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32歳NTT東日本"元サボリーマン"が組織のイカれた人を集めた理由

プレジデントオンライン / 2020年2月6日 15時15分

山本さんが共同代表を務める「ONE JAPAN」では年に一度、オープンカンファレンスを開催。2019年9月29日の「ONE JAPAN CONFERENCE 2019」には大企業、スタートアップの社員を中心に1200人が会場に集まった - 写真=山本さん提供

大企業の持つアセットを活用しベンチャー企業と一緒に事業を創る。NTT東日本の山本将裕さん(32)は、そんな新規事業を立ち上げ、取り組んでいる。順風満帆の会社員人生にみえるが、山本さんはかつて仕事にやりがいを持てない“サボリーマン”だった。そんな山本さんを変えたのは「組織のイカれた人を集めたこと」だという――。

■2年間、2000人との出会い

新卒でNTT東日本に入社した山本さんは最初に配属された宮城県石巻市で2011年3月11日を迎えた。東日本大震災で大きな被害を受けた被災地の一つであるこのエリアで震災直後から復旧活動のために走り回ったとき「会社の事業が生活に不可欠なインフラであることを再認識」し、「NTTでの仕事は一生をかけるに値する」という想いを新たにした。

宮城支店に異動後も、復旧を前に進めるために精力的に取り組んだ。高齢者の見守りにICTを活用するサービスなどの一連のプロジェクトは国内のみならず海外からも注目を集めて、一躍社内の有名人に。その後、27歳で本社の花形部署であるビジネス開発本部への異動が決まり、本人いわく「自信満々で」東京に戻ることとなった。

「新しい事業を起こしてやる」

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ところが、そこで待っていたのは大企業の縦割り組織の中で、自分の声が誰にも届かないという現実だった。連日の社内調整会議、上司のための資料作り。新しいことを始められそうな可能性はみじんも感じられなかったという。

そんな状況は、やる気満々だった山本さんを昼間の売店で時間を潰す“サボリーマン”に変えた。可能な限り早く会社を出て飲み会に直行する日々が続いた。社外に出ると、仕事の話を楽しそうにする大企業の若手社員と会うようになる。いつからか「知見と人脈を誰よりも高めてやる」と考えるようになっていた。

この時期、山本さんはさまざまな社外交流会に参加し、2年間で2000人と出会っている。その中で、後に山本さんの行動を大きく変えることになる一つの出会いがあった。

■「辞める」か「染まる」か「変える」か

NTT東日本ビジネス開発本部 第四部門 コラボレーション担当の山本将裕さん。2015年、NTTグループを横断する有志組織「O‐Den」を立ち上げる。2016年大企業中堅若手有志団体「ONE JAPAN」共同発起人となる。

“社外活動”の一環で参加したあるイベントに登壇していたのが、「One Panasonic(ワンパナソニック)」という若手の有志団体を社内に立ち上げて交流会や勉強会などの活動を行っていたパナソニック(当時)の濱松誠氏だった。

「仕事はもっと楽しくできる。若手でもたくさん集まれば、会社に働きかけることができるという話が衝撃的でした」

大企業では、社員同士が部署を超えてつながるだけでも大きな価値がある。特殊なスキルがなくても、社内の人との関わりを増やすための懇親会を企画することならできる。すぐにでも始められる。大企業がもつ閉塞感、自分の無力さへの怒りのあまりくすぶっていた気持ちが、再び前を向いて大きく動き出したのは、このときだった。

「会社を『辞める』か『染まる』か『変える』か、という濱松さんの言葉が決定打でした」

その日の夜に山本さんが書き上げたのが、のちにNTTグループ全体に横串を通すほどにまで発展する「O-Den(おでん)」という「ゆるくつながる」ための活動の原案となる企画書だった。

■「最近、ワクワク働いていますか?」

「O-Den(おでん)」という名前は「One電電」をもじったもので、「en」には「縁」、「-」には「横串」の意味が込められている。

特別なビジョンやコンセプトは決めずに、「ゆるくつながって前向きな話をする」ための草の根飲み会からのスタートだ。NTTには約1000社のグループ会社があり、28万人が働いている。「まずは、会社内の誰かとつながるだけでもいい」――自ら声をかけて集めた初回の参加者は9人だった。山本さんは、「O-Den」の活動への参加を呼び掛ける際に、いつもこの言葉を投げかけるという。

