最新の研究が明かす「子どもは何歳から一人で寝るのがいいのか」
プレジデントオンライン / 2020年2月10日 6時15分
■「独り寝派」か「川の字派」か
子育て中、とくに子供が小さい頃は、同じ寝室で川の字に寝ている人も多いでしょう。実際、産院でも母子同室を謳っている所が増えており、“なんとなく”赤ちゃんや子供が小さいうちは母子同室での就寝が良いと考えている場合が多いのではないでしょうか。
一方最近では、産後うつや睡眠不足といった母親側の問題と合わせて、子供の自立性育成、というような教育的観点から、子どもがパパ・ママの抱っこや添い寝、おっぱいなしに一人で眠れるよう習慣づける睡眠トレーニング(ねんねトレーニング)が話題に。「早期からの独り寝」を推奨する声が多く聞こえてきます。
今回は、川の字寝と独り寝がもたらす影響、そして、いくつまでの添い寝、いくつからの独り寝がよいのかについてヒントとなるような研究をご紹介します。
■70~80年代の子育ては、「独り寝」が半数以上
1960年代の日本では、親子の川の字寝率は、91%だったのに対し、70~80年代前半になると、2歳児で約40%、3歳児では49%と、その割合が一気にさがっています。この時期は、欧米に倣い子供部屋で独り寝をさせようという考え方が主流になりつつありました。従来の「抱っこ」「川の字寝」は子どもの自立心の発展を損ない、育児に手間もかかるから、と否定的に考えられていたのです。
おそらく70~80年代全前半生まれくらいの人は、子育て時におばあちゃん等から、「泣いたからってすぐに抱っこしたら抱き癖がつくのよ……」「早くひとりで寝られるようにしないと……」等と小言を言われた経験がある人もいるでしょう。
ところが、80年代後半になると、母子の愛着形成の重要性、添い寝が乳幼児に与える安心感や情緒的安定が示されるようになり、寝るときは母子同室がよい、という考え方に戻ってきます(当然のことながら、添い寝に伴う多くの危険性は、同時に提唱されています)。
■世界の寝室事情
子育てにまつわる多くの情報の中に、「欧米式」という言葉を見かけます。そのような煽りもあり、アメリカやヨーロッパでは、全ての家庭で乳幼児は別室で寝ている、という印象を持っている人が多いと思います。実際どうなのでしょうか。
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/1/250/img_2100b6b5257af8fce7e18a09a0a8e11b591486.jpg)
2017年にオランダの研究チームが、世界の母子のベッドシェアに関する論文を出しています。その報告によると、日本では、54.4%の家庭が乳幼児期はベッドシェア(日本でいうところの添い寝)であるとしています。
欧米ではアメリカ(23.0%)、イギリス(7.1%)、イタリア(6.4%)、ドイツ(8.9%)と低いのに対して、フランスは38.9%と、思ったよりもベッドシェアをしている割合が多い印象を受けます。
インド(70.0%)、ベトナム(83.2%)、モンゴル(100%)と、アジア圏は欧米に比べて高い割合となっています。これは、必ずしも子供に対する自立心育成や個の重要性という考え方だけではなく、住環境や各国における夫婦のあり方の差を反映している面もあります。
■独り寝で夜泣きと産後うつが軽減するが、自立心は育たない
アメリカやオーストラリアなどでも、ベッドシェアをすると、しない人に比べて、親の産後うつの割合が有意に高くなること、睡眠の質が低くなることが報告されています。また面白いことに父親がベッドシェアをした場合、睡眠の質が落ちることに加え、覚醒時(起床時から夕方まで)のテストステロン(男性ホルモン。性欲を亢進するほか、体毛の成長や筋肉や骨格を形成する)の値が有意に低くなることも報告されています。また、子供側からも、ベッドシェアをしていない方が、夜泣きが圧倒的に少なくなること、寝るときの体温の上昇が抑えられることなどの理由から、安定的な睡眠を確保できることが報告されています。
一方、ベッドシェアをしない多くの親が期待している「自立心の早期育成」については、ベッドシェアの有無による影響がないことがわかっています。
■6歳までのベッドシェアで知能があがる
アメリカの研究によると、意図的に6歳までベットシェアをしていた場合に、ベッドシェアをしていない人たちに比べて認知的スキル(知能など)が高かったという報告がされています。また、幼児期(~6歳)まで親と一緒に寝て、夜間の安心感が強くなることで、日中の行動がより自立的になるという研究報告もあります。乳幼児においては、独り寝をしている子の方が、おしゃぶりや特定の寝具(タオルケットやぬいぐるみなど)への執着が強く、親指しゃぶりの習慣やおしゃぶりを利用する期間が長いと報告されています。これらは、独り寝とベッドシェアによる子供の情緒的安定の差であるという解釈がされています。
これらの研究を考慮すると、両親のメンタルヘルスが保たれるのであれば(産後うつに悩まない場合であれば)幼児期までは、安全性に最大限の配慮をしたうえで、ベットシェアをしていた方が良い、という見方ができます。
■親の意識・意図・想いの重要性
ベットシェアをしているか、していないかという観点だけから研究を進めた場合、親子の絆はどのくらい強いのか、どのくらい親は意図的に(子供のために)そのような環境を作っているのか、という親子間の重要な要素がコントロールされていないものがほとんどです。家の間取りの問題でベッドシェアをしている人から子供の情緒的安定に想いを強く込めている人まで、一言でベットシェアといっても様々な背景があるはずです。
