印度カリー子が「私はつまらない人間だった」と話すワケ
プレジデントオンライン / 2020年2月13日 11時15分
※本稿は、世界文化社『これが私の生きる道! 彼女がたどり着いた、愛すべき仕事たち』(世界文化社)の一部を再編集したものです。
■現役東大院生のスパイス料理研究家
私の人生を変えたスパイスカレー。
日本の食卓に当たり前に並ぶ
家庭料理にしていきたい。
1996年生まれ。宮城県出身。現役の東京大学院生という顔を持つ、スパイス料理研究家。スパイス専門店「香林館」代表。大学在学中より、スパイスセットを開発・販売、テレビやラジオ出演など幅広い活躍で注目。『ひとりぶんのスパイスカレー』(山と溪谷社)など著書多数。
——あなたのお仕事は?
「スパイスカレーをお家でも手軽に」をモットーに、スパイスセットの開発や販売、年に数冊のレシピ本の出版、メディア出演などを通して、スパイスカレーの普及活動をしています。スパイス好きが高じて、大学院で、食品科学の観点から香辛料の研究中です。
——スパイスにハマったきっかけは?
大学1年生のとき、同居している姉がインドカレー好きで、姉のためにインドカレーを初めて作ったのが、すべての始まり。スパイスから作るカレーって、手間がかかるように感じる方が多いと思うのですが、3種類を組み合わせて炒めるだけでもできる。味は本格的なのに、とっても簡単なことに驚いたんです。具材も自由で、バリエーションが無限。それからカレー作りにのめり込みます。
自己流のレシピをメモする感覚で、印度カリー子という名で、ブログを始めました。2カ月くらい続けた頃、「なぜこんなにおいしいインドカレーが広まってないんだろう」と考えたとき、日本にはスパイスを簡単に買える環境がない、ということに気がついて。「もっと世間にスパイスの魅力を知ってほしい」と思い、初心者でも手軽に使えるスパイスセットを作ろう、と。
■主婦層をターゲットに、ネットショップを始めた
——具体的にどうやって仕事に?
ターゲットとして注目したのは、カレーマニアではなく、30〜40代の主婦層。忙しい毎日で献立を考えている子育て世代の方にこそ、“簡単、おいしい、アレンジ自在”なスパイスカレーが必要だと思ったんです。そこで、SNSをやり始め、主婦の方々とつながって交流を持つように意識しました。
大学3年生の春、オリジナルスパイスセット3種類を各100セットずつ作りました。小さい頃からお年玉を貯金するのが趣味だったので(笑)、その中から10万円を資本金に。自宅に在庫がドーンと大量に届いたときは、「こんなに売れるのかな」と不安に陥りましたが、結果的には、ネットショップで販売したところ、初日に10セット売れ、1カ月で完売。その後もSNSで拡散され、問い合わせが殺到しました。
ポイントは、質のいいものならなんでも売れるわけではなく、「主婦層」をターゲットに、親しみやすいパッケージや価格設定にしたこと。本気でビジネスにするには、「誰に届けたいか、誰の役に立つのか」まで考えること、つまりマーケティングが大切です。
■激アツメールで「競合」を説得
——苦労したことは?
スパイスを製品化してくれる工場を探すのに苦労しました。大学2年生のときです。ネット検索した業者に直接交渉するも、学生という肩書で信用されず、香りの強いスパイスを扱うこと自体に難色を示され、相手にしてもらえない日々。諦めかけました。
そんなとき、たまたま大学の講義で隣に座った先輩からの助言があって、類似のスパイス販売をしている方に問い合わせてみたんです。言ってみれば競合なのですが、「こんなスパイスミックスを作りたい!」と思いの丈を綴(つづ)った、激アツのメールを送って。
幸運にも、私の熱意を受け入れてくれる方で、スパイスを商品化してくれる製造元を紹介してくれたんです。それが、社会福祉法人「はらから福祉会」。私の地元・宮城県にある障がい者の自立支援施設でした。今までの苦労も、「はらから」と出会うためと思えたほど、縁を感じました。
——地元への貢献にもなっていることで思うことは?
食品加工作業をしている「はらから」を訪問し、丁寧に手作業をしているところを見て、大きな価値があるように感じました。スパイスを通じて、“障がいを持っていても同じように働いて、生きがいを持って生きる”という「はらから」の活動についても知ってもらえたら幸せです。
そして、2019年の秋、宮城のふるさと納税の返礼品として商品開発に携わったのを機に、株式会社「香林館」として法人化。大学院卒業までは個人営業主で、と考えていたので時期は早まったのですが、いろんなタイミングが重なったのだと思います。
■スパイスカレーを家庭料理に定着させたい
——今後、どうなっていたい?
20代のうちの目標は、当たり前に食卓に並ぶ家庭料理として、ママのためのスパイスカレーを定着させたい。東京、大阪などの都市部ではブームになりつつありますが、地方ではまだまだ。そのためには、私も早く結婚して、主婦視点を実感したいですね(笑)。
30代以降は、世界各国のスパイスをもっと研究するのが夢。アフリカにも面白いスパイス料理があるんですよ。印度カリー子シリーズを軸にしたブランド展開をしていけたら、と考えています。
——人生で影響を受けた言葉は?
学生のとき、96点のテスト用紙を父に見せた瞬間に「100点を取る努力しかしてないんだな」と言われたんです。すなわち、100点を取るためには120点を取るくらいの努力をしなくてはいけなかったんだ、とハッとしました。
これは、勉強だけでなく、何にでも当てはまること。レシピ本のアイディアやイベントなどでも、実際にやること以上、120%の準備をするようにしています。一生涯、私の心に刻まれている言葉ですね。
■誰かのためなら「爆発的」に行動できる
——あなたにとって理想の仕事(働き方)とは?
ストレスレスであること。せっかく“好き”を仕事にしているのに、仕事が増えてプライベートや睡眠時間も確保できなくなり、心身ともに参ってしまった時期がありました。その経験から「18時以降は、極力仕事をしない」とルールを作り、時間がきたら翌日に仕事を持ち越して、自宅に帰り、夕食のスパイスカレーを作る(笑)。好きな仕事でも、ルーティンの中で、頭と体をスイッチできるような働き方をしていきたいですね。
——これから何かを始めたい人へのアドバイスは?
私は、もともと将来の夢もなく、つまらない人間だったんです。ただ、自分のために作る料理にはハマらなかったのに、姉のために作るカレーには夢中になれた。誰かのために夢中になれることなら、人は爆発的に行動できると思っています。
いざ始めるときには、人頼りになり過ぎないこと。頼ること自体はNGではないのですが、好きなことを仕事にしたいなら、まず自分でやってみる。例えば、自分の手でスパイスの個包装をしてみる、WEBサイトを手探りで作ってみる。ひと通りやって、時には挫折することで、「ロゴを作るためにこのくらいの期間と制作費なら外注できる」と、適正価格や工程が実体験としてわかります。
何かを始めたいという方でも、最初からすべてを人に頼んで、外側だけを繕いがちに。自分でやってみて、物事の本質を知る。自分で事業をする上で、とても重要なことだと考えています。
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大学院生/「香林館」代表取締役
1996年生まれ。宮城県出身。現役の東京大学院生という顔を持つ、スパイス料理研究家。スパイス専門店「香林館」代表。大学在学中より、スパイスセットを開発・販売、テレビやラジオ出演など幅広い活躍で注目。『ひとりぶんのスパイスカレー』(山と溪谷社)など著書多数。
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(大学院生/「香林館」代表取締役 印度 カリー子)
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