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社員9割外国人、武田薬品社長から見た「日本人」の長所と短所

プレジデントオンライン / 2020年2月24日 11時15分

武田薬品工業代表取締役社長CEO クリストフ・ウェバー氏

6.2兆円のシャイアー巨額買収で世界トップ10に食い込んだ。今や社員の9割は外国人。グローバル化した「世界のタケダ」を率いるフランス人社長、クリストフ・ウェバー氏は、日本人をどう見ているのか。

■シャイアー買収、NY上場で世界企業に

武田薬品工業は2018年12月にニューヨーク証券取引所に上場し、翌月の19年1月には日本企業史上最高額の6.2兆円を投じてアイルランドの製薬大手・シャイアーを買収。製薬会社の売り上げで世界トップ10の仲間入りを果たした。

今や世界に80拠点を持ち、社員5万人を抱え、そのうち外国人社員が9割を占めるグローバル企業である。

だが14年に社長、15年にCEOに就任したクリストフ・ウェバーCEOは、今なお江戸時代の創業時から受け継ぐ価値観(タケダイズム)を重視した経営を推し進めている。真のグローバル企業とはどのようなものか。そこで働く人やリーダーに求められるものは何か。クリストフCEOに尋ねた。

――ニューヨーク証券取引所への上場とシャイアーの買収から1年が過ぎました。買収前と後では何が変わったのでしょうか。

買収後、当社の米国での事業は以前の3倍の規模になり、1カ所しかなかった製造拠点は7カ所に増えました。そのことで米国市場でのプレゼンスは格段に高まりました。これは我々の戦略上とても重要なことです。特に世界のライフサイエンス研究のハブである米国ボストン地域において、我々が最大の雇用主になったことは、米国におけるタケダの存在感を格段に高めたと感じます。それによって各種研究機関とは引き続きよいパートナーシップを保つことができ、バイオテック関連企業やスタートアップ企業とも提携しやすい環境ができました。

米国は新しい医薬品が最も早く使用される国ですから、当社のようなR&D(研究開発)主導の会社にとっては、この地で強いプレゼンスを持つことが非常に重要です。

ニューヨークでの上場に関して言うと、世界を代表する製薬会社は大抵米国に上場していますから、それらの世界企業と同じレベルでタケダを認識してもらえることは競争力を高めるうえで重要です。その意味で米国での上場は我々の戦略上、必須でした。また日本で株式を購入できない人に代替案を提示することも、シャイアー買収における重要な要素でした。とはいえ時価総額の過半数は東京にありますから、我々にとって1番は東京市場であり、米国は2番という位置づけです。

■タケダの創業精神は海外でも通用する

――買収を決定した当初から、統合作業は1年以内に終えると公言していました。現在の進捗状況はいかがでしょうか。

世界の医薬品企業売上高ランキング

人の配置に関しては、現在(19年12月中旬)までに95%を終えています。ただ各国での法人統合については、細かい手続きが必要でもう少し時間がかかります。

――これほど大規模な組織と人の統合作業を1年足らずのスピードでやり遂げられた要因とは何でしょうか。

当初から極力、早く2社を組み合わせることを目指していました。そのために1年前から新しい組織デザインの検討を始めていたのです。ですから統合にあたっては準備していたデザインに基づいて進めていけばよかったわけです。

我々が最も重視したのは、単に違う組織を加えるのではなく、新しく1つのチームをつくること、ワン・タケダをつくることでした。先ほど95%が終わったと申し上げましたが、それは、「新しいタケダ」のチームがほぼできあがったという意味です。世界中のシャイアーのロゴマークはタケダのものに変わりました。日本企業がM&Aをする場合、こういうやり方はあまりないと思います。

――今回の統合で全社員の9割が外国籍となり、執行役員クラスで構成されるタケダ・エグゼクティブ・チーム(TET)も11カ国に及ぶ国籍のメンバーで構成されています。にもかかわらずCEOは東京にグローバル本社を構えるなど、日本企業としてのアイデンティティを重視されています。

