「1人8200円」ディズニー離れがこれから加速する3つの理由
プレジデントオンライン / 2020年2月7日 18時15分
■新型コロナウイルスがディズニーに襲いかかる
オリエンタルランドは東京ディズニーリゾート35周年イベントを開催するなどして、“ディズニーファン”を中心に人々の支持を獲得してきた。その結果2018年、東京ディズニーリゾートの入園者数は3200万人を突破し、過去最高を記録した。
ただし、2020年3月期、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドの業績はやや伸び悩んでいる。背景には、大型台風など複合的な要因が影響している。同社はイベントを行うなどして客足をつなぎとめているが、一人当たりの売上高は増えづらくなっているようだ。人件費などのコスト増加の影響もある。
世界経済を取り巻くリスク要因は増大している。中国経済の減速は世界経済全体の下振れ懸念を高める要因の一つだ。また、新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大は、わが国をはじめ、各国の観光産業などに無視できない影響を与えている。
それらは、オリエンタルランドの業績に無視できない影響を与えるだろう。今後、同社がどのようにして東京ディズニーリゾートの魅力を高め、人々が行きやすい環境を整備するかに注目が集まる。
■苦境でも入園者一人当たりの売上高は増加
オリエンタルランドのこれまでの業績を確認すると、その時々の経済環境や気象の影響などから入園者数が減少する局面においても、ゲスト(入園者)一人当たりの売上高が徐々に増加してきたことがわかる。
同社は、ディズニーキャラクターを用いたイベントやグッズの開発を常に見直している。それが、より満足感(付加価値)の高いディズニー体験を消費者に提供することにつながり、企業としての成長が実現されてきた。この結果、2019年3月期決算は5年ぶりの最高益だった。
特に、同社がチケットの値段を引き上げつつ、人々の支持を獲得し続けてきたことは重要だ。これは、顧客の支持・信頼を得ることが、企業の成長に欠かせない重要な要素の一つであることを確認する良い例といえる。その発想は、製造業にも、非製造業にも当てはまる。
ただ、2020年3月期の業績に関して、当初からオリエンタルランドは慎重な見方を示した。背景の一つとして、35周年イベントが終了した反動によって入園者が減少すると考えられたことがある。
それ以外の要因も業績を圧迫している。昨年の秋には大型の台風が関東地方を直撃した。台風が連休と重なっただけに、ディズニーリゾートへの客足が遠のいたことは想像に難くない。
■消費増税と連動するチケット料金
昨年10月の消費税率の引き上げも、同社の収益にマイナスの影響を与えたと考えられる。オリエンタルランドは、消費税率の引き上げにあわせてチケットの料金を引き上げた。消費者の支出意欲が低下する中で台風が発生した影響は大きかっただろう。さらに、同社は人手不足による人件費の高騰にも対応しなければならない。
こうした要因が重なり、第3四半期決算では売上高、営業利益ともに前年同期の実績を下回った(累計ベース)。セグメント別に業績を確認するとテーマパーク事業では一人当たりの売上高が減少し、ホテル事業の売り上げも減少した。
さらにオリエンタルランドを取り巻く経済環境は、一段と不安定になるだろう。そう考える背景には、複数の要因がある。
まず、中国経済が成長の限界を迎えたことは大きい。基本的に、長期のトレンドとして海外旅行をはじめとする観光需要は世界経済全体の成長率に連動すると考えられる。リーマンショック後の世界経済の回復に支えられ、東京ディズニーリゾートを訪れる外国人の数は増えてきた。それは、同社の収益拡大を支えた要因の一つでもある。
■増大する不確定要素
2018年以降、中国経済は減速が鮮明となっている。すでに中国は世界第2位の経済規模を誇る経済大国だ。中国経済の動向はアジアや南米の新興国の消費や投資、エネルギーや鉱山資源への需要にも大きく影響する。中国経済が減速する中、海外からの来訪客数がこれまでのペースで増加するか否かは見通しづらい。それは、オリエンタルランドが業績拡大を目指すにあたっての不確定要素といえる。
中国経済の減速は、わが国の消費者心理にも無視できない影響を与える。近年、わが国の景気は工作機械や工場の自動化(ファクトリーオートメーション)関連の機器を中心に、中国の需要に支えられてきた側面が大きい。中国経済の減速は、わが国の企業収益にマイナスの要因と考えられる。それは、所得の伸びを抑制するなどして、家計の支出意欲を低下させる可能性がある。
また東京ディズニーランドと東京ディズニーシーの大人と中高生の入場チケットが、2020年4月から値上げされることも無視できない。利用者が最も多い有効期限が1日の「1デーパスポート」は、18歳以上の大人が7500円から8200円に、中高生と高校生が6500円から6900円に上がることになっている。
さらに、春節の連休を控え、中国で新型コロナウイルスによる肺炎の感染が拡大したことの影響も軽視できない。すでに、米国が中国本土への渡航中止を勧告するなど、世界全体でヒト・モノ・カネの動きに無視できない影響が出ている。
例年、春節の連休前後に移動する人の数は30億人に達するといわれる。中国経済の成長とともに観光などの目的でわが国に訪れる中国人の数は急増してきた。オリエンタルランドにとって、春節と新型肺炎の発生が重なり、中国だけでなく世界全体で人の往来が制限されてしまった影響は無視できないはずだ。
■重要取り組みとして注目される“ダイナミック・プライシング”
2月上旬の時点で考えると、オリエンタルランドの業績がどのように推移するかは見通しづらい。時間の経過とともに新型肺炎の感染が抑制される可能性はある。同時に、ワクチンの開発やその実用可能性など、不透明な点も多く先行きは楽観できないだろう。
不確実性が高まる中でオリエンタルランドが成長を目指すためには、新しいアトラクションの設営やイベントの運営などを通して、国内を中心に人々の関心を獲得する必要がある。同時に、混雑の緩和などを進め、より訪れやすい仕組みを整備することも欠かせない。
その一つとして、一律料金ではなく、需要の動向にあわせてサービスなどの提供価格を変動させる、“ダイナミック・プライシング(変動価格制度)”が注目される。その仕組みは人工知能(AI)を用いて需要の動向を分析し、需要の変動にあわせて価格を変えるというものだ。
需要が増えるとサービスなどの価格を引き上げ、反対に、需要が減少すると料金が引き下げられる。すでにテーマパークや音楽のライブ、プロ野球のチケットなどでダイナミック・プライシングが導入されている。
■顧客とウィン・ウィンの関係を目指せ
こうした発想は、これまでのわが国ではあまり見られなかったものだ。消費者の中には、テーマパークの入場者が少ないのに混雑時と同じ料金を支払うことに抵抗感を持つ人もいる。そうした人にとって、ダイナミック・プライシングは自分自身の価値観、ライフスタイルに合う形での消費を実現する魅力的な手段と映るだろう。
休日に比べて混雑が少ない平日に、より低い価格でアトラクションやイベントを楽しむ選択肢が増えれば、「ディズニーランドに行きたい」と思う人は増えるだろう。それは、これまでに東京ディズニーリゾートに関心を持たなかった層の需要を開拓することにもつながる可能性がある。
需要動向にあわせて価格を変動させることは、企業が顧客とウィン・ウィンの関係を目指すために重要な一つの取り組みと考えられる。気象、新型肺炎などの不確定な要素が増大する中、オリエンタルランドが先端のテクノロジーを取り入れつつ、東京ディズニーリゾートの魅力をいかにして高めるかに注目が集まるだろう。
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法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)
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