ラグビー部出身の凄腕営業部長「道ゆく人に家を買ってもらう方法」
プレジデントオンライン / 2020年3月17日 11時15分
■路上で本音までたどり着く超絶技巧
営業のハイパフォーマーたちは、顧客の話に注意深く耳を傾ける。質問を投げかけ、相手の状況を正確につかもうと努める。相手のニーズがつかめれば、それに応える提案ができるからだ。なかには、商談時間の7~8割は顧客が話しているというくらいの質問上手もいる。「営業力≒質問力」と言いたくなるほどだ。本格的なAI時代を迎えても、“聞く力”は求められるに違いない。
7期連続で過去最高益を更新するなど業績好調のオープンハウスにも、質問上手で知られる営業担当者がいる。営業本部神奈川営業部長の石井彰太郎さんだ。
石井さんは2014年に他業界から中途入社し、笹塚、吉祥寺、赤羽、池袋、中野、渋谷の営業センターを経験。入社から間もなく、当時200人いた営業担当者のなかでトップの成績を収めた。それ以降、年4回ある社内表彰では常連の1人となっている。最初に配属された笹塚でマネジャーに昇進してからは、個人成績とチーム成績の両方で表彰されることもあった。平均すると半年に1度のペースで異動し、そのたびに部下の数は増えていく。
中野と渋谷ではセンター長(店長)を務め、店舗売り上げでもトップを収めて表彰された。現在は、神奈川県全域の12店舗を統括し、150人以上の部下がいる立場だ。実力主義の営業部とはいえ、これだけのスピード出世も珍しい。
その実績を聞けば、抜群の営業スキルがあることは想像できる。若い時期によほど高度な営業教育を受けたのかと思えば、そうではないという。むしろ、独学だ。
■セールスの教育は受けたことがありません
「大学卒業後に就職したのはゴルフ場の運営会社でした。フロント業務やキャディーの仕事で接客には慣れていたものの、営業マンではありませんからセールスの教育は受けたことがありません。オープンハウスに入社してからも、業務の基礎を簡単に教わった程度で、すぐ現場へ出されました」
同社の販売スタイルは、住宅物件がある街へ出て、道ゆく人たちに声をかけるのが基本。駅前などで「こんにちは。この近所で住宅をご紹介しているのですけど、いまお時間ありますか?」と呼び止められたことはないだろうか。あのスタイルだ。
石井さんは、自分で試行錯誤するなかでスキルを高めていった。その中心にあるのが質問力&傾聴力だ。
道ゆく人に声をかけ、住宅購入を検討してもらうには、短時間で信頼関係を築き、住まいと暮らしについてのニーズを聞き出すことが重要になる。経験がない者にはかなり高いハードルに見えるが、石井さんはどのようにアプローチしているのだろうか。
「最初のコンタクトで心がけることはいくつかありますが、一番は“馬鹿になる”です。馬鹿げたことを言って笑わせる、という意味ではありません。自分はお客さまのことを何も知らないのだから、謙虚な気持ちでそれぞれのご事情を聞かせていただく。こちらは不動産のプロだからいろいろ教えてやると、見下す態度はもってのほかです」
たしかに情報を持っているのをいいことに“上から目線”で接客する不動産業者はいる。石井さんの接客マインドと比較すれば、「自分はプロだ」というプライドが墓穴を掘っているようなものだ。
「お客さまのためにいつでも汗をかく人間だとわかってもらいたいんです。上から目線で意見を言うのではなく、一緒に考えていきましょうとお客さま目線に合わせる。実際に汗をかいて、年上のお客さまなら『こいつ、一生懸命でかわいいやつだ』と思ってもらえると、信頼関係ができて、本音を聞かせてもらえるようになります」
石井さんがいう“馬鹿になる”は、信頼関係の構築に欠かせないマインドの表明であることがわかる。
初対面の相手でも「近くにお住まいですか?」「いまお仕事中ですか?」など、イエスかノーで答えられる質問を5つほどつづけると、少しほぐれてくるという。そこから「いまお住まいのところは賃貸ですか?」と核心に入っていくのだ。
■いかに共通の話題を投げ掛けられるか
お客さまに心を開いてもらうための秘訣はほかにもある。
「お互いの共通点を見つけることです。いま住んでいる場所や勤務地、出身地、出身校……どんな小さなことでも構いません。何か1つ共通点を見つけたら、そこから話題を広げていくことができます。たとえば『お休みの日は何をしていますか?』から趣味や友人関係の話に発展することはよくあります」
石井さんは、明治大学のラグビー部の出身。学生時代に他大学の友人も多かったので、大学名を聞けば「キャンパスに遊びに行ったことがありますよ」とすぐ話題を広げられる。昨年はラグビーW杯が開催されたので、ラグビー経験者やラグビーファンとは話題が尽きることはなかったという。
子ども連れの相手には、まず子どもの話題だ。石井さんは独身だが、共通点がないわけではない。
「赤ちゃんなら『かわいいお嬢さんですね』と話しかけます。男の子だとしても、『あんまりかわいいから、女の子かと思いました』と話す。これも、“馬鹿になる”ですね。それからお子さんの名前を尋ねます」
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/3/450/img_23724aebb5ec71934b068da10ecca481598069.jpg)
■初対面で「子どもの名前」を聞く理由
名前は共通点が見つけやすい。自分と同じ字があるか、同じ名前の知り合いはいないかと考えを巡らせる。まったく共通点がないときは、その名をつけた理由を尋ねる。
「みなさんいろいろ考えて名前をつけたはずですから、話すことはたくさんあります。私の名前を親がつけた由来も話します。相手のことを尋ねるだけでなく、自分のことも積極的に話します。そうやって自己開示することで、信頼関係はさらに深まります」
子どもが自分で話せるぐらいの年齢なら、本人に名前を尋ねる。石井さんは、自前のiPadに子どもが好きそうなアプリや動画を準備してあるので、子どもがそれに見入っているうちに親のほうに、現在の住まいについていろいろ質問するという。買い物中の母親なら、「近くの○○スーパーは安いですよね」と話したあと、現在の家賃を尋ねる。「月々10万円も払っていたら、スーパーで安くお買い物しても追いつきませんね」と話を展開するのだ。
「私は社内研修の講師も務めていますが、質問力をつけるには場数が大切だと教えています。ふだんから意識的に質問することで、そのスキルは向上します」
効率よくスピーディに情報を得るための質問力は、日々の意識的な反復によって身につけていくということだろう。
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オープンハウス営業本部神奈川営業部長
1988年、東京都生まれ。明治大学法学部卒業。2014年にオープンハウスへ入社。明治大学ラグビー部では、現日本代表の司令塔を務めた田村優と同期。
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ビジネス分野を中心に、雑誌記事の執筆や単行本編集を手がけるフリーランス集団。特に経営者の著書で多く実績が認められている。
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(Top Communication 撮影=今村拓馬)
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