「世界のレアアースの3分の2がある」北朝鮮を米中が取り合うワケ
プレジデントオンライン / 2020年2月15日 11時15分
※本稿は、ペドロ・バーニョス『国際社会を支配する 地政学の思考法』(講談社)の一部を再編集したものです。
■ドルに致命傷を負わせる覚悟の中国
世界最大級の石油輸入国である中国は、原油の国際取引を人民元建てで行う計画を立てている。人民元は、上海と香港の取引所で問題なく金(きん)と交換可能になるという。それが実現すれば、人民元がアジアにおける石油市場の通貨となり、石油輸出国はこれまでのようにドルを使用しなくてもかまわない。
北京が何年も前から画策してきたこの斬新な計画は、2017年末に実現する予定〔訳注:2018年3月に人民元建ての取引が開始している〕で、そうなると、ロシア、イラン、ベネズエラといった主要な石油輸出国のいくつかは、米国の制裁をかわすことができるだろう。
この動きは、近年、人民元が特別引出権(SDR)〔訳注:国際通貨基金(IMF)が1969年に創設した国際準備資産〕の構成通貨となったことと連動し、国際通貨取引におけるこれまでのドルの覇権に打撃を与えるに違いない。また、こうした動きは、中国と米国の現在の経済対立に照らして考える必要がある。こんなふうに明らかな財政的脅威を突きつけられたホワイトハウスは、いったいどう反応するだろうか?
中国のこの試みが成功すれば、他の国々や市場があとに続く可能性もあり、そうなると、前述のとおり米政府は困難な状況に陥ることになる。
■「統一朝鮮」が日本のライバルになる日
北朝鮮は、強い経済体制の確立を狙っていると同時に、現在の政治体制と政府の運営形態をなんとか保ちつづけようと必死になっていると、国際ジャーナリストのロバート・D・カプランは考えている。朝鮮半島は中国北東の海上交通路をコントロールしており、しかもその境界線に位置する渤海には、中国の外洋においてもっとも豊かな油田が存在する。
カプランは、北朝鮮と韓国がひとつになって新しい国家が誕生すれば、それは重要な経済国となるという。なぜなら、韓国は技術力を持ち発展している一方、北朝鮮には天然資源と規律正しく教育された労働力があって、互いに相手にはない強みを持っているからだ。また統一されれば、その人口は、日本の1億2700万人に対し、7500万人となる。
日本政府にとってこの統一はおもしろくないだろう。なにせ、歴史的に日本に不信感を抱く理由には事欠かない統一朝鮮が、日本の手強いライバルとなるのだから。何より、統一朝鮮は、韓国にとっての最大の貿易国である中国の勢力圏に入ってしまう。そうなれば、中国政府と日本政府の対立は深刻化し、日本の軍事力強化に拍車がかかる可能性もある。
■北朝鮮の鉱物資源を狙うアメリカ
また無視できないのは、北朝鮮に対する米国の狙いが、現在の平壌をより米国寄りの政府にすり替え、北朝鮮の有望な鉱業界に米国企業の参入を図ることだという可能性だ。
あまり知られていないいくつかの調査によると、北朝鮮の領土にはまだ開発されていない大量の鉱物が存在し、総価値は10兆ドル以上にのぼるともいわれている。北朝鮮に石炭が豊富にあることはよく知られているが、加えてとくに金、マグネサイト、銅、モリブデン、銀、タングステン、バナジウム、チタン、亜鉛、レアアース、鉄、黒鉛といった鉱物が眠っているらしい。
北朝鮮にはレアアースだけでも、世界の総埋蔵量の約3分の2、中国の6倍はあるだろうと推定されている。マグネサイトは世界で第2位、そして下層土には地球上で6番目に多いタングステンが存在すると見込まれる。米国の戦略から、これほどおいしい宝が見落とされているとはとても考えられない。
■中国が「自由貿易の世界的リーダー」に?
