"現存最古のコンビニ"がセブンではなくセコマである理由
プレジデントオンライン / 2020年2月11日 11時15分
※本稿は、梅澤聡『コンビニチェーン進化史』(イースト新書)の一部を再編集したものです。
■現存する最古のコンビニを開いたのは酒類の卸業者
現存するコンビニチェーンの中で、現在も営業する最も歴史のあるコンビニ店舗が「セイコーマートはぎなか店」である。酒類中心の食品卸、丸ヨ西尾の社員だった赤尾昭彦(あかおあきひこ)が、取引のある食料品店をコンビニに業態転換させたのが始まりだ。1971年8月、セブン-イレブン豊洲店の3年も前に、北海道でコンビニが誕生していることになる。
赤尾さんは、スーパーカブに乗って店にやってきて、棚を見ながら補給する商品を手帳に書いていました。翌日には商品が配送されてきましたね。そうこうしているうちに、赤尾さんの力を貸してもらってタバコや酒の免許が下りたので、71年に私(筆者注:1号店オーナー、荻中末雄)が32歳のときに『コンビエンスストア はぎなか』の看板を出して衣替えしました(「リアルエコノミー」2010年12月29日配信)。
これより赤尾は、セイコーマートの実質的な創業者としてチェーン化に邁進し、2016年に他界するまで同社の発展を支えてきた。
なぜ、これほど早くコンビニ事業に着手したのであろうか。その理由は、主要な取引先である食料品店の将来に危機感を抱いたからだ。当時、全国に70万軒あった零細な食料品店の近代化が、国の政策として浮上していた。
同様に丸ヨ西尾と取引の多かった酒販店も、家族経営からの脱皮が迫られていた。売上全体の中で配達が占める割合が高く、生産性の低さが課題であり、当時も人材難と後継者不足が深刻化していた。一方のスーパーマーケットは安売りを掲げて急成長している。いずれ「内地(本州)」から総合スーパー勢力が進出してくるのは、目に見えていた。現にダイエーは73年に、イトーヨーカ堂は76年から、北海道への進撃を開始している。
■アメリカで見たコンビニのレイアウトを手書きで写し取った
もう一つの理由は、中堅の食品卸である丸ヨ西尾自身の危機感であった。国分など大手総合卸が中小問屋の系列化を進め、総合商社も卸売りの各段階に介入を始めていた。スーパーマーケットが勢力を拡大すると、一社による大量販売が可能となり、メーカーとの直接取引も増えていく。中堅の卸売業にとって、メーカーと小売をつなぐ中核的な機能を果たすことが、この先も続けられるのか不安があった。
そこで浮上したのが、コンビニ業態によるフランチャイズ・システムの導入であった。すなわち卸売業がチェーン本部となり、酒屋を主とする中小商店が加盟店となって、双方の経営を安定化させるというものだ。
セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートは、大規模小売店舗法による出店規制がかかる中、グループの新規事業としてコンビニをスタートしたのに対して、赤尾のセイコーマートは、自社の存亡と取引先支援という確固たる目的があった。
71年の一号店から酒販店の業態転換を推進し、74年に「セイコーマート(現セコマ)」を設立する。当時は取締役本部長の肩書であったが、実質的には赤尾自身が立ち上げた会社である。
“取引先の近代化を図らないと、卸は駄目になってしまう”という危機感から、既にコンビニチェーンが確立していた米国に渡り、通訳を雇ってオーナーや店長の話を聞くなどして、チェーン理論の研究を重ねた。米国のコンビニのレイアウトを手描きで写し取るなどして一号店を開設した(『月刊コンビニ』2016年2月号)。
■製造から物流、販売が一貫したシステムを確立した
会社設立時のセイコーマートの店舗数は14。セブン-イレブンは78年に北海道に進出し、同年サンチェーン(後にローソンと経営統合)も出店、82年にサンクスが進出する。
セイコーマート設立から10年後の84年9月末時点で、北海道内のコンビニ店舗数は、セイコーマート152店、セブン-イレブン145店、サンクス57店、サンチェーン56店となっている。以降、道内においては、セブン-イレブンがセイコーマートに肉薄する関係が続いていく。それは両チェーンが1000店舗を超えた現在も同様である。
