管理会社の本音「高齢者を敬遠するこれだけの理由」
プレジデントオンライン / 2020年2月13日 15時15分
※本稿は、太田垣章子『老後に住める家がない!』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。
■高齢者に入居してもらうことへの漠然とした不安
【太田垣 章子(司法書士)】今日は、賃貸管理業務のエキスパートである熊切さんにぜひ、高齢者の賃借人についての嘘偽りないお話を聞かせていただきたいなと思っているので、どうぞよろしくお願いします。
【熊切 伸英(ベルデホーム統括部長)】こちらこそ、よろしくお願いします。
【太田垣】熊切さんとは長いお付き合いをさせていただいているので、いつもの通り「クマさん」と呼ばせていただきますね。
【熊切】はい、ぜひ、それでお願いします(笑)。
【太田垣】最初から率直な質問で恐縮なんですけど、高齢者がなかなか部屋を借りられないのは、結局、家主さんやそれを管理するクマさんのような立場の人が、高齢者を入居させることに二の足を踏むせいですよね。
【熊切】それは、否定できませんね。正直なことを言うと、ひと昔前までは、70歳オーバーと聞いただけで、家主さんにあえて確認を取ることもなく、「無理です」って即断ることもありました。
【太田垣】やはり高齢者に部屋を貸すのはリスクが高いと感じていらっしゃるわけですね。
【熊切】まあ、漠然とした不安がある、としか言いようがないですけどね。よほどしっかりした連帯保証人や緊急対応してくれる人がいれば話は別でしょうけど。ただ、最近は、厳しいかなと思っても、必ず家主さんに確認を取るようにはしています。エリア的(埼玉県北部)に空室問題の方も深刻なので、家主さんの中には、空室を埋める方を優先したいと言う方もいらっしゃいますし。
【太田垣】多少のリスクは目をつぶるか、という感じですか?
【熊切】もちろん、そういう背に腹は代えられないという事情もありますが、高齢者って言っても最近はとても元気な方も多いし、単純に年齢では測れないということが分かってきた、という面もありますよ。だからこの年齢を超えたら一律断る、っていうのは減ってきているように思います。
■高齢者からの問い合わせには日常レベルの問題も多い
【太田垣】昔の70歳と今の70歳は全く違いますしね。
【熊切】僕もそれは実感します。そもそも介護が必要になるような方は、そのような施設の方に入られるケースが多いわけだから、家を探している高齢者の方って基本元気なんですよね。
【太田垣】とはいえ、管理する立場からすると、高齢者の入居を家主さんに強くは勧めたくはないというのが本音ですか?
【熊切】もちろん、家主さんがOKと言っているのにとやかく言うことはしませんが、あとあと面倒なことにならなきゃいいなあという思いが頭をよぎるのは否定できないですね。
【太田垣】孤独死の問題とか?
【熊切】もちろんそういう深刻な問題もありますが、高齢者の人って何かと苦情とか日常レベルの問題も結構多いんですよ。
【太田垣】ああ、確かに、音の問題とか、若い人だと気にしないレベルのことでクレームが入ったりするって私もよく聞きます。
【熊切】高齢者の方で多いのは、長く住んでいたところが取り壊されることになったから、別の部屋を探さなきゃってパターンなんですね。そういう人って引っ越ししたくて引っ越ししたわけじゃないから、運よくいい物件が見つかってもなかなかめでたしめでたしとはならないことが多くて……。
【太田垣】え、なんでですか?
【熊切】やっぱり住み慣れたところを離れるっていうのは、特に高齢の方にとっては大きなストレスなのか、やたらと文句が出るんです。それも引っ越した当日から。
■便利屋的な仕事までやらされるリスク
【太田垣】いきなり?
【熊切】「テレビがちっちゃくなったから来てくれ」とか。前の家から持ってきたご自分のテレビなのに(笑)。
【太田垣】どういうことなんですか?
