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プロ野球で「打てる捕手」が希少である本質的な理由

プレジデントオンライン / 2020年2月9日 11時15分

読売巨人軍で22年スコアラーを務めた三井康浩氏 - 撮影=角川新書編集部

データ分析が進むプロ野球において、なぜ頭脳役とも思われる捕手の打率は低いのか。読売巨人軍で22年スコアラーを務め、第2回WBCでチーフスコアラーとして世界一に貢献した三井康浩氏がその原因を分析。フリーバッティング練習を見る際のポイントも明らかにする――。

※本稿は、三井康浩『ザ・スコアラー』(角川新書)の一部を再編集したものです。

■捕手というポジションは求められる要求があまりに多い

投手の心理をよく知っている捕手ですが、彼らの打率が低いことを不思議に思うことがあるはずです。マスクを被っているときに相手打者と行っている駆け引きを自分の打席で上手に活用できれば、もっと打てそうな気がします。

打てる捕手が少ない理由を考えていくと、まず、捕手というポジションは求められる要求があまりに多く、誰にでも守れるポジションではないことが挙げられます。肩の強さは必須ですし、野球をよく知っていることや、コミュニケーションが上手であることなど、列挙していくときりがありません。その結果、バッティングはどうしてもあとまわしになる。

もちろん、捕手はスローイングやキャッチングの練習に割く時間も長く、全体の練習量に占めるバッティング練習がほかの野手に比べて少なくなります。投手がピッチング練習をするときに、ブルペンにいく機会が多いという理由もあるでしょう。アマチュアでは好打者だった投手のバッティングが、打撃練習の時間がほぼ取られていないプロでは通用しなくなっていくのと近い理由で、捕手のバッティングも伸びなくなっているはずです。

それでも古田敦也や阿部慎之助、メジャーリーグでも活躍した城島健司、現役では西武の森友哉のように、ずばぬけて打てる捕手も現れます。身もふたもない話ですが、これについては彼らに素質があったというのと、バッティングが好きで、捕手としての練習をしながらも打撃練習にしっかり取り組んできたからではないかと思います。

■頭のなかで物語をつくり、それに沿った勝負をしてしまう

また、捕手特有の配球に関する考え方も影響していると見ています。打てない捕手というのは、「自分の頭のなかで描いたもの」へのこだわりが強いような感じがします。

三井康浩氏が実際に1球ごとに記録したスコアブック(写真提供=角川新書編集部)

たとえば、初球にアウトコースのストレートがきたとしましょう。捕手というのは、「自分のリードが一番だ」と思っている節があるので、「自分だったら、次はインコースに投げさせる」などと判断し、そこでインコースを待ったりします。でも相手はまったくちがうことを考えていて、そういった読みの“裏”にあたるアウトコースを投げられたりします。そういう打席を見ながら、「向こうの捕手は自分と同じではないんだよ」ということはよく思っていました。

たとえば阿部慎之介は、1球ずつヤマを張りません。彼は、「この投手はスライダーが得意だから、スライダーを狙おう」といった程度の読みにとどめ、自分のなかで大がかりな物語をつくって細かく読むようなことはしないのです。そういう捕手は打てます。

捕手があまり打てない理由の大部分は選手が備えた元々の素質の差ですが、かたくなに自分の頭のなかで物語をつくり、それに沿った勝負をしてしまうことも影響しているはずです。いわば、野球をよく知るからこその弊害なのです。

■古田には「これは下位のスイングじゃない」と確信を持った

わたしがスコアラーを務めていた時代の打てる捕手のひとりが、1990年にヤクルトに入団し、2年目には打率・340というハイアベレージで首位打者を獲得した古田でした。知的なリードの印象もありますが、打者としての素晴らしさも常に感じていました。わたしはデビュー時からずっと見ていましたが、とにかくスイングが入団当初からすごかった。

1年目こそ下位打線を打っていましたが、「これは下位のスイングじゃない」と確信を持っていたほどです。当時ヤクルトの監督だった野村さんも、当然わかっていたはず。でも、最初はバッティングを脇に置いておいて、捕手の練習を徹底的にやらせたのではないかと思うのです。

さかのぼると、1992年のシーズン途中に巨人に加わった大久保博元も、打てる捕手を探すなかトレードで西武から獲得した選手でした。実はわたしもチームに大久保の獲得をすすめたひとりです。古田と同様にスイングが素晴らしく、「出場機会さえ与えれば絶対打ってくれるはずだ」と信じていました。交渉はうまく進みトレードは成立。大久保はその年、84試合に出場して15本塁打を放つ期待通りの活躍を見せてくれました。

■フリーバッティングへの取り組み方で好不調がみえる

フリーバッティングへの取り組み方は、各選手それぞれです。ケージに入って初球からいきなり思い切り振るのは、ほとんどの場合が代打を本業とする選手たち。彼らは試合でも1打席勝負であり、もっといえば1球に勝負をかけますから、ケージに入って1球目から強い打球を打ってきます。ほかの選手と比べて力強い当たりが多くなるので、「なんだか調子がよさそうだ」と感じることがありますが、その選手の置かれた背景は考慮すべきでしょう。

撮影=角川新書編集部
読売巨人軍で22年スコアラーを務めた三井康浩氏 - 撮影=角川新書編集部

スタメンで出る選手たちは、まず反対方向を意識して打っていきます。反対方向から打っていって、最後は強く引っ張ったりするのが一般的なパターンです。

最初に反対方向におっつけて打つときに、少し打球が弱かったりすると「疲れているのかな?」とか、「調子が悪いのかな?」と考えます。そういうシグナルが出ている打者に対しては、なぜ打球が弱いのかスイングをよく見て好調時との差を探します。大抵の場合は、大振り気味になっていてバットが遠回りして出ていたりするので、そういう兆候を発見したらメモを取り自チームへの報告の材料にしていきます。

■何度もファウルにしている打者はなにかがおかしい

また、バッティングピッチャーが投げる球は120キロそこそこなので、勢いのない「死に球」に過ぎません。ですから、一流の打者なら10球中10球をスタンドに運べてしまうくらいのボールだといえます。それを何度もファウルにしているような打者がいれば、やはりなにかがおかしいと考えるべきでしょう。

三井康浩『ザ・スコアラー』(KADOKAWA)

バッティングケージからも出ていかないような、チップしたファウルを繰り返すケースは捕手によく見られます。「大丈夫なのだろうか……」とも思いますが、捕手は肉体的な負担が大きく、疲労が出やすいという特徴があるから致し方ない部分もあるのです。打球が前に飛ばないのは、疲労が原因である可能性は十分にあり得ます。ただ、厳しい見方をすれば、プロの選手なのだからキャンプでしっかり身体を鍛え、1年間コンディションを保つのが目指すべき姿でしょう。

フリーバッティングは、選手のコンディションを試合とは別の角度から確認できるいい機会です。球場を訪れる際、少し早めに到着すればその一部を見ることができるところもあります。継続的に見なければ判断がつかないという制約こそあれ、ケージのなかの打者注目してみるのも面白いかもしれません。

(三井 康浩)

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