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なぜ羽田空港は東京上空に飛行機を"飛ばしまくる"必要があるのか

プレジデントオンライン / 2020年3月17日 11時15分

2020年7月から開催される東京オリンピック・パラリンピック。世界的な一大イベントの効果は大きく、2020年の訪日外国人・インバウンドの旅行者は3400万人を超えると見込まれる(JTB調べ)。年々過去最高を更新し、政府が目標にする30年の目標6000万人も見えてきた。インバウンド増加への対応に関連産業の多くが追われることになるが、航空産業、空港ビジネスも、この商機に事業の飛躍を目論む。

世界で5番目に乗降客数の多い羽田空港は、東京五輪はもちろん、その後の拡大も視野に入れて現在大改修中だ。国際化や便数の拡大に加え、空港内のサービス拡充にも力をいれる。果たして、日本の玄関口・羽田はどのように変わろうとしているのか。

■羽田の国際化加速

19年1月、政府は東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて羽田空港の国際線増便に向け、米軍に管制権がある「横田空域」を一部通過する新しい飛行ルートの航行をアメリカと合意したと発表した。20年3月からは現在、1日最大で80便のところ、50便増えて130便まで拡大する。

航空行政が専門の戸崎肇桜美林大学教授は、「日本の空港国際化は羽田空港の強化が基本戦略となり、それを成田国際空港が補完するという形で、進んでいくことになる」と指摘する。

国際線増便に対し、航空会社側の動きは急だ。すでに米国大手のデルタ航空が現在、成田空港から7路線、羽田空港から2路線の運航を、20年3月からすべて羽田空港に集約させることを発表。また、日本航空も9便を成田から移すなど、新設路線を含めて羽田発着の国際線を1日22便から34便に増やすことを発表している。

桜美林大学教授 戸崎 肇氏

今後も、さらに羽田空港の国際化は進むのだろうか。「これ以上の拡大は難しいのではないかと見ています。20年の新ルートの開放も必死の交渉の末ようやく許可をもらった。しかも追加された50枠のうちほぼ半分(24枠)はアメリカの航空会社向けです。加えて、新しく航行するルートは東京上空を通るため落下物や騒音問題もはらんでいます」。

さらに発着する滑走路が足りないという問題も抱える。そこで羽田空港に第5滑走路を増設しようという動きもあるが、戸崎教授は否定的だ。

「第5滑走路をつくるということは、さらに海側にまたせり出してしまう。いま増設している第4滑走路をつくるときにも議論になりましたが、国家予算が限られるなかで数十億円という投資をしてまでつくってどうするんだという意見もあります」

■世界の空港との競争激化

羽田空港の拡張に制限があるなかで、もう一方の首都圏の国際線を担う成田空港との一体運用が求められる。19年11月には、成田空港を運営する成田国際空港株式会社が28年度末をめどに第3滑走路の新設に向けて国土交通省に許可申請を出したのだ。滑走路の本数を増やし、LCC(ローコストキャリア)を中心に路線の維持拡大を狙う。

「羽田空港の国際化は、強いカンフル剤として成田空港に効いている」(戸崎教授)

しかし、羽田空港のキャパシティを拡大し、成田空港で補完させても、アジアにおける空港の国際競争という観点では、分が悪いのは確かだ。韓国の仁川国際空港や、シンガポールのチャンギ国際空港、19年9月に開港した北京大興国際空港などの国際線と国内線を集約した巨大国際ハブ空港と比べると、どうしても日本の空港は見劣りしてしまう。

いわゆる国際ハブ空港は、自国を目的地とする旅客だけでなく、そこからさらに第三国に向けて送り出す中継地でもある。そうしたトランジット客は数時間を空港内で過ごす。そのニーズに対応するために、巨大ハブ空港はショッピングや食事、あるいは各種のエンターテインメント機能を備える。

それを空港の国際競争というなら、日本の空港は太刀打ちできない。規模の面だけ捉えても、羽田や成田に限らず、日本の主要空港にとっては、これ以上の物理的な拡張は不可能に近い。

「ハブ機能としては本来24時間化されなければ弱い」(戸崎教授)。運用面でも競争力に欠けるのである。仮に24時間運用にしても、電車やモノレールが稼働していないという人員輸送上の課題を解決するのが次のステップになるだろう。