上述したアメリカの研究でも、意図的に6歳までベッドシェアをしていた人たちは、なんとなく慣習的に独り寝をさせていた人たちと比べて、寝ている時間だけでなく、日中の子供との関わり方への態度が違った可能性もあります。
実際、子供の情緒安定には、親との愛着形成が重要であることが多く示されてきており、そのためには、過ごす時間の長さではなく、過ごし方(質)が大切ということがわかっています。寝不足やうつに苛まれて子供と過ごす時間が長くてもいい影響が出るとは考えにくいでしょう。また、いくら長い時間一緒に子供といても、その間、スマホやテレビ、ママ友に夢中になっていたりだと愛着形成はうまくいきません。寝方(独り寝をさせるのか一緒に寝るのか)についても、どちらがいいかは、それぞれの親子ごとで、最適なあり方はどういう形態なのかを考えたうえで、「子供の成長に合わせる」だけではなく、「自分たち親子に合った」選択をすることが最も良いと言えるでしょう。
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・Caudill, W. & Plath, D.W.(1966). Who sleeps by whom? Parent-child involvement in urban Japanese families. Psychiatry, 29, 344-366.
・上田禮子・中村朋子.(1991).幼児の添い寝:その時代差について.茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学,芸術),40,41-49.
・吉田弘道・山中龍宏・巷野悟郎・中村 孝・山口規容子・中澤恵子.(1997).乳幼児の添い寝に関する実態調査.小児保健研究,56(3),466-470.
・Mileva-Seitz, VR, Bakermans-Kranenburg, MJ, Battaini, C, Luijk, MPCM. Parent-child bed-sharing:the good, the bad, and the burden of evidence. Sleep Med Rev. 2017;32:4-27.
・Countermine M, Teti D. Sleep arrangements and maternal adaptation in infancy. Infant Ment Health J 2010;31:647e63.
・Hiscock H. Infant sleep problems and postnatal depressionea communitybased study 107-1317. Pediatrics 2001;107(6):1317e22.
・Teti DM, Crosby B, Mcdaniel BT, Shimizu M, Whitesell CJ. Marital and emotional adjustment in mothers and infant sleep arrangements during the first six months. Monogr Soc Res Child Dev 2015;80:160-76
・Gettler LT, McKenna JJ, McDade TW, Agustin SS, Kuzawa CW. Does cosleeping contribute to lower testosterone levels in fathers? Evidence from the Philippines. PLoS One 2012;7:e41559.
・Okami P, Weisner T, Olmstead R. Outcome correlates of parent-child bedsharing:an eighteen-year longitudinal study. J Dev Behav Pediatr 2002;23:244e53.
・Stein M. Cosleeping(bedsharing)among infants and toddlers. Dev Behav Pediatr 1997;18:408e12
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博士(医学)
東京大学大学院総合文化研究科研究員/科学技術振興機構さきがけ研究員/帝京大学医学部生理学講座助教。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科認知行動医学卒業後、英語学習による脳の可塑性研究を実施し、研究成果が多数のメディアに紹介。その研究をきっかけに、「目標達成できる人か?」を脳構造から判別するAIを作成し特許取得。現在は、プログラミング能力獲得と脳の関連性、 Virtual Realityを利用した学習法、恋愛と脳についても研究をしている。
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(博士(医学) 細田 千尋 写真=iStock.com)
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