赤尾はアメリカのチェーン理論を研究する中で、システムの重要性に気がついた。製造から物流、販売にいたる一貫したシステム、それを支える情報システム。30坪の小さな売場と少人数の運営態勢。客の目に映るコンビニは、家族経営の食料品店を洗練させた程度の印象だろうが、コンビニを成立させるには盤石な仕組みが必要とされるのだ。
自社製造体制を確立させるために、79年にはグループ内に食品会社を立ち上げて、惣菜の製造を開始し、その後は水産加工会社や乳業会社などを傘下に収めて、原材料の確保、および商品の製造に尽力した。物流網の整備にも早くから着手し、90年代初めにはすでに全道内の配送体制を築き上げている。
情報システムについては、店舗にストア・オートメーション・システムを早期に導入し、発注から製造、仕入れ、配送、納品までの流れを管理、加盟店が販売に専念できる体制を整えると同時に、チェーン本部としてマーチャンダイジングの精度の向上に努めている。
■大手に先駆けて始めた店内調理「ホットシェフ」
赤尾は1984年に受けた取材で、次のように答えている。
売れ筋データは、あくまでも売れた筋なのです。CVSにとって必要な情報は、売れた商品の情報ではなく、明日これから何が売れるのかなのです。データからトレンド(傾向)を的確に読み取り、それに対応できるかどうかです(『食品商業』1984年12月号)。
過去に売れた商品を追いかけるのではなく、未来に売れる商品をどう見つけるのか、存在しなければ自分たちでつくるのか。特に回転の速いコンビニの商品は「鮮度」が命である。過去の商品が並ぶ売場では、安売りのスーパーマーケットと差別化ができない。コンビニの業態特性を、赤尾はいち早くつかんでいた。
そして、特筆すべきは「ホットシェフ事業(店内調理事業)」だ。94年に立ち上げた事業で、赤尾が手塩にかけて育てたカテゴリーである。この時代、おにぎり、弁当、焼き立てパンまで、本格的な主食を店内調理する大手チェーンは存在しなかったが、赤尾は店内で一から調理をして、すべての対象店舗で同じ味と仕上がりを求めた。当時は大変に難しいチャレンジであった。
この店内調理には、北海道ならではの意義がある。北海道には飲食店に不自由する町や村が多く、そうした過疎地(かそち)にもセイコーマートは出店している。飲食店が存在しない地域にも店を出しているほどだ。
■過疎地ではイートインスペースが飲食店として機能
イートインスペースを備えているセイコーマートには、地域で数少ない、あるいは唯一の飲食店として機能している店もある。比較的長い時間、座って食事ができる施設は、住人にとって心強い存在となる。現在は、ホットシェフ事業の売上だけで年間150億円を超えており、道内の外食産業においてトップの地位を確立している。
ヒントはアメリカの視察から得た。80年代にフィラデルフィアのミニ・スーパーを視察した際、店の真ん中に小さなテーブルが置いてあり、そこで若者たちが店内で購入したパンを食べ、牛乳を飲んでいる光景が赤尾の目にとまった。そこにイートインスペースと店内調理のヒントがあった。ちなみに牛乳についても、後に道北の広大な牧草地を生産拠点とする「とよとみ牛乳」を、自社専用商品として全店に供給するにいたっている。
取引先への支援、中堅卸売業の成長戦略、アメリカ視察、製配販一体のサプライチェーンづくり―ローカルのコンビニが、総合スーパー勢力による大手コンビニチェーンに敗れていく中、セイコーマートは北海道でセブン-イレブンと互角に戦っていく。
■大手が手を出さない北関東圏を固める「セーブオン」
群馬県は屈指の温泉大国と言われる。草津、水上、伊香保など、名湯がずらりと並び、首都圏から一泊二日、週末に車で往復するには手軽な旅行先として人気である。その道程で普段、見慣れない看板のコンビニが目に入る。山懐(やまふところ)に入り、商店や大手コンビニが姿を消しても、その看板のコンビニは山間部に静かに佇(たたず)んでいる。
伊勢崎市に本社を置く「いせやグループ(現、ベイシアグループ)」は、1983年8月に同グループ初のコンビニ「セーブオン渋川行幸田店」を開設する。セブン-イレブンがすでに国内2000店舗に近づき、群馬も含む関東圏に着々と店舗網を築いている最中である。首都圏は大手、中堅コンビニの激戦地域となり、茨城、栃木、群馬の関東圏も主戦場となりつつあった。
3年後の86年、50店舗に達していたころ、前出のコンサルタント、阿部幸男が記事にはしない約束で、セーブオンの営業本部長と面談している。そのときの取材内容は後日解禁になるのだが、次のような大手との差別化を基本にしていた。
