様子がおかしい。もしかしたら浮気しているのではないか。そう思って夫のスマホを確認したいという方もいるでしょう。実際に夫のスマホを確認して、女性との親密なメッセージを発見した、という方もいるかもしれません。知らない女性との親密なメッセージは、内容次第では不貞行為の重要な証拠となり得ます。
そこで、今回は、妻が夫のスマホを勝手にみることは許されるのかどうか。さらに、LINEなどのメッセージアプリをハッキングして、その内容を確認することは許されるのか。そのようにして得られた情報は、離婚や慰謝料請求の証拠として有効なのか、といった点について解説していきたいと思います。
まず、本来、アクセス権限のない人が、他人のIDとパスワードを利用して、サーバーやSNSなどのネットワークに侵入することは「不正アクセス行為」として法律上禁止されています(不正アクセス禁止法3条)。この法律は、不正アクセス行為を禁止するとともに、電子通信回路(インターネット等)を通じて行われる電子計算機(パソコン、スマホ等)に係る犯罪の防止及びアクセス制御機能により実現される電子通信に関する秩序の維持を図り、もって高度情報通信社会の健全な発展に寄与することを目的に制定されました(不正アクセス禁止法1条)。
■他人のSNSにログインするのは犯罪行為だ
具体的には、下記のような行為が「不正アクセス行為」として法律上禁止されています。
(1)アクセス制御機能を有する特定電子計算機(パソコン、スマホ等)に電気通信回線(インターネット等)を通じてアクセスし、他人の識別符号(ID、パスワード等)を入力し、アクセス制御機能を作動させて、本来制限されている機能を利用可能な状態にする行為
(2)アクセス制御機能を有する電子計算機に電気通信回線を通じてアクセスし、識別符号以外の情報や指令を入力し、アクセス制御機能を作動させて、本来制限されている機能を利用可能な状態にする行為
(3)アクセス制御機能を有する他の電子計算機により制限されている電子計算機に電気通信回線を通じてアクセスし、識別符号以外の情報や指令を入力してアクセス制御機能を作動させて、本来制限されている機能を利用可能な状態にする行為
そして、「何人も」不正アクセスをすることは禁止されていますので、たとえ妻であっても夫のIDとパスワードを利用して、夫のSNSなどにログインすることはできないということになります。また、遠隔操作アプリや遠隔操作ウイルスなどを夫のスマホに勝手にインストール等して夫のSNSをハッキングし、SNSの内容を確認することも「不正アクセス行為」として、同様に禁止されています。
■スマホのロック解除なら法的にセーフ
不正アクセス行為をした人には、3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることになります(不正アクセス禁止法11条)。
妻が夫のSNSに不正アクセスした事案ではありませんが、過去には、退職した会社で使用していたIDとパスワードを利用して不動産情報のデータベースに不正にアクセスしたとして逮捕された事例、他人のIDとパスワードを利用してセブンペイに不正にアクセスし、加熱式タバコを購入したとして逮捕された事例、携帯電話会社のショップ店員向けの福利厚生サイトに不正にログインし、ギフト券を不正に取得したとして逮捕された事例などがあります。
なお、勝手にパスワードを入力して夫のスマホのロックを解除する行為自体は、ネットワークに侵入するわけではないので、「不正アクセス行為」ではありません。また、その都度IDやパスワードを入力しなくても起動することができるLINEやフェイスブックなどのアプリの中身を確認する行為も、同様に「不正アクセス行為」ではありません。
そのため、妻が夫のスマホのロックを解除して、カレンダーの予定やメールの内容を確認することは法に触れないということになります。また、SNSアプリはたいていの場合、その都度パスワードを入力しなくても起動できると思いますので、その中身を見ることも違法にはなりません。
■刑事裁判においては証拠能力がないとされるが…
それでは、「不正アクセス行為」によって取得した他の女性との親密なやり取りの内容は、夫に対する離婚訴訟や慰謝料請求訴訟において、不貞行為を立証するための証拠として採用されるのでしょうか。
この点、刑事裁判においては、違法な手段によって取得した証拠は、採用することはできません。そのような証拠は、「違法収集証拠」として証拠能力がないとされています(最高裁昭和53年9月7日判決)。
そのため、不正アクセス行為によって取得したSNSの内容については、刑事裁判では採用されないことになります。
一方、民事裁判では、証拠の収集方法に関して刑事裁判ほど手続きの適法性が厳格に要求されているわけではありません。
相手に無断で録音した録音テープの証拠能力が問題となった事案において、裁判所は、無断録音テープのような違法収集証拠の証拠能力については、著しく反社会的な手段を用いて、人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって収集されたものである場合には、証拠能力が否定されるが、そうでない場合には、原則として証拠能力を肯定することができると判断しました(東京高裁昭和52年7月15日判決)。
■民事裁判では証拠として採用される可能性が高い
すなわち、民事裁判では、違法な手段によって収集された証拠であっても原則として証拠として採用されることになります。夫のIDとパスワードを利用して夫のSNSに不正アクセスする行為は、上記裁判例でいう人格権侵害を伴う方法とまではいえませんので、不正アクセス行為によって取得したSNSの内容であっても、民事裁判では証拠として採用される可能性が高いということになります。
そのため、不正アクセス行為によって取得した証拠によって、妻から夫に対する離婚請求や慰謝料請求が認められることもあるのです。
もっとも、上記のとおり、不正アクセス行為は違法行為なので、夫に被害届の提出や刑事告訴をされ、取り調べを受けたり、場合によっては逮捕されたりする恐れもあります。
また、夫から妻に対して、スマホの中身を勝手に見られたことがプライバシーの侵害にあたるとして、慰謝料請求の訴訟を起こされるというリスクもあります。
夫に対する離婚請求や慰謝料請求が認められたとしても、不正アクセス禁止法違反の容疑で取り調べを受けたり、夫から慰謝料請求の訴訟を起こされたりする、というリスクがありますから、たとえ夫のスマホの内容が気になったとしても、その中をのぞき見るという行為は控えたほうがいいでしょう。
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弁護士
1982年生まれ。一橋大学法学部卒業。2010年、弁護士登録。福島市内の法律事務所を経て、現在は東京都港区の高島総合法律事務所に所属。離婚・男女問題に特に力を入れている。
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(弁護士 理崎 智英)
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