■東京五輪の対策

世界の空港ランキングを見ると、規模面ではアトランタ、ロサンゼルスなどアメリカの空港が上位を占め、エンターテインメント性ではチャンギなどに日本の空港は及ばない。日本の空港が評価されるのは、例えば「空港内の清潔さ」であり、「スタッフのサービス」である。その点で20年の東京オリンピックは、日本の各空港にとって、あらためてサービスの質をアピールするかっこうの舞台となるだろう。一方で、戸崎教授は2つの点で懸念を示す。

「1つは災害対策です。ラグビーのW杯でも台風で試合が中止になりましたが、オリンピックは短期間で行われるので、そのタイミングで天候が悪化したときにどう対応するのかは充分な対策が必要」だという。近年の台風上陸で成田空港も関西国際空港も被害を受け、旅客が足止めされるという影響が出た。もちろん、湾岸空港としての羽田空港も、周到な対策が不可欠である。海外からやってきた人との言葉や文化の違いに対応しながら事態を想定する必要がある。その意味でも、東京オリンピックは、乗り越えなければならない、最初の関門となる。

もう1つ戸崎教授が指摘するのが、プライベートジェットの対応だ。

「オリンピックなどのイベントでは世界からVIPがプライベートジェットに乗ってやってきます。東京五輪では少なくとも2000機がやってくる。それに対して羽田空港のプライベートジェットの発着枠は16しかありません。そのなかで運用しなければいけません。12年のロンドンオリンピックでは4年以上かけて準備をしたと聞いています」

カルロス・ゴーン被告の海外脱出で注目を集めたプライベートジェットはオリンピックでも焦点になりそうだ。

■新サービス拡充

羽田空港では利用者の増加を見据え、20年3月からの国際線増便に合わせて現在の第2ターミナルの大改修を行っている。ハード面での整備だけではなく、さらにサービスなどソフト面の向上も急ぐ。

羽田空港の施設管理、店舗運営、飲食店の管理などサービスを提供する日本空港ビルデングではターミナルで働く社員全員に、お客様の案内などの一次対応ができるように簡単な英会話と手話の習得をさせているという。

さらに旅客の利便性と生産性が上がる作業についてはロボットの導入も進める。15年にはサイバーダインなどと提携し、荷物を運ぶ作業支援用ロボットを導入。また、清掃用のロボットなどを導入するなど省力化と清潔性の向上を目的に、応用範囲をさらに広げようとしている。

世界の空港は民営化が1つの潮流になっており、日本の地方空港でも続々と民営化が進む。それに伴い空港の経営は、着陸料を下げて航空会社を誘致して、集客をつのることで、ターミナルでの物販をはじめとするサービス事業で利益を上げ、空港全体を適正なコストで運営することが1つの焦点になっている。それがエアラインを誘致する際のインセンティブにもなる。

戸崎教授は「成田空港の場合、LCCでの滞在時間の長い人を意識して、家電量販店やユニクロなどが入っています。空港だけではなくて、周辺の人たちが来やすい施設をつくる流れは今後も続く」と指摘する。

■羽田エリア再開発

羽田空港も通過する場所から滞在する場所にしようと新しいタイプの商業施設の導入には意欲を見せる。すでに空港施設内にはホテルやゴルフラウンジ、貸し会議室、プラネタリウムカフェなどが導入されている。20年3月末から供用開始になる第2ターミナルの国際線施設では、スペースを有効活用するためにデジタル技術を活用した新しい形の免税店もオープン予定だ。

ロボットによる清掃や案内など空港内のサービスを検討する「HanedaRobotics Lab」を開設し、2016年度より活動している。

18年7月には日本空港ビルデングの副社長に、大西洋・前三越伊勢丹ホールディングス社長が就任した。これまでの百貨店事業などでの知見を活かして空港以外での新たな事業展開および利益の創出を目指す。さらに羽田空港を情報発信の拠点として活性化を図ることが大西氏のミッションだ。

