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大阪の阪急電鉄があの六本木にホテルを出した理由

プレジデントオンライン / 2020年2月10日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oward_lion

「本業」が頭打ちの企業が、不動産事業を本格化させている。不動産コンサルタントの長谷川高氏は「人口減で運賃収入が頭打ちになっている電鉄会社はその代表格だ。地盤とする地域を越えて展開する例が増えている」という――。

※本稿は、長谷川高『不動産2.0』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。

■「運賃収入は頭打ち」電鉄会社が着々と仕掛けていること

大手電鉄会社の昨今の動向を見ると厳しい現実が浮かび上がってきます。

関東の私鉄といえば、東急、京王、小田急、京急、京成、西武、東武など。関西では、阪急阪神、京阪、南海、近鉄などが挙げられるでしょう。

ここに挙げた電鉄各社は、すべて上場企業です。当然、株主に対して企業価値の向上といった責務があります。ところが、電鉄会社の本業である運輸業における運賃収入は、どの会社も頭打ちの状態が続いています。

そこには、企業の一存で運賃を値上げすることはできない、という硬直性の問題がありますが、沿線人口の頭打ちによって乗降客数の増加が見込めなくなっている、もしくは減少しているという根本的な問題も抱えています。

高度経済成長の時代は、どの電鉄会社も宅地開発をしたり、遊園地などの施設をつくることにより、沿線に人を呼び込んでいました。全体の人口が右肩上がりに増えていたこともあって、実際に沿線住民の人口は増えていきました。

しかし、そんな時代はもう終わりを迎えました。これから10年、20年後を考えた場合、乗降客数が増えるという想定は、非現実的と言えるでしょう。では今後、どのように売上を確保していけばよいのでしょうか?

■なぜ、大阪の阪急電鉄があの六本木にホテルを出すのか

今、多くの電鉄会社は、新たなビジネスに乗り出しています。その代表が、ホテルや賃貸マンションなどの不動産事業です。かつては、こうした建物は、自社の沿線に建てるのが常識でした。しかし昨今は、様相が異なります。

写真=iStock.com/EarthScapeImageGraphy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/EarthScapeImageGraphy

たとえば、私の会社がある赤坂には、京王電鉄は通っていないにもかかわらず、近年、京王電鉄系のホテルがオープンしました。それだけではありません。関西を地盤とする南海電鉄系のホテルもオープンしました。

赤坂のお隣、六本木には、2017年3月に阪急電鉄系の阪急阪神ホテルズの「レム六本木」が開業しています。建物は地上20階建て。客室はシングル、ツインの全400室。六本木駅から徒歩約1分という場所にある大型ホテルです。

これは東京中心部だけでなく、全国的な現象です。全国の主要都市をまわっていると、在京・在阪の電鉄系ホテルが、次々とオープンしていることが実感できます。つまり、電鉄会社は自らの地盤に関係なく、上場企業としての生き残りをかけて、運賃に代わる収入を得ようと猛烈な出店攻勢をかけているのです。

言い方をかえれば、自社の鉄道が敷かれている沿線の発展はもう見込めないと考えているということです。インバウンドを中心とした観光業、とくにホテル業で収入を得ていこうという考えにシフトしたのです。ホテルだけではありません。自社が保有する遊休地に賃貸マンションを建て、新たな収入を増やすことにも取り組んでいます。

どの電鉄会社も、自分たちの本業がすでに頭打ちであることに、もう何年も前から気づいているのです。そんな折、2019年9月、東京急行電鉄が、社名から「電鉄」を外し、「東急」と商号変更しました。元来の本業であった鉄道事業は10月に分社化し、不動産事業を中核とする方針を取ったゆえの社名変更です。このニュースなどまさに、ここまで記してきたことを象徴する出来事だと思います。

■大手出版社の意外な収入源

電鉄会社がホテル事業に進出している例のように、不動産業における賃貸業にこそ、生き残る道を見出している企業が多いことも事実です。

写真=iStock.com/7maru
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/7maru

ここでは、改めて不動産がいかに企業活動において重要であるかを、見ていきたいと思います。

私はこれまで、いくつかの出版社と仕事をしてきました。かつては出版業界に関する知識がまったくなかったため、出版社の人と知り合うたびに、「貴社ではどんな小説を出しているのですか?」という質問をしていました。出版社といえば、文芸小説を出版するものと思っていたからです。

ところが、あるとき、とある出版社の方に質問をしたところ、「うちは小説は出せないんです」という答えが返ってきました。というのも、ビジネス書はある程度の部数が売れるという見込みが立つそうですが、小説は当たれば大きいものの、そのヒット率は低く、多くの文芸書は残念ながら売れずに終わるというのです。出版社にとって、小説を出版することはそもそも非常にリスクが高いのだそうです。

■なぜ出版社はヒット率の低い小説を出し続けられるのか

一方、大手の出版社は、雑誌やマンガでコンスタントに利益を出しているため、小説を出版するというリスクを取ることができるのだそうです。しかし、これも10年以上前の話です。では、現在はどうなっているのでしょうか。

長谷川高『不動産2.0』(イースト・プレス)

最近、ある出版社の経営者とお話ししたところ、「最近、雑誌が本当に売れなくなってきています。あと5年もすると、各社の看板雑誌の多くが無くなるかもしれません」とおっしゃっていました。

「では、マンガはどうか」というと、「マンガも売れなくなってきています。読者がスマートフォンでマンガを読むようになったので、マンガ雑誌も、コミック本も、以前のように売れなくなってきています」と。

時代の変化にともなって、かつての出版社を支えていた収入源が、どんどん失われているようなのです。では、なぜ大手出版社は、いまだに小説を出版し続けることができているのか? 私は疑問に思いました。

率直に尋ねると、「不動産です」との答えが返ってきました。会社が以前より保有している不動産を貸し出すことで、安定した利益を得ているのです。

出版不況の危機を救っているのが、不動産賃貸業であることを知り、私は「出版業界もやはりそうなのか」という感想を持ちました。こうしたケースは今、さまざまな業界で見受けられます。

たとえば、朝日新聞、読売新聞、TBS、電通といった大手マスコミ各社も、不動産賃貸業が本業を支えています。

じつは何十年と存続している、歴史ある企業をよく見てみると、創業以来の本業だけで、会社を維持できている企業は、それほど多くないように思います。

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長谷川 高(はせがわ・たかし)
長谷川不動産経済社 代表
東京生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大手デベロッパーにて、ビル・マンション企画開発事業、都市開発事業に携わった。その後1996年に独立。 以来、創業から一貫して顧客(法人・個人)の立場で不動産と不動産投資に関するコンサルティング、投資顧問業務を行う。 自身も現役の不動産プレイヤーかつ投資家として、評論家ではなく現場と実践にこだわり続ける。 一方、メディアへの出演や講演活動を通じて、投資、不動産、生き残り戦略についてわかりやすく解説している。 『家を買いたくなったら』『家を借りたくなったら』『はじめての不動産投資』(共にWAVE出版)、『厳しい時代を生き抜くための逆張り的投資術』(共に廣済堂出版)、『不動産2.0』(イースト・プレス)など、著書も多数。

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(長谷川不動産経済社 代表 長谷川 高)

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