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日本人特有の雨ニモマケズ軍隊通勤では労働生産性は上がらない

プレジデントオンライン / 2020年3月28日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/grinvalds

毎日が単調だ。退屈だ。通勤電車に揺られるたびに、このサラリーマン生活に疑問を抱かずにはいられない。どうしてみんな平気なのか。仕事に追われて鼻高そうにしている中年なんて、かっこ悪い。新時代を生きる2年目編集部員が、新しい働き方を探しにハワイに向かった。

■災害時も出社する日本のサラリーマン

なぜ我々は毎日スーツを着て会社に出社する必要があるのだろうか。

自宅でコーヒーでも淹れながら、スウェット姿でラジオでも聞いているほうがよっぽどいい案が浮かびそうだ。そんなことを頭の中で考えながら、私たちサラリーマンは満員電車に乗って今日も会社に向かう。

2019年に日本列島を襲い、甚大な被害を記録した台風19号。NHKの調べによると、死亡が確認された人数のうち、「仕事中」や「通勤・帰宅中」など仕事に関連して屋外を移動している間に被害にあったとみられる人がおよそ15%にのぼった。出社などせずに静かに自宅待機をしていれば、この15%の人々は命を落とさずに済んだはずだ。

彼らが会社員であるのか自営業者であるのかは定かではないものの、あの状況で出社を強いられた会社員もいる。台風の影響で構内が浸水し、エスカレーターやエレベーターなどが故障したJR武蔵小杉駅では、利用客が殺到し、1時間の渋滞が発生。その多くが会社に向かおうとするサラリーマンたちであった。

果たして、そこまでして会社に向かう意義はあるのだろうか。

働き方改革関連法が参議院本会議で可決、成立したのは18年6月のことだ。19年4月から順次施行されているため、根性論がまかり通っていた昭和の労働環境も見直されることが予想される。雨ニモマケズ、風ニモマケズに「通勤」する必要もなくなるかもしれない。

■「旅をしながら仕事」実証実験に同行した

そんな状況に先立ち、日本航空(以下、JAL)は17年の夏にとてもフレキシブルで魅力的な働き方改革を自社に導入した。

「ワーク」と「バケーション」を掛け合わせた「ワーケーション」という制度である。この言葉はもともと00年代にアメリカで生まれたものであるが、日本ではあまり聞きなれない。

ワーケーションとは、休暇中に旅先で仕事をする働き方。リゾート地などで余暇を過ごす一部の時間をリモートワークにより労働時間とする。旅先にいながらも、出社扱いとなるため、働いた分の給料は支給される。

これに加え、「出張」と「レジャー」を合わせた「ブリージャー」という言葉もある。こちらは出張先で業務を終えた後、そのまま休暇に入るというシステムだ。

このほどJAL、日本マイクロソフト、JR東日本は、異業種連携による働き方改革を推進するコミュニティとなる「MINDS」(マインズ)を19年に発足。そのなかで、JALがプロジェクトリーダーとなり、ワーケーションにおける心理状態の調査をし、「時間と場所の制約から解放するためには?」をテーマに、同制度の日本社会への普及を推し進めている。

今回は、「MINDS」がハワイでの実証実験を行うということで、現地まで同行した。

MINDSのワーケーション実証実験には、大手企業の若手社員ら計9人が参加。識者を招き、働き方についてじっくりと語り合った。
MINDSのワーケーション実証実験には、大手企業の若手社員ら計9人が参加。識者を招き、働き方についてじっくりと語り合った。

実験に参加したのは、JAL、日本マイクロソフトのほか、カブドットコム証券、日鉄興和不動産、三菱地所などの若手社員ら計9人。現状の業務を時間と場所に縛られることなく、より効率的にしていきたいという向上心を持ち、自主的に参加をしている。

まず、「MINDS」は現在の日本企業における働き方について、どういった問題があると考えているのか。実験に同行したJAL人財戦略部の東原祥匡氏はこう話す。

「日本の労働人口が減っているいま、求められているのは柔軟性のある働き方です。たとえば、子育てや介護によって限られた時間しか働くことができない場合、共通するのは仕事の質を追い求めるようになること。ひとり当たりの労働生産性を向上させるということです。その点、リモートワークはとても効果的な手段です。オフィスに出社せずに働くことが認められないと、仕事を辞めざるをえないという人も増えてくるはずです。

リモートワークを導入するのは企業としてはなかなか勇気がいることですが、そのままにしておいても数年後にツケが回ってくるだけだと考えています」

また日本企業でよく問題視されるのが長時間労働の常態化だ。

働き方改革により、積極的な有給休暇の取得促進がされたとしても、業務上の問題や社内の雰囲気などで、休みを取ることが困難な人もいるだろう。

たとえ休みを取ったとしても、休み明けにはメールや業務がどっさりと溜まってしまい、それはそれでストレスになる。それ以前に、土日の休みも結局、パソコンを開いて、電話対応までして、一日が終わってしまう人もいるかもしれない。その場合、「休日返上」という形になり、もちろんタダ働きだ。

インターネットにより、「いつでも、どこでも、誰とでも」つながることができるようになり、仕事はケタ違いに効率化されたが、逆に勤務時間外の業務対応を誘発し、現代人を悩ませる原因にもなっているといえよう。