日本空港ビルデングの鷹城勲会長兼CEOは「空港というハードを、航空機の離発着だけではなく、羽田空港という立地を活かして業態・業界を超えて使われる施設にするのがテーマです。一例を挙げれば、日本発の技術として期待がかかるロボット産業の展示など、新技術や新しいビジネスのプロモーションを羽田を使って実施する。また、海外へ視点を向ける『教育』も大事だと思っている。空港を起点に、海外で学ぶグローバル人材の育成に関するプログラムなども検討中だ。例えば海外から識者を招き、羽田で講義を受けて、海外で学ぶ意欲を喚起するというイメージ。内向きになっている日本の若者への刺激にしたい」と話す。

また、羽田空港周辺では2つの再開発プロジェクトも進む。京浜急行電鉄・東京モノレールが通る天空橋周辺の第1ゾーンでは、土地を所有する大田区と連携し、鹿島建設、京急、大和ハウス工業なども加わった再開発が進められている。22年をめどに開業する施設はオフィスや商業施設だけでなく、高度医療機能やアートを取り込んだ複合施設になる予定だ。日本空港ビルデングはこちらにも参画する。

また、第2ゾーンは、多摩川を挟んだ川崎市殿町との間が、20年度内に橋梁で結ばれることになっている。第2ゾーンにもまたホテルや商業施設などが開業する見通しだが、橋を渡った殿町でも「キングスカイフロント」と称される複合施設が建設の予定だ。約40ヘクタールにも及ぶこの羽田空港周辺の再開発エリアは、世界水準の研究施設やインキュベーション施設などを取り込み、背景にある大田区の製造機能とも連携しながらオープンイノベーションの拠点となることを標榜している。

羽田空港は今、航空機の離発着だけではなく、このような異業種とも連携した、情報発信拠点として生まれ変わろうとしているのだ。

羽田空港▼外部環境の変化に対応し、世界一になった羽田空港の歴史

■ロシア、モンゴルの空港も運営を支援

――社歴は半世紀とお聞きしました。

【鷹城】1968年に入社しました。当時の羽田空港は国際線と国内線、両方のターミナルをやっていました。成田国際空港の開業までは羽田が非常に忙しくて、1つのターミナルで、年間2000万人ものお客様が利用されていました。

――これまで羽田空港以外の立ち上げにも関わったそうですね。

日本空港ビルデング会長CEO 鷹城 勲氏

【鷹城】78年には成田空港が開港して、免税店や空港施設のメンテナンスなどについてお手伝いをしました。

その後、94年に関西国際空港ができたときも、大阪事業所を作って、私自身、総支配人を務めました。当社が請け負って免税店の運営をする形で関空のお手伝いをしました。

そのあと、中部国際空港ができて、そちらも一部お手伝いをしました。2005年ですね。だから羽田を中心に成田、関空、中部。こういうところの事業に協力してきた。

今は海外の空港からも多くの支援要請があります。すでにパラオの空港運営を手伝っていますし、これからロシア・ハバロフスク、モンゴル・ウランバートルの第2空港でも協力することが決まっています。

■今は羽田の第2のターニングポイント

――そして10年に羽田は再国際化します。

【鷹城】それが第2のターニングポイントですね。そしてインバウンドが急増し、それに対応して機能を強化しつつあるというのが現状です。国際化はさらに進展するでしょう。まだこれからも発着枠が確保できれば、もっと増強されていくんじゃないでしょうか? 今は、そういう段階に入っているところですね。

国際線で日本に来られて、国内線に乗り継いで地方に行っていただく。つまり羽田は国内最大のハブ空港としての役割を持っているわけですが、海外に向けては、羽田から日本の産業や文化などを情報発信していく拠点にもなると思います。そのような考えから、事業にそういうものを取り込んでいこうと、さまざまな努力をしているところです。

――例えば、どのような取り組みがありますか?