「最近、ワクワク働いていますか?」

どうせ仕事をするなら、ワクワク働きたい。そのための仲間をつくりたい。それが「O-Den」の活動の目指すものだ。

社内のメーリングリストを使って「興味のある人は誰でも参加してください」というメンバーの募り方も可能ではあったが、あえてそうしなかった。最初は山本さんが1人ひとりに声をかけ、地道にふやしていった。そのうちにメンバーの口コミでも参加者は増え続け、最近では一回のイベントで50~100人が集まるほどにまで拡大している。

山本さんは彼らを「くすぶっている若手、モチベーション高い人、イカレてる人の集団」と表現する。

■土日の開催で、子育て世代もとりこぼさない

写真=山本さん提供
山本さんが主宰するNTTグループの有志団体「O-Den」の様子。毎回のテーマを設けた勉強会・イベントはNTTグループの垣根を越えて集う場になっている - 写真=山本さん提供

「O-Den」の活動には、今や、若手だけでなく40代以上の社員や役員クラスの参加も見られるようになった。幹部クラスの社員との交流は、若いメンバーにとっては刺激的かつ非常に有意義なものだ。また、ゆるくつながるだけではなく、テーマを決めて社内外で活躍している人を講師に招いての勉強会も行っている。

平日の夜だけでなく、時には休日の昼間に開催することもある。会場の近くに子ども部屋を用意してシッターを雇い、子育て中の社員が子どもを預けて気兼ねなく参加できるようにという配慮は、山本さん自身が子育て世代の真っただ中にいるからこその発想だ。

「シッターに預けられるならと、ママ社員が安心してO-Denに参加できるという場合もあるし、僕みたいにパパ社員が子どもを家から連れ出して参加すれば、たまの息抜きができて奥さんが喜んでくれます(笑)」

東京での開催に、北海道や東北からも人が集まる。「O-Den」がなかったら、辞めていたかも……という声も多いという。「これだけの熱量がある人が社内にいっぱいいることをO-Denに参加して初めて知った」という若手社員たちにとっては「互いに刺激を与え続ける場所」として、なくてはならないものになっているのだろう。

「O-Den」には、退職した元社員の参加も認めている。また、そこから派生した「O-Den 20’s」という20代の会もある。「邪悪な目的さえなければあとは自由です」と山本さんはおおらかに笑う。

■会社を超えてつながる「ONE JAPAN」の立ち上げへ

「O-Den」の活動は、NTTグループ内に着々と「串」を通していった。上司と部下、先輩と後輩をつなぐ「縦」の関係、同期同士の「横」の関係、さらには所属部署を超えての「斜め」の関係。大企業の中でくすぶっていた若手社員たちは、つながることで「ワクワク働きたい」という想いを「あきらめない」ことを選んだのだ。

さらに、この活動は発展していく。「O-Den」のアイデアのきっかけとなる言葉をくれた濱松誠氏(パナソニック=当時)らとともに、2016年には会社を超えて大企業の若手中堅有志社員の実践コミュニティ「ONE JAPAN(ワンジャパン)」を立ち上げた。設立時の参加企業は26社、120人。現在は50社、1700人にまで拡大した。

「ONE JAPAN」では、月に一回の会議、年に一回の総会などの集まりを通じて互いの会社で行った活動の経験を失敗例も含めて共有している。また、会社という枠を超えたオープンイノベーションやコラボレーションも実現してきた。

例えば2018年の総会は「モノ・サービス博」というテーマで開催。参加企業各社がイチオシの商品やサービスを展示し、互いにプレゼンを行った。そこから生まれたのが三越伊勢丹と富士通のコラボによる「CARITE(カリテ)」というスマホのアプリを使った洋服レンタルのシェアリングサービスだ。「大企業同士のオープンイノベーションや枠を超えた取り組み」に非常に高い関心と注目が集まっている。

■「サラリーマン人生、終わらせるぞ」と言われても

「ONE JAPAN」に参加する人たちには3つのユニークネスがある。一つ目は、大企業の有志団体であること。二つ目は、ボトムアップの活動であること。最後は、個人参加ではなく必ずチームを組んで団体で活動していることだ。

