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「部活が忙しくて勉強ができない」に潜む根本的な間違い

プレジデントオンライン / 2020年2月20日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RichLegg

子どもの運動は勉強の妨げになるのか。聖路加国際病院スポーツ総合医療センターの田崎篤副センター長は「毎日30分程度の有酸素運動は、脳を活性化させる。体力がつけば集中力も増すため、学力を上げる可能性が高い。ただし“長すぎる運動”には注意が必要だ」という――。

※本稿は、田崎篤『子どもの健全な成長のためのスポーツのすすめ スポーツをする子どもの父母に伝えたいこと』(岩崎書店)の一部を再編集したものです。

■不健康な状態で生きる時間が伸びている

子どもの運動が肉体面にもたらすメリットをお話しするために、まず、おとなになった先のことに触れてみますね。

現代の日本は世界有数の長寿国です。世界のトップクラスであることはもちろんよいのですが、長寿がゆえに「寿命」と「健康に生活できる年数(健康寿命)」とのあいだに差が生まれています。スポーツの言葉でいえば「ミスマッチ」、つまり行きたいところに行けず、自分が望む行動が取れずに寿命が続く年数が生じているのです。ミスマッチは病気や体力、脳神経の衰え、骨の強度の低下などが原因となって引き起こされます。

2014年のデータなので少し古いのですが、日本人女性の平均寿命は87.14歳で、対する健康寿命は74.79歳。男性の平均寿命は80.98歳で、健康寿命は72.14歳。引き算すると、女性はだいたい12年、男性は9年ほど、健康上に何らかのトラブルを抱えながら、少なからず制限を抱えて生活することになるのです。これはけっこう長い年月ですよね。

■ユネスコ「運動不足は喫煙よりも健康に悪い」

その寿命と健康寿命とのミスマッチを生じさせる代表的病因のひとつが、骨が年齢とともに脆くなる「骨粗鬆症」です。からだは元気でも、骨密度の低下により骨が弱くなることで、痛みや骨折が容易に生じてしまい、運動ができない、痛みで歩行できない、となってしまいます。

その結果、活動範囲が狭くなる、運動不足となる、脚を使わなくなることで下半身の血流が低下し、静脈の環流が低下して血液循環が悪くなります。運動量の低下、血液循環の停滞、意欲の低下といったさまざまな原因は、二次的に病気を引き起こすことにつながります。ユネスコ(UNESCO、国際連合教育科学文化機関)の提言によると、「運動不足は喫煙よりも健康に悪い」との報告があるほどです。

それでは、骨粗鬆症をどのように予防しましょうか。四十代、五十代のおとなになり、骨粗鬆症の存在に気がついて一生懸命運動し、栄養、ミネラルを摂取すると骨密度が上昇するのでしょうか。いや、そんなに簡単には上昇しないのです。では薬では? いやいや、これも残念ながら、劇的な効果をもたらさないことがあります。

■骨密度は子どもの頃の運動で決まる

じつは、骨密度を生涯にわたって決定する要因となるのは、「子どもの頃にどれくらい走って跳び回ったか」なのです。

ジャンプをすると、跳ぶときと着地のときに、重力に抗する体重の負担がからだ中の骨に掛かります。この負担の積み重ねが刺激となり、女の子でいう初潮の年齢までのあいだに、骨を強くします。結局は子どもの頃にどれだけ“貯骨”となる刺激ができたか、それが重要なのです。これは、1964年の東京オリンピックの時期に行った若年スポーツ選手の縦断調査により、最近になってわかってきた事実のようです。

子どもの頃の運動が将来にどれだけ大切か、ちょっと衝撃的ですよね。

近年話題となる子どもの肥満についても、「運動習慣は、子どものうちだけでなく将来の肥満も予防する」といえます。運動習慣は当然カロリーを消費する習慣づけとなりますし、運動して筋肉が多くなれば基礎代謝が高くなるので、自然にカロリーを消費しやすいからだになるのです。

子どものときにしっかり運動することは、未来への有意義な投資になるといえるでしょう。

■スポーツは精神面も成長させる

運動が子どもの精神面にプラスに働くこともたくさんあります。

そのひとつは、運動をしていると、学校生活という集団生活における行動や、その中で自分を取り巻く環境作りを上手に行えるようになることです。個人競技・団体競技スポーツ、いずれもスポーツ活動は、指導者、同級生、先輩後輩で形成される集団の中で行います。そこで人と調和する術や社会適応力が育成され、集団の中で自分を確立する力も養われることでしょう。

