「恋愛はスキップして、"三平"と結婚したい」婚活アプリが流行るワケ
プレジデントオンライン / 2020年2月6日 9時15分
※本稿は、有薗隼人『[婚活ビジネス]急成長のカラクリ』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
■「みんなもやっているから大丈夫」という風潮
今、「婚活産業(ビジネス)」は急速に成長しています。とはいえ、既存の結婚相談所関連事業の売り上げが、突然伸びたというわけではありません。成長の原動力となっているのは、いわゆる「マッチング(恋愛婚活)アプリ」の急速な普及です。
婚活関連の業界最大手のIBJの決算説明資料(2018年12月期)によれば、同アプリの潜在市場規模は1兆円にのぼると試算しています。2015年の国勢調査の結果を見ると、結婚適齢期(20~50代)の未婚男女の数は約1984万5000人と莫大な数になっていますので、この潜在市場規模を超える可能性もあります。
日本では過去にも、インターネットの普及に伴い、男女の出会いを斡旋(あっせん)する「出会い系」のアプリやサイトが流行しました。しかし、これらを利用する際、「身バレ(自身の身分や素性がバレること)」の危険性が高いことから、顔写真や実名を公開する人は少なく、利用することに抵抗があるという人も多く見受けられました。
ところが近年では、フェイスブック(Facebook)やインスタグラム(Instagram)といったSNSの影響もあり、ネット上での顔出しに対して「みんなもやっているから大丈夫」という風潮が生まれています。結果、「タップル誕生」や「ペアーズ」など、顔出しの婚活アプリが多くの人に受け入れられるようになったのです。
■マッチングアプリ市場、1年間で成長率163%
グローバルモバイル市場分析サービス「モバイルインデックス」のデートアプリ市場分析レポートによると、2018年の恋愛婚活アプリ市場の売り上げ規模は、168億2000万円。結婚相談業・結婚情報サービス業全体の市場規模は、500億~600億円と言われており、実に3分の1の売り上げを婚活アプリが占めていることになります。
同年1月の単月売り上げは10億7000万円だったのに対し、この年最高月額を記録した10月の単月売り上げは17億5000万円にまで到達しており、マッチングアプリ市場は、1年間で成長率約163%を記録しているのです。
つまり、婚活アプリの盛り上がりこそが、婚活産業の急速な盛り上がりにつながっているとも言えるでしょう。もちろん、人との縁を取り持つという関係上、これまでの「出会い系」との線引きは難しいのですが……。
また、婚活産業の成長を語る上で、売り上げ以外にも注目すべき点があります。それが、参入企業の動向です。
■8人に1人が婚活サービスで結婚
2015年には、お見合いから婚活パーティーまで、婚活に関するあらゆるサービスを提供してきたIBJ(「日本婚活相談所連盟」を運営)が東証一部に上場。また、エン・ジャパン(「エン婚活エージェント」を運営)やオーネット(運営元である楽天が2018年12月に全株式譲渡を行い、同月よりポラリス・キャピタル・グループの傘下に)など、婚活産業に進出する上場企業も増えてきています。
有力企業の多くが婚活産業に乗り出した背景としては、テレビCMの解禁も大きいでしょう。一時期は、個人情報などの観点から国の規制がありましたが、少子高齢化や晩婚化の影響もあり、2014年に解禁。さらには、国や地方自治体によって助成金が支給されるまでになりました。実際、2016年には婚活産業に対し、広告費用として多額の助成金が出ていたとも言われています。
リクルートブライダル総研によれば、2018年に結婚した人のうち8人に1人が婚活サービス(結婚相談所、アプリなどネット系婚活、婚活パーティーなど)を通して結婚していることが判明しました。こうしたアプリの流行やCM効果などを通じて、婚活ビジネスはなお一層盛り上がりを見せるようになったのです。
■独身者の76%は「結婚はしたい」という願望を持つ
婚活産業の躍進、ひいては婚活意識の高まりの要因のひとつに、“結婚の自由度”が高まったことが挙げられます。それは、NHKが数年ごとに実施している意識調査の結果の変化に如実に見えてきます。
同調査で「結婚するのは当たり前」か、という質問に対して、1993年の時点で「賛成」と答えた人の割合は44.6%でしたが、2018年には26.9%にまで下がっています。これは、ひと昔前まであった「結婚することで一人前」という、社会的な同調や圧力が大幅に減少したという表れとも言えるでしょう。
一方で、「周囲からの結婚すべき」という圧力が減ってもなお、若者の結婚願望は依然として高いままです。内閣府が発表した少子化社会対策に関する調査(平成25年度「結婚していない人の、結婚する意志について」)によると、39歳以下の未婚の男女では「いずれは結婚したい」人が45.1%、「2~3年以内に結婚したい」人が16.8%、「すぐにでも結婚したい」人が14.6%となっていました。つまり、現在結婚していない人でも、76%以上の人たちは「結婚はしたい」という願望を持っているのです。
■結婚はしたいけど、交際はしたくない