【鷹城】一例を挙げるなら、ターミナルでは単にものを売ったり買ったりするだけではなく、体験ゾーン的なものを入れて、ゴルフのレッスンが受けられる施設を造りましたし、さらには教育や文化に関わることにも使いたいと思っています。

羽田空港内で営業する(左)ゴルフラウンジ、(右)プラネタリウムなどを見ながら過ごせるカフェ。

私は7代目の社長でしたが、初代社長は、空港免税店を日本で最初に入れたり、国内初のレンタカー事業を始めたりと、非常にチャレンジ精神を持った方でした。

今、何度目かの大きな変化の時代にあって、やはり原点に返って、この羽田という舞台を最大限に活かせるようなチャレンジをしよう、とスタッフに声をかけているところです。

関西3空港▼大阪万博では関西3空港で、関西らしいサービスを提供します

■国際競争よりも訪日客の満足度を向上

――関西国際空港は2016年から民間資本の運営になりました。

【山谷】関西エアポートは、16年4月からの空港コンセッション(譲渡)の第1号として、オリックスとフランスの空港運営会社であるヴァンシ・エアポートとの共同で関西国際空港、大阪国際空港(伊丹空港)の運営を開始し、18年4月から神戸空港を合わせた3つの空港の運営を行っています。空港を株式会社化して運営するケースは以前からありましたが、政府が主要株主でした。関西エアポートは民間資本で経営する初めての取り組みです。

――空港間競争はどう捉えていますか。

関西エアポート社長CEO 山谷佳之氏

【山谷】関西国際空港については、営業収益が伸びていますから、いま伸ばせるチャンスをどうすれば最大限取り込めるかが、最も重要な課題であると考えています。空港の国際競争は、あまり意識していません。空港として仁川や北京などと比べられることも多いのですが、もしそういう競争を続けるならコンセッションという考えは成り立たないでしょうし、そもそも日本の場合は、それほど大きな空港規模の拡張はできません。経済成長のただ中にいる国と比較してもしかたないのではないかと考えています。

――関西圏の旅客需要について、見通しを教えてください。

【山谷】まだ伸びると見ています。30年にインバウンド6000万人という政府目標に向かって、この4、5年の大きな変化は、観光産業が日本各地で立ち上がって、8兆円を目指す大きなマーケットになると見込んでいます。

観光はサービス産業の塊です。関西の大阪や京都などには外資のホテルなどの大型ホテルが増えていますし、心斎橋も人が溢れている。それが世界に知られて、街も清潔で治安もいい、という評価が高まりプロモーションになる、という好循環が生まれました。

■日本の手荷物検査は効率が悪い

――インバウンド増に空港はどのように対応しますか。

【山谷】私たちが最も重視しているのは、サービス・レベルの向上です。例えば、ほかの空港に先駆けて「スマートレーン」という取り組みを始めました。ヴァンシから来たスタッフに「日本の手荷物検査は効率が悪い」と指摘されたことが発端ですが、世界の潮流は、前の人が検査に時間がかかっている場合、後ろの人が抜いていくことができる仕組みです。

(左)手荷物検査の効率を上げるスマートレーン。(右)航空会社を問わず手続きができるチェックイン機。

はじめ日本人のメンタリティだと、抜かされることに抵抗があるかもしれないとも思いましたが、それぞれのペースで進める利点がある。問題のある荷物はほかのレーンに行く、というシステムです。これによって、手荷物検査の効率は上がりました。もう1つ、19年夏の台風による被害の反省から、新しいBCP(事業継続計画)を導入しました。緊急時の連携体制を整備し、また1万2000人がフルに3日間空港に滞在されても大丈夫なだけの水とシュラフ(寝袋)を用意しました。

今後は顔認証のようなIT技術をチェックインに取り入れるなど、さらにサービス・レベルを上げていきたいと考えています。

20年の東京五輪に続き、25年には大阪万博が開催されます。それに向けて、効率化を進めながらも、関西らしいサービスを提供したいと考えています。

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戸崎 肇
桜美林大学教授
1963年、大阪府生まれ。京都大学経済学部卒業後、日本航空に入社。京都大学にて博士号(経済学)取得。明治大学、早稲田大学、首都大学東京教授などを経て、2018年より現職。
 

鷹城 勲
日本空港ビルデング会長CEO
1943年、徳島県生まれ。青山学院大学卒業後、日本空港ビルデングへ入社。95年取締役、2003年に代表取締役副社長、05年に代表取締役社長に就任。16年より現職。
 

山谷佳之
関西エアポート社長CEO
1956年、大阪府生まれ。神戸大学卒業後、80年にオリエント・リース(現オリックス)へ入社。オリックス信託銀行などグループ会社の社長を務め、2015年オリックス副社長。同12月より現職。
 

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(間杉 俊彦 撮影=研壁秀俊、土屋 剛)

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