また、運動を行えば少なからず集中して競技に取り組みます。当然、そのことで集中力が養われます。そして記録が出る、勝利することで自己肯定感や達成感を得られ、意欲的な心が育つ機会となるのもよい点ですね。

保護者や指導者の立ち居振る舞いが影響するとはいえ、子どもがやりたいと思って取り組むスポーツで得られる精神面の成長は、将来のさまざまな局面でポジティブに働くことばかりです。辛いことや苦しい経験も、おとながうまく導けば、柔軟な子どもの心はきちんと受け入れ、成長の糧となります。みんなで明るく子どもを支えてやることが、大切なのです。

■毎日の有酸素運動で脳が活性化する

運動は勉強にも好影響を及ぼします。

習慣的な運動は、子どもの脳の高次脳機能の発達に重要なかかわりがあることが、2011年、「サイエンス」という有名な科学学術誌に発表されました。高次脳機能というのは、記憶や学習、思考、判断といった認知機能の総称で、いってみれば学業やキャリア、家庭や集団生活などで人生の成功を司る、重要な役割を果たす脳機能です。

脳科学研究によると、走って息を切らしてハーハーする鬼ごっこや追いかけっこ、サッカーやバスケットボールなどが代表格である有酸素運動で刺激される脳の活性部位と、勉強したときの脳の活性部位は同じ領域なのです。20~30分程度の毎日の有酸素運動は、記憶力や認知運動を改善するとされており、欧米の研究でも、毎日30分の有酸素運動でいわゆる問題解決能力が10パーセント上がることが明らかになっています。運動をすると脳が活性化されて、勉強がはかどって成績が上がった、そんなイメージですね。

■体力がつけば、集中力も上がる

ということは、学外活動として毎日30分程度の有酸素運動、たとえば小学生なら放課後に鬼ごっこなどをして走り回るといった運動をすることは、勉強の妨げになるどころか、学力を上げる可能性が高いことになります。

田崎篤『子どもの健全な成長のためのスポーツのすすめ スポーツをする子どもの父母に伝えたいこと』(岩崎書店)
田崎篤『子どもの健全な成長のためのスポーツのすすめ スポーツをする子どもの父母に伝えたいこと』(岩崎書店)

それに、運動をして体力がついた子どもほど、目標を達成するための高次脳機能を用いた行動がより持続して行え、実働時間が長くなり、かつ集中力が増します。つまり体力の増強は、成績を上げるためにもさまざまな好影響となるのです。もしも運動が勉強の妨げになるとしたら、“長すぎる運動”で疲れてしまい勉強の時間を損なう、ということなのでしょう。

中学生くらいになると、部活と勉強の両立が課題になることも多いと思いますが、一般に、両立を妨げるとしたら、だらだらと長い部活動です。それにより時間を失い、食事の時間が不適切となり、結局は勉強の弊害になります。でも、これは運動が悪いのではなく、その活動方法が不適当なのです。

ではその子が部活をやめたら勉強をするのかというと、それはどうでしょう。運動自体は脳活動にプラスになるのですから、両立を難しくしている問題点を「運動しているから」と短絡的に考えてはいけません。時間なのか、疲労回復の要となる食事や栄養補給、ストレッチが十分にできていないのか、あるいは部活のせいにしている気持ちの問題か。整理して考えた方がいいですね。

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田崎 篤(たさき・あつし)
聖路加国際病院 整形外科医長、スポーツ総合医療センター副センター長
学習院初等科、麻布中学校、麻布高等学校、日本医科歯科大学を経て、東京医科歯科大学大学院修了。1997年より聖路加国際病院に勤務。2004~2006年の米国留学(Johns Hopkins University, The University of Tennessee Campbell Clinic)で、スポーツ医学の研究に従事。2010年よりラグビー日本代表(7人制男女)、リオデジャネイロ五輪他多くの国際大会に帯同。その他大学ラグビー部、アメフト部チームドクター、スポーツ関連医学学会の役員も複数務めている。

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(聖路加国際病院 整形外科医長、スポーツ総合医療センター副センター長 田崎 篤)

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