ただ、婚活アプリを利用する人たちの話を聞いていると、「結婚したいのではなくて、パートナーが欲しい」「結婚したほうが、お金が浮くしおトク」という考えの人も多くいるように思います。確かに一緒に住めば家賃の支払い額は減るでしょう。結婚は若者にとって、合理的です。
しかし、“結婚の前提条件”となる「交際」に関していうと、「したくない」という人が意外に多いようです。厚生労働省の調査(平成25年度「厚生白書」)によると、異性との交際を望んでいない割合は、男性が28.0%、女性が23.6%と、意外と高い数字を示しています。
その理由としては、「趣味の時間を大切にしたい」という回答が目立ちました。実際に婚活アプリの利用者に話を聞いてみても、自分のお金や時間を特定の相手に拘束されることへの忌避感や、別に付き合わなくても普通にコミュニケーションが取れると考えている人が予想以上に多いのです。
■お見合いに代わる新しい選択肢に
ちなみに、特定の異性と付き合いたくない理由の中には「趣味や仕事の邪魔になる」「恋愛をするのが面倒」というのも上位に挙がります。これらは、現実(リアル)の生活が充実している、いわゆる“リア充”な人たちの考え方なのではないかと思います。
こうしたリア充志向の人たちが増えている一方で、単純に「異性とうまくコミュニケーションが取れない」という人も当然のようにいます。90年代頃の若者は、うまく異性と付き合うことができずとも、一定の年齢に達すると職場や親族によるお見合いの機会がありました。
しかし、近年では職場でも「結婚するの? 相手はいるの?」などと聞けば、セクハラ扱いされてしまう可能性があり、紹介しづらい雰囲気が生まれています。
つまり、自力で交際相手を探すためには、一定のコミュニケーション能力が必要不可欠になったのです。こうした人たちの増加によって、身近で仲良くなり、付き合うという行為をスキップし、結婚相談所や婚活アプリを活用して出会いをつくろうとする人が増えたのではないでしょうか。
■女性が求める結婚相手は「三高」から「三平」へ
バブル時代の女性が結婚相手に求めていた高学歴・高収入・高身長という要素は「三高」と呼ばれ、この条件に該当する男性を夫にすることが、一種のステータスとされてきました。バブル期の女性たちは、結婚に対して配偶者となる人物のブランド力や「中身」を求めていたのです。
ところが、こうした条件を満たす未婚男性というのは、存在自体が稀(まれ)です。大部分の人は身分相応な相手と結婚しますが、中には理想が高くて妥協できずに未婚のまま年を重ねてしまったというケースもあります。
私は以前、63歳で未婚の女性から相談を受けたことがあります。彼女は「相手の年収は最低でも800万円以上がいい」など、理想が非常に高く、困ってしまいました。バブル時代の「三高」信仰を引きずっているパターンです。
■「三平」を求める層は男女合わせて78%
一方、女性が社会進出するようになった近年では、結婚相手に求める要素は変わってきました。女性自身が収入とステータスを得られるようになったことで、男性にすべてを任せるよりも、一緒に生活して気楽な相手を求めるようになったのです。
年収や学歴や身長が高くても、家のことは一切してくれないという男性よりは、収入やルックスはそこそこだけど一緒に家事をやってくれる「三平(平均的な年収・平凡な外見・平穏な性格)」のほうがいい、という風潮が高まってきています。
実際、結婚相手紹介サービス「ノッツェ」を運営する結婚情報センターが2012年に結婚相手に求める要素を調査した結果、「三高」を求める人は全体で1割を切ったのに対して、「三平」を求める層は男女合わせて78%にも上りました。
■女性たちが選ぶ男性像が大きく変化している
こうした風潮の変化によって、女性たちが結婚相手に選ぶ男性の年齢層にも変化が見られるようになりました。結婚相手に高収入を求めてしまうと、どうしても自身よりも年上・目上になりやすい。そうなると、夫婦間に上下の関係性が生じやすくなります。
しかし最近の女性は、自分よりも立場が上の夫を求めているわけではありません。そうなると、昔に比べて同年代の男性を選ぶ人が増えているというわけです。また、結婚相談業にも参入している前出の人材会社のエン・ジャパンの調査によると、87%の女性が「結婚しても仕事を続けたい」と答えています(2019年)。
そのため、産休制度がしっかりとしている会社への就職を希望する女性が多いようです。逆を言えば、子どもができた後、夫の収入のみに頼ろうという女性は減っているわけです。
ちなみに、男性側は依然として自分より若い女性を選びたがる傾向があります。女性たちが選ぶ男性像が大きく変化しているのに対して、男性たちは結婚相手に求めることに大きな変化がない。そこにはちょっとした見栄や下心があるのかもしれません。
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GEAR代表取締役
青山学院大学卒業後、新卒でGMOインターネット株式会社に入社。2011年に株式会社GEARを設立。2017年より婚活事業への取り組みを開始。婚活情報ポータルサイト「ミラコロ」や結婚相談所「ミラージュ」の企画・運営を手がける。
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(GEAR代表取締役 有薗 隼人)
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