【熊切】とにかく来てくれというから行ってみたら、単に、テレビの配置が変わっただけだったんです。つまり、前は自分が座ってる場所のすぐ横にテレビがあったのに、端子の都合でもっと壁よりに置くことになった、ってだけ。「じゃあ、こっちに座ってください」って座る位置を変えてもらったら「ああ、戻った」って(笑)。
【太田垣】私もその類の話よく聞きます。
【熊切】エアコンのリモコンの使い方が分からなくて、つけたはいいけど、消せなくなったからもう凍えて死にそうだ、って電話がかかってきたこともありますよ。
【太田垣】死にそうだって言われるとほっとけないですよね。
【熊切】入居者からのクレーム対応は基本的に管理会社の仕事だから、こういう便利屋的な仕事までやらされるリスクを考えると、「高齢者は面倒だ」っていう印象はなかなか拭えないかもしれませんね。更新の話とか、保証会社の話とか、火災保険とかの話も、若い人のように書類のやり取りだけで終わることはまずないですし。
【太田垣】「これ意味分かんないんだけど」って会社にやってきたり?
【熊切】わざわざ会社に出向いてくださる方も多いので、そういう意味では助かるんですけど(笑)、まあ、手間じゃないといえば嘘になります。
【太田垣】高齢者だと、なかなか話が通じなかったり、やたらと頑固で理不尽に説教してくる人なども珍しくないですしねえ。
【熊切】でもまあ、家賃をちゃんと払ってくれるなら、こういうのもね、まあ、我慢というか、許容範囲ではありますけどね。
■警察と一緒に高齢入居者の部屋に入った結果…
【太田垣】高齢の賃借人の問題を語るとき、避けて通れないのが孤独死なのですが、クマさんも遭遇した経験はありますか?
【熊切】つい、この間もありましたよ。
【太田垣】この間!?
【熊切】はい。まだ70歳くらいの方だったんですが。
【太田垣】どういう状況だったんですか?
【熊切】定年退職した会社にアルバイトのような形で入ってた方なんですが、出勤するはずの日なのに来てないとご本人のお兄さんに連絡があったそうなんです。それで、安否確認してほしいとうちに連絡があったんです。
【太田垣】なるほど。
【熊切】それで、おまわりさんと一緒に部屋を訪ねてみたら、中がすごいことになってて。
【太田垣】いわゆる「汚部屋」ってやつですか?
【熊切】そう。それで、ゴミをかき分けて中に入っていったら、亡くなってる本人を発見したんです。
【太田垣】なかなか強烈ですね。死因はなんだったんですか?
【熊切】おそらく熱中症なんじゃないかなあ。電気は付けっ放しなのに、エアコンが動いてなかったんです。どうやら壊れていたみたいで。設備のエアコンだから、連絡をもらえていたらすぐに直しに行ったのに、連絡をもらった形跡はないんですよ。
■汚部屋が孤独死を引き起こした?
【太田垣】これだけ暑い時期だから相当辛かっただろうに、なぜ連絡されなかったんでしょう?
【熊切】これは僕の想像でしかないのですが、汚部屋を見られたくなかったんじゃないかなあと。
【太田垣】なるほど。確かにその可能性はあるかもしれませんね。亡くなられてから何日くらい経ってたんですか?