②人家が少ない場所でも車客に頼って出店するのが、親会社「いせや」の方針。
③当面の戦略として、人口が少なく、経済力の弱い地域に広域のネットを張る。
すなわち、初期投資や運営コストを抑制し、たとえ売上が低くても、店舗段階で利益を出せるノウハウを自分たちは持っている。それが、セブン-イレブンなど大手チェーンにはできない仕組みであり、出店立地や展開エリアにおける差別化を実現している、というのだ。人里離れた温泉地に店舗を構えていられたのも、損益分岐点を引き下げた、ローコスト経営によるところが大きい。
■地域らしいロードサイド型店舗に力を入れる
親会社の「いせや」は、1959年に創業した衣料品スーパーを祖としている。転機となったのが、78年から始めたホームセンター事業である。ホームセンター事業も、米国チェーンストアをモデルとして日本に移植された業態であり、衣食住のライフスタイルの中で遅れがちだった、住居関連の豊かさを追求していた。日用品からインテリア、DIY用品などを主体とする、食品とファッションを除く生活すべてをカバーする業態である。
同じように、業種・業態を拡大する多角化経営の一環として、コンビニがあった。グループの総合力を高めるため、グループが経済圏を築く北関東から新潟にかけてのエリアで、セーブオンを配置していった。86年には、群馬から商圏を拡大するために新潟地区本部を開設、87年には山形地区本部を新設して、同年100店舗を達成している。
こうした「人口が少なく、経済力の低い地域に広域のネットを張る」戦略を推し進めていく。店舗の多くをロードサイドに配置し、店舗前面に駐車場を十分に確保した。車での利用が多く、男性客の比率が高かったため、当時はたばこや飲料、雑誌、米飯、カップ麺など、男性客が好む商品を充実させていた。
売場づくりは、先行するセブン-イレブンなどの大手コンビニを意識している。先行チェーンをお手本にしながら、物流、および情報システムを整え、ロードサイドに店舗をつなげていく。セーブオンは北関東を中心に出店ペースを速めていく。
■「少子高齢化や人手不足で」ローソンの傘下に
しかし、セーブオンは2017年2月1日、ローソンとメガフランチャイズ契約を締結したと発表した。これによりセーブオンが出店する、群馬、栃木、新潟、埼玉、千葉、長野の約500店舗は、18年度中にすべての「セーブオン」の看板を「ローソン」に転換するとした。
決断の背景には、先行して事業譲渡した富山県、長野県の看板替えローソンが、前年130%の売上を上げた実績がある。筆者の取材にセーブオン側は次のように説明した。
「地域密着を図るチェーンとして、さまざまな対応策を模索してきたが、コンビニ業界の寡占化、少子高齢化、人手不足による人件費の高騰など、今後の経営環境を見据え、これまで以上にお客様に満足していただけるよう、地域の皆さまのニーズに応えていくために、セーブオン全店舗の転換を決断した」
さらに神奈川を中心に首都圏をドミナントとするスリーエフも、17年度中にほぼすべての看板を、ダブルブランド店舗「ローソン・スリーエフ」へと転換した。スリーエフは業績の悪化にともない、前年度に先行して89店舗を看板替えし、商品も含めてローソンパッケージで運営を継続した。その結果、売上の対前年比が110%以上で推移したことで、全店舗の転換を決断している。
こうして、ローカルチェーンとして大手と差別化を図ってきた500店舗強の「中堅」と呼ばれるチェーンは、大手に飲み込まれていった。
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流通ジャーナリスト
1961年、札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店に入社し、ロフト業態立ち上げに参画する。1989年、商業界に入社すると、『販売革新』編集部へ。『月刊コンビニ』編集長、『飲食店経営』編集長、編集担当取締役を経てフリーランスに。現在は両誌の編集委員を務める。
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(流通ジャーナリスト 梅澤 聡)
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