日本の会社であるかどうかの切り分けに、社員の国籍の比率を用いるのは正しくありません。会社の国籍を決めるのは、ホームベースと歴史です。どこにヘッドクォーター(本社)があるのか、またその会社の価値観がどこから来ているものなのかが重要なのです。

2018年7月にオープンした武田グローバル本社(中央区日本橋本町)。本拠地は日本であることをアピール。
2018年7月にオープンした武田グローバル本社(中央区日本橋本町)。本拠地は日本であることをアピール。(時事通信フォト=写真)

タケダは1781年に日本で創業した日本の会社であり、そのことがタケダという会社を決める要因だと私は考えます。ですからタケダでは世界のすべての社員が、誠実、すなわち公正、正直、不屈という創業時から受け継ぐ4つの価値観(タケダイズム)を大事にしています。

新しく入社する人、特にリーダー層にはこの会社の価値観を事前に伝え、合意してもらえるかどうかを確認します。また海外で新しいマネジャーが入社した場合、「グローバル・インダクション・フォーラム」という入社研修を日本で1週間受けてもらい、タケダの価値観を学んでもらいます。今回の統合に際しても、多くのインダクション・フォーラムを実施しました。研修を受けたマネジャーが自国に戻って現場に伝えることで、組織の隅々までタケダの価値観を浸透させたいと考えています。

■タケダの社員が優れた人たちで、彼らをリスペクトしている

――日本の伝統に基づいたタケダイズムは、グローバル企業の根幹となりえるのでしょうか。

私はそう考えています。会社には価値観が必要ですし、目的が必要です。ただほかの国のカルチャーでは、タケダイズムの内容は捉えづらいかもしれません。ですから並行して、患者、信頼、レピュテーション、ビジネスという、行動と判断の基準となる「優先順位」を設けています。この優先順位はタケダイズムをより理解しやすいよう、別のディメンションでかみ砕いたものです。患者さんに対して正しいことをすれば、社会の信頼が醸成され、会社のレピュテーション(評判)がよくなり、それにともなってビジネスもついてくる、という流れです。この価値観をシェアするために、世界各国でトレーニングを実施しています。

――CEOは意思決定をする際、さまざまな人の意見に耳を傾け、参考にすると聞きます。その意図を教えてください。

ご指摘の通り、私は様々なプログラムを通じて、マネジャー、リーダー層ほかいろいろなレベルの人と話し合う機会を設けています。日本でも月に1回、定期的に「ラウンドテーブル・ミーティング」という小規模のグループディスカッションを実施しています。そうした場所で聞いた意見をインプットして、意思決定を行うのです。

その理由は、まずタケダの社員が優れた人たちで、彼らをリスペクトしているからです。私は常にベストではありません。会社のことをすべて知っているわけでもありません。コミュニケーション部門、研究開発部門、製造部門と各分野に私より優れた人がいます。そうした人の意見を聞くことは、私の仕事である「明確な意思決定」をするうえで欠かせません。それが私のスタイルなのです。ときには、コンセンサスがない形で意思決定をすることもありますが、全体の5%程度にすぎません。

■日本人独特の反論の言葉遣い

――社長就任から5年半が経ちます。日本の企業とりわけ組織や人について、どんな印象をお持ちですか。

日本の会社はほかの国とはかなり違うと感じます。ほかの国ではジョブホッピングをするため、企業間でのカルチャーの差はあまり浮き出てきませんが、日本ではもともと終身雇用がベースになっているので、会社ごとに独自のカルチャーを持っています。

もう1つは、日本の若い人が自分の意見をあまり言わないということです。目上の人に対しての敬意が強いため、意見が言いづらくチャレンジもできないという状況が往々にしてあります。日本では私に「あなたは間違っている」と直接言ってくる人はまずいません。「別のアイデアを見てはどうでしょう」という言い方が、同じ意味で使われますね。でもアメリカ人なら堂々と、「それ、間違っていますよ」と直接的に言ってきます。また日本の会議ではこちらから「どう思いますか?」と聞かなければ意見を言ってくれませんが、アメリカではこちらが尋ねなくても、勝手に意見を言います。

日本の人たちもそれぞれ意見を持っているはずですから、それを表明できたり質問できたりする環境が整えば、非常によい変化をもたらすだろうと思います。

――そうした特性も要因だと思いますが、日本人はグローバル企業のリーダーにはなりにくいイメージがあります。CEOはどのような人がグローバル企業のリーダーにふさわしいとお考えですか?