一連のグローバル化のプロセスは、とくに英国と米国のアングロサクソン系によってつくられ、推進されてきた。しかしいま、それは大きな変革期にあり、結末がどうなるかはまだわからない。そして公式には共産主義国である中国が、資本主義の擁護者になろうとしている。
アジアのこの国は米国に次ぐ世界第2位の経済力を誇るが、購買力平価説〔訳注:2国間の為替レートは、各国通貨の同一財の購買力の比較で決まるという為替相場の決定理論〕で見ると世界第1位で、いまやグローバリゼーションおよび自由貿易の世界的リーダーとなることを目指している――。
2017年1月18日のダボス会議でそう述べた習近平国家主席は、さらに貿易と投資の自由化に尽力すると強調した。同時にこの中国のリーダーはあらゆる保護主義に断固反対する姿勢を見せた。これは明らかに、ホワイトハウスに着任後のドナルド・トランプがことあるごとに公言してきた、米国経済に損害を与えている中国製品に対する関税引き上げの意思に対抗するものだ。
習近平は「貿易戦争には勝者はいない」とまで言い放った。このように、明らかに世界経済の支配を目指して歩んでいる中国だが、掲げた目的を達成するために大きく前進する主要な原動力としてイノベーションに賭け、自由でオープンな貿易協定のネットワークを構築しようとしている。
■世界中の市場を中国製品が埋め尽くす
実際にこの巨大なアジアの国が目指しているのは、“新グローバリゼーション”の世界をつくり、そのリーダーになるだけではなく、その支配者になることだ。
工業製品から最先端テクノロジーまでのあらゆる分野で、世界中の市場を中国製品で埋めつくすことも可能だろう。しかも、社会経済的レベルがより高い他国が太刀打ちできないほど安い価格の製品で。
![ペドロ・バーニョス『国際社会を支配する 地政学の思考法』(講談社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/1/200/img_6103de85998f59392c9cfb4d455a9b09306927.jpg)
この一人勝ち競争によって多大な利益を得るであろう中国は、それを、従来の軍事からサイバースペース、さらには宇宙にいたるまでの新しい分野の開発につぎ込むことができる。これまで全世界の指揮をとってきた国々にとっては大いに気がかりだろう。
こんな野心的な経済発展を促進させるため、中国は世界のGDPの約60%を占め、地球の総人口の75%にあたる領域と経済を通じてつながれるよう、リアルとバーチャルの両方で世界規模のネットワークをつくる具体的な計画を進めている。中国とヨーロッパを道路や鉄道でつなぐ新しい「シルクロード経済ベルト」や、中国を東南アジア、インド、中東、アフリカと結ぶ「21世紀海上シルクロード」などがその例である。
■始まった米中の命がけの戦い
公には共産主義を掲げている国が大きな資本主義国家へと変貌し、資本主義の旗振り役となる過程を見ていると矛盾を感じずにはいられないが、これこそ、経済が国政や地政学におよぼす影響がよく表れている例だろう。
今後は、自分たちがつくり上げたグローバル化を中国に“横取り”された米国の反応を見ていく必要がある。中国政府が“新グローバリゼーション”で世界を支配しようとしているときに、ワシントンが手をこまねいているとは考えられない。
経済面での対立は間違いなく始まっており、それは、やがて命がけの戦いとなるだろう。従来の戦争にならないことを祈るばかりだが、その危険性もないとはいえない。別の国々の間で戦争が勃発したり、第三国で戦争が繰り広げられたりすることも考えられる(北朝鮮が戦場となり、そこで間接的に米国と中国が戦うことになるかもしれない)。
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1960年生まれ。スペイン・サラゴサの陸軍参謀学校、および陸軍士官学校卒。マドリード・コンプルテンセ大学で安全保障学の修士号を取得。スペイン各地で部隊指揮官としての経験を積んだ後、陸軍参謀本部の分析官、ストラスブールの欧州合同軍における防諜部門のリーダー、スペイン国防省参謀本部の地政学分析主任などを歴任。現在も地政学、戦略、防衛、セキュリティ、インテリジェンス、テロリズム、国際関係のアナリストおよび講師として活躍。
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(スペイン陸軍予備役大佐 ペドロ・バーニョス)
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