山本さんいわく「大企業は経営者以外の個人では変えられない」。だからこそ、社内に有志団体をつくることが必要なのだ。そのための仕掛けが、NTTでは「O-Den」であり、パナソニックでは「One Panasonic」だった。大企業の中で硬直化した組織を変えていきたいという若手社員の活動は、歓迎されないことも多い。参加者の中には、会社の人事部から「サラリーマン人生、終わらせるぞ」と脅された者もいるという。

組織の中で一歩踏み出した若手社員の事例集であるONE JAPAN『仕事はもっと楽しくできる』(プレジデント社)。第一章に”サボリーマン”時代から仕事が激変するまでの山本さんのエピソードも収録する。

「参加者の中には、大企業への、自分への憤怒をエネルギーにしているものもいる」

山本さんは、かつての自分もそうだったと振り返る。

「でも、O-Den、そしてONE JAPANの活動によって、ちょっとずつでも変わってきた。少なくとも、前向きのことをやる人にはなれるはずです」

「ONE JAPAN」のこれまでの活動は、2018年に一冊の本にまとめられている。その中には、ONE JAPANのメンバーが会社を今より楽しく働きがいのある場所に変えていくために行った様々な事例が「ベストプラクティス」として集められた。それらを有志活動で結果を出すための手法として共有している。

■集うことで、熱量が上がる。そして、続いていく

現在は年一回の開催となった「ONE JAPAN」のカンファレンスには、1000人規模の人が集まる。この総会に限っては会員である大企業以外にも門戸は開かれており、前回はスタートアップ企業などからも200人ほどが参加した。

総会は、休日の日中に始まる。全員が一堂に会することができる大会場では「大企業でイノベーションを起こすために必要なこと」「挑戦するカルチャーをつくるために個人と企業ができること」といったテーマで丸一日トークイベントが組まれている。

それとは別に「自己変革の小さな一歩の踏み出し方とは」「有志組織を立ち上げた5人だからわかる! 自分と組織を変える、はじめの一歩」といったより具体的なテーマでのセッションが行われる複数の小会場があり、参加者は会場を回遊する。

登壇者には、著名な学者や経営者、起業家、投資家などが名を連ね、有力経済団体主催のイベントかと見まがうほどだが、参加者の8割以上が係長以下の若手だ。

「参加者の大半は、30代前半です。ボトムアップで何かを実現しようとする志のある人たちが集まってくる」

いわゆる企業の研修やセミナーとの一番大きな違いは、単に知識を仕入れたり勉強したりすることを目的とした場ではないことだ。それよりも、参加者が互いに刺激を与えあって「会社を変えていくぞ、自分が実現したい未来を作るぞという参加者の熱量を上げる場だ」と、山本さんは言う。

そして、その上がった熱量を、それぞれが会社に戻ってからも維持するためには、社内に仲間が必要だ。

「大企業から挑戦の文化を作るには、長い年月がかかります」

学生時代の熱量が残っている新入社員や若手社員を巻き込んで、「熱量がなくなる前に熱量を高め続けたい」、そして「空気を作っていきたい」という山本さんたち若手中堅社員有志のチャレンジは、これからも続いていく。

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山本将裕
NTT東日本/ONE JAPAN共同発起人・代表
1987年東京生まれ。2010年NTT東日本に入社。翌年、宮城県石巻支店で東日本大震災を経験。その後、仙台で法人営業にて高齢者向けIoT見守り事業に従事。2014年より本社ビジネス開発本部へ異動。2015年、NTTグループを横断する有志組織「O‐Den」を立ち上げる。2016年大企業中堅若手有志団体「ONE JAPAN」共同発起人となる。2016年経産省のイノベーター育成プログラム「始動」2期生。2017年よりNTT東日本アクセラレータープログラムの立ち上げ、数々のベンチャー企業との協業による新規事業創出を手掛けている。

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白鳥 美子(しらとり・よしこ)
ライター・放送作家
リクルートコスモス(現・コスモスイニシア)、ベンチャー企業の経営者をサポートするコンサルティング会社を経て、現在はビジネス書を中心にライターとして活躍。京都市出身。

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(ライター・放送作家 白鳥 美子)

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