タケダに関して言えば、日本の会社であり、日本に様々な部門が揃っていますから、そのぶん、チャンスもオプションも豊富です。その点で日本の社員は恵まれています。そのうえで、日本人の社員がもし私の後継者になりたいとか、TETのメンバーになることを希望するのであれば、2つのことが必要です。1つは海外での経験を持つこと。これは大きなプラスとなります。もう1つは英語を話すこと。これは必須です。というのもTETのメンバーの国籍は11カ国に及び、それぞれが複数の国で働いた経験を持つ人たちだからです。自分のキャリアをプランニングする際には、こういったことを考える必要があるでしょう。

あとは進みたい部門によって異なります。製造部門に行きたいなら、現在タケダには世界に36の工場があり、1万5000人以上が製造部門で働いていますので、リーダーとしては複雑な組織をマネジメントできなければなりません。R&D分野に進むなら、研究、開発、薬事と様々なセクションがあります。どこをやりたいのかを自分で選び、キャリアプランを組み立てる必要があるでしょう。

■自分のキャリアのオーナーになれ

――リーダーになるかどうかも会社が選ぶのではなく、社員自身が自分で決めてそのためのキャリアをつくるものだということですね。

自分のキャリアはその人が考えるべきものだと私は考えています。何をやりたいのか、何を達成したいのか、どの部門で働きたいのか、というのは社員ごとに違うからです。だからこそ社員は自分のキャリアのオーナーになるべきであって、タケダはそういう方針に変えています。私の仕事はあくまでそれをサポートすることです。そのためにローカルで働きたい人、グローバルに仕事をしたい人、それぞれにふさわしいキャリアと教育体制を整えています。

また多様な働き方ができるよう、コアタイムなしのフレックスタイム制度や、働く場所を限定しないテレワーク制度などを設けているほか育児をサポートする制度も様々に整えています。このようにフレキシブルに働ける環境を整えているのもその一環です。

――CEOは日頃から感情的になることがないとの評判です。温厚な性格もリーダーの大切な資質ですか。

いいマネジャーとは、安定した態度で臨める人だと思います。マネジャーの機嫌が頻繁に変わると、部下は大変でしょう。私の仕事は組織のストレスを下げることであって、ストレスを上げてはいけないと思います。かといって機械のようにもなりたくありませんから、常に穏やかな態度で臨むよう努めています。チームの成果に満足できないときもありますが、厳しくあたっても問題は改善しません。それよりもサポートをしたり、アイデアを与えたりすることで事態の改善を促すようにしています。それが私の信念です。

――最後に日本の若手が世界で活躍できるリーダーになるために何が必要か教えてください。

1つはよい教育を受けることです。その点、日本は教育環境が整っていますから、心配ないですね。あとは、イノベーション(革新性)というものに常に着目すること。そして海外の経験を積むということです。冒険心と好奇心を持って未知の世界に挑むということですね。そういう性格の持ち主が自分の好きな分野で一生懸命に働き、新しい経験を得るためにリスクをいとわずチャレンジしていけば、日本の若い方も将来、世界を舞台に成功できると思います。

売り上げの海外比率は8割超

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クリストフ・ウェバー(CHRISTOPHE WEBER)
武田薬品工業代表取締役社長CEO
1966年、フランス・ストラスブール生まれ。92年仏リヨン第1大学薬学博士取得。93年英グラクソ・スミスクライン(GSK)入社。2003年GSKフランス会長兼CEO、08年GSKアジア太平洋地域担当上級副社長兼ディレクター、12年GSKワクチン社社長兼GMなどを経て、14年6月から武田薬品工業社長、15年4月からCEO兼務。

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(武田薬品工業代表取締役社長CEO クリストフ・ウェバー 構成=大島七々三 撮影=市来朋久)

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