【熊切】出勤してこなかった翌日ですから、死後1日です。だから夏ではあったけど死体の腐敗はなかったんですよ。でもゴミは腐敗してました。
【太田垣】その撤去も大変ですよね。
【熊切】亡くなられたことは残念ですが、近くにお兄さんがいらっしゃったから、撤去の費用も負担してくださることになりましたし、解約手続きなどもスムーズに進んだので、まあ、家主さんのダメージは最小限に抑えられたかなとは思います。
■家賃の口座振替に潜む危険
【太田垣】何かしら仕事をしているなど、社会との接点があれば、誰かが気づいてくれる可能性は高いでしょうが、仕事も特にしてない、隣近所との付き合いもないという方は、万が一のことがあってもなかなか発見されなかったりしますよね。
【熊切】そうそう。家賃って口座振替されるから、年金が入ってくる口座から毎月きちんと引き落とされてたりすると、滞納もないからこっちも気づきようがないんですよ。
【太田垣】一時期、親族が死亡届を出さず、延々年金を受け取ってる人がいるって問題になったじゃないですか。
【熊切】ああ、ありましたね。
【太田垣】その時、私が管理顧問をしている管理会社さんと一度きちんと入居者の年齢を洗い出してみましょうってことになったんですね。それで、中に94歳になっている方がいて、念の為確認に行ったら、もう人が住んでる気配じゃないんですよ。もう埃まみれだし、ドアももう何年も開けてないでしょ? って感じで。お身内もいないということで、警察の方に安否確認で中に入ってもらったら……。
■ミイラ化した遺体に遭遇してしまった
【熊切】もう嫌な予感しかしないですね。
【太田垣】そう。もうミイラ化したご遺体を発見されたんです。
【熊切】かなり時間が経ってたんですね。
【太田垣】4年くらい経ってたみたいです。ミイラ化してたせいで、全く臭いはなかったんですけど。
【熊切】そこまでくると臭わないんですかね。
【太田垣】聞いた話だと、胃の中に物が残っているとそこから腐敗していくらしいんですよね。胃の中が空っぽだったりすると、そのままミイラ化して、ほとんど臭わないこともあるそうなんです。
【熊切】そうなるとなかなか発見は難しいですよね。孤独死って、周囲の住民の方から「変な臭いがする」というクレームが入って気づくことが多いですから。
【太田垣】あれは独特ですもんね。
■「隣の家の窓にハエがいっぱいたかっている」
【熊切】これわりと最近の話なのですが、「隣の家の窓にハエがいっぱいたかってて、変な臭いがする」というクレームが入ったんです。入居者を調べてみたら、まだ70歳くらいの方だったので、「汚部屋」のパターンかなあと思って、連絡してみたんですが全然連絡がつかなくて。お兄さんが保証人だったので、その方に連絡したら「弟は部屋を汚すようなタイプじゃない」っておっしゃるんですよ。「おかしいから中を調べてくれ」って言われて行ってみたら。
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【太田垣】ああ、もしかして。
【熊切】はい、亡くなられていました。この方も家賃は口座からきちんと引き落とされていたので、こちらも気づかなかったんですが、どうやら3カ月くらい前には亡くなられていたようなんです。不幸にも夏場だったので、それはもうすごい臭いでした。
【太田垣】壮絶な現場だったんですね。
【熊切】これもね、お兄さんがいらっしゃったので、解約手続きなどは問題なかったのですが、なにせお兄さんも高齢でいらっしゃったので荷物の撤去作業に僕も立ち会ったんですが……。
【太田垣】クマさん、そこまでやるんですか?
【熊切】もうね、一般的な防臭マスクレベルじゃ全く効かなくて、一応プロ仕様の強力な防臭マスクを使ったんですが、まあ、それでも臭いましたね。
■作業着に遺体の臭いが染み付いた
【太田垣】もう、防護服みたいなのを着ていかないと。
【熊切】一応作業着で行ったんですけど、なんだかんだで2時間くらい現場にいたから、臭いが染み付いちゃって。もうその作業着は二度と着たくないです。
【太田垣】大家さんの中にも、そんな壮絶な体験をしたことがある人もいると思うのですが、そうなると多分、もう賃貸経営なんかやりたくない! って思っても不思議じゃないですよね。
【熊切】孤独死も含めた高齢者ならではのトラブルについては、家主さんや管理会社は年中耳にしているんですよね。それが積もり積もって、「何も好き好んで高齢者に部屋を貸すことはないかな」というムードが蔓延しているというのが実情でしょうね。
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司法書士
章司法書士事務所代表。30歳で、専業主婦から乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。登記以外に家主側の訴訟代理人として、延べ2300件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。
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ベルデホーム統括部長
電鉄系不動産会社にて一戸建・マンション販売営業を7年間経験後、埼玉県久喜市のベルデホームにて賃貸管理業務を10年間担当。その後、不動産コンサル会社、シー・エフ・ネッツにてプロパティマネジメント事業部マネージャーを経験。2009年より現職。その傍らセミナー講師としても多数活躍中。著書に『助けてクマさん! 賃貸管理トラブル即応マニュアル』(週刊住宅新聞社)など。
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(司法書士 太田垣 章子、ベルデホーム統括部長 熊切 伸英)
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