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水泳・松田丈志は「長く泳ぐにはプールより自転車トレーニングだ」

プレジデントオンライン / 2020年2月25日 9時15分

松田丈志氏

■3時間の練習がたった4分になった

現在の水泳界は科学的トレーニングが普及し、僕の学生時代に比べたら練習の効率は格段に向上しています。特に高校までは故郷の宮崎にいたので情報格差もあって、スタミナをつけるためにひたすら泳ぎつづける“根性練”も当たり前でした。

ただ、科学的トレーニングの練習メニューが「楽で、短時間で高い効果がある」というのは誤解です。むしろ科学的トレーニングのほうがハードで、短時間でいかに肉体を追い込むかという発想。

その代表が「タバタ・プロトコル」です。これは立命館大学スポーツ健康科学部の田畑泉教授が開発したトレーニング法で、海外でも「TABATA」といえば通用します。

具体的に説明すると、20秒間は全力を出し、10秒間の休息を入れるというもので、これを1セットとして8セットから10セット繰り返します。8セットならたった4分間ですから、練習時間だけ見れば、ものすごく効率的です。

しかも瞬発力だけでなく、持久力も高まることが証明されています。例えば、練習で10キロメートルを泳ぐと2時間半から3時間かかり持久力の向上が期待できますが、タバタ・プロトコルでも持久力が高まるというデータがあるのです。3時間と4分間ですから大変な違いです。

ただし、競泳の20秒間というのは微妙な時間で、25メートルのプールではターンが入ってしまうし、50メートルでは途中で終わります。そこで、選手の腰にゴムのチューブを巻いて、反対側をプールサイドに固定し、同じ場所で20秒間全力で泳ぎ、10秒間休むというのを繰り返します。これが実際にやってみると相当にキツい。10セットもやれば、吐きそうになって、根性練より根性がつきます(笑)。

僕の現役時代は10キロメートルを朝昼晩と3回泳ぐこともありました。その泳ぎ方は練習の強度でいえば低いもので、低強度を長時間つづける方法。それに比べて、タバタは高強度で低ボリューム。そもそも発想が違います。

肉体の回復が早いのもメリットです。吐くほどキツい練習でも、運動時間が短ければ意外と翌日は疲労が残っていません。1日30キロメートルを泳ぐようなトレーニング法は、翌日もその疲労を抱えたまま、また泳ぐことになります。練習意欲の面でもよくないでしょう。

■“根性練”がもたらす最大の効果

ただし、長く泳ぐ練習法が無意味というわけではありません。中学高校時代に“根性練”で育った選手は、20歳を超えてもスタミナが違うという実感があります。問題は、ヘトヘトになるまで泳ぎつづけるとフォームが崩れることです。そのため現在の選手は、トレーニングバイク(自転車)を取り入れています。サドルに座ってハンドルを握る姿勢はヘトヘトになってもブレませんし、水泳のフォームには影響しません。

無理な動きで筋肉を痛めるなど故障の心配も少ないのです。室内の酸素濃度を下げ、高地トレーニングと同じ環境にできることもメリットの1つです。僕の学生時代に比べると、現在の選手はプールで泳ぐ時間は圧倒的に減っています。しかし、バイクやマシンを使う陸上でのトレーニングが増えて、トータルの練習時間は増えている印象です。

長期的に見たトレーニング法の変化もあります。昔は試合や大会は年に数回しかなく、大きな競技会に向けてピークを調整していました。現在は毎月のように大会が開かれ、トレーニングの成果を頻繁に確認できるようになりました。試合では全力が出ますし、ミスをすれば反省も大きい。場数を踏んで勝負の駆け引きなども身につく。現在は、試合もトレーニングの一部となっているのです。

そういういくつもの点で、現在は僕の学生時代とは大きく違っています。全力と休息を組み合わせた短時間のハードワーク、気分が切り替わる多様なトレーニングの組み合わせ、試合による成果の確認などは、仕事にも活用できる発想ではないでしょうか。

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松田 丈志(まつだ・たけし)
1984年、宮崎県生まれ。延岡学園、中京大学卒業。北京五輪男子200mバタフライで銅、ロンドン五輪で男子400mメドレーリレー銀、200mバタフライで銅、リオデジャネイロ五輪では男子800mリレーで銅と4つのメダルを獲得した。

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(松田 丈志 構成=Top Communication 撮影=松本昇大)

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