■中間管理職にしわ寄せが

そして、これら現代の働き方における諸問題の犠牲となっている代表格が、中間管理職だ。都内のIT企業で部長として働く40代の男性は現在の職務について、こう悩みを打ち明ける。

「世の中の風潮もあって、会社は若い社員に残業をさせないようになりました。しかし、彼らが残業をしない代わりに働く時間が増えるのは私たち中間管理職です。面倒を見る部下が何人もいるので、常に複数のタスクの責任を負わなければいけません。私の休日は土日ですが、土日は土日で動いているチームもある。その場合、休日に関係なく私にはひっきりなしに連絡がきて、対応を求められます。さらに、中間管理職になるような年代は、仕事以外の責任も増えます。子どもの進学、家のローン、親の介護。考えることが山積みです」

こういった中間管理職たちが長期休暇を取り、余暇を楽しむなど夢のまた夢。会議や打ち合わせなど、業務でスケジュールはあっという間に埋まり、連日会社を空けることはどうしても困難になる。そんな中間管理職たちを救うのが、このワーケーションなのである。東原氏の話に戻ろう。

「たとえば、月曜から金曜日まで通しで休みを取れれば、土日を含んで9連休になります。そうすれば、海外にだってどこにだって行くことができる。仕事に追われている中間管理職に対しても、それを実現可能にしてくれるのが、ワーケーションという制度なのです。家族でリゾート地に休暇を楽しみに行き、そのうち決められた時間だけリモートワークによって仕事をする。旅行先で“出社”をするのです」(東原氏)

業務が終われば、家族に合流して再びリゾートを満喫する。

■「ハワイ」の価値が変化している

誤解をしてはいけないのは、休みの日も仕事をしなければならないというわけではない、ということ。ワーケーションは、長期休暇が取れない人々に、それを実現させる休みの取り方の1つにすぎない。

「ハワイと日本の時差は19時間で、リモートワークでも調整が利きやすい。『仕事が終わったら、どこへ行って何をしようか』とポジティブになれる」(東原氏)
「ハワイと日本の時差は19時間で、リモートワークでも調整が利きやすい。『仕事が終わったら、どこへ行って何をしようか』とポジティブになれる」(東原氏)

JALは、ハワイでの長期滞在をワーケーションと同意義と捉え、5泊以上の滞在の場合、割引運賃の適用やワーキングスペースの提供、ホテル側からの特典などを盛り込んだ「ワーケーションサポート」という商品の販売を始めた。

ところで、なぜハワイなのか。それには、時差の点で調整が利くという理由以外にも深いものがある。

JAL国際線の記念すべき第1便はサンフランシスコ便であり、その経由地として機能していたのが、ハワイであった。JALとハワイの関係は66年にも及び、同社にとって思い入れの強い土地でもある。

そのなかで競合であるANAは、19年5月ハワイ線に世界最大の総2階建て旅客機A380(520席)を導入。提供座席数は140%増となり、JALのハワイ線に暗雲が立ち込めた。そういった背景もあり、より差別化したハワイ旅の提供に力を入れている。JAL国際路線事業部の阿部元久氏にその展望を聞いた。

「ひと昔前のハワイといえば、『みんなで一緒にビーチとショッピングへ!』といった単純なものでした。しかし、そういった大量輸送の時代は終わりました。パッケージでもなく、ツアーでもなく、より個を重視したマーケティングに世の中が変わってきています」

阿部氏によれば、日本人観光客のハワイでの滞在の仕方はすでに大きく変わってきているという。Uberなどの普及で現地での移動手段がとても柔軟になった。それに伴い、ガイドブックではなくSNSを参考に訪れる場所を決める人が増え、ショッピングだけではなく体験を重視するようになり、現地の人との交流など新たなハワイの価値が生まれた。

従来の大型ホテルだけではなく、コンドミニアムや一軒家で暮らすように過ごすスタイルも出てきた。こういった変化に合わせ、JALは世界最大級の民泊サイト「HomeAway」とも提携を結んでいる。

■もう会社には戻りたくない

「ビーチとショッピングだけで終わるハワイは非常にもったいない。ハワイを通して人生も豊かにする旅を提案していきたい。それにワーケーションという制度がぴったりとマッチしたのです」(阿部氏)

筆者は、プレジデント編集部所属、社会人2年目の若造である。今回は2泊のハワイ出張ということだったが、僭越ながら5泊に延長。ブリージャーという形にはなるが、旅先でPCを広げ、ワーケーションを体験した。感想を一言でいうと、「もう会社には戻りたくない」である。

大体、日本にいるときは複数の仕事を抱えすぎである。なにか独創的なアイデアを考えようとしても、目の前にあふれる業務に気を取られてしまう。

ましてや会社にいれば、「これできないか、あれはどうなった、あれはどうする」と、次から次へと急き立てられる。でもハワイならそれがない。物理的な距離があることは圧倒的に強い。いい意味でお互いにあきらめがつくのだ。

すると、1つの物事にスッと集中力が注がれ、それしか考えないものだから、自然とアイデアは洗練されていく。

たかが1回、されど1回。年に1回こういう休みがあるだけで、中間管理職のストレスもだいぶ軽減されるんじゃないか。1回くらい認めてやってくれよ。

さて、早く仕事を終わらせて、ハワイのビーチでアバンチュールでも楽しんでこようか……。

(プレジデント編集部 撮影=プレジデント編集部)

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