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2分に1度の大轟音「羽田新ルート」でタワマンに下落リスク

プレジデントオンライン / 2020年2月20日 11時15分

離着陸数が増加する東京。南風の吹く都心上空を、全日空機が羽田空港新ルートを実機で試験飛行した=2020年2月12日 - 写真=AFP/アフロ

東京都心の上空を行き来する羽田空港の新ルートの運用が3月29日から始まる。不動産コンサルタントの長嶋修氏は「住宅街に轟音が響けば、不動産価格に影響が出る恐れがある。例えば上階ほど価値が高いタワーマンションの価格は、試算で最大26%の下落リスクがある」と指摘する——。

■新宿・渋谷・品川など東京都心にジェット音が鳴り響く

「結構うるさいね」
「こんなに低空とは思わなかった」

筆者は東京渋谷区・代官山に住んでいるが、2月に行われた試験飛行で、金属と空気の摩擦音やジェット音を伴って次々と飛来する大型旅客機を見上げつつ、街を行き交う人がこんな感想を漏らしているのを複数見かけた。

3月29日から、羽田空港に新空路が設定される。訪日外国人の増加や2020年7月に控える東京オリンピック・パラリンピックへの対応、首都圏の国際競争力強化などを目的として深夜・早朝時間帯を除きフル稼働している羽田空港の発着便を増やすべく、旅客機は埼玉県上空で左旋回した後、高度を下げながら新宿・渋谷・目黒・港・品川・大田区といった東京都心上空を抜け羽田空港に着陸する。

「松濤」「青山」「広尾」「代官山」「白金」「御殿山」といった、東京都心の閑静な高級住宅街やタワーマンションの数百メートル上空を大型旅客機が飛来することとなる。ルート下には、上皇・上皇后ご夫妻の仮住まい先となる「高輪皇族邸」もある。

計画では都心部上空を着陸体制で、300~900メートルの低空飛行で通過。着陸時間帯は15時から19時(南風運用時)のうち3時間程度に限定されるものの、この間は発着数が最大90回、2分に1回といった、通勤ラッシュ時のJR山手線より多いペースで大型旅客機が続々と飛来する。

これに先立ち、国土交通省は2日から12日にかけて旅客機の定期便がこの空路を飛ぶ「飛行確認」を行い、ルート周辺で測定した騒音のデータの分析を進めている。

■“騒音”が不動産価格に与える影響は決まっていない

これによる懸念は大きく2つだ。まずは「旅客機からの落下物」。人口密集地帯である都心部に機体の一部などが落下すれば、その影響は計り知れない。国交省は「各エアラインには注意喚起を促す」としているものの、現実に飛行機から部品が落ちてきたといった実例は、ある。

もう1つは「騒音」。一般に、線路や高速道路・工場など騒音や振動・臭いを発するいわゆる「嫌悪施設」の影響を受ける不動産は、その価値が一定程度下落する。例えば閑静な住宅街の真ん中にいきなり騒音を放つ工場ができれば、その影響は甚大だろう。だからこそ都市計画法ではその用途を主に「商業系」「工業系」「住宅系」の3つに分類し、土地利用を制限している。

ところが今回のように、上空からの飛行機騒音や落下物の可能性は、都市計画には織り込まれていない。さらに、新空路の下には、閑静な高級住宅街や高級タワーマンションが多数存在する。

一般論として「ゴミ焼却施設」や「下水処理場」「葬儀場」「火葬場」「刑務所」「火薬類の貯蔵所」「危険物を取り扱ったり悪臭・騒音・震動などを発生させたりする工場」「高圧線鉄塔」「墓地」「ガソリンスタンド」などが嫌悪施設に該当するとされるが、明確な定義はない。不動産取引を規定する「宅地建物取引業法」では、「相手方の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」に関して説明義務を課しているだけだ。

したがって、こうした嫌悪施設から具体的に何メートルの距離にあった場合、どの程度の騒音の場合に、どの程度資産価格に影響があるといった基準もなく、どの程度の状況なら説明するかといったさじ加減は、不動産各社にゆだねられているのが実情だ。

■マンション40階なら120メートル分騒音に近づく

今回のケースでは、駅周辺や繁華街など商業系地域で、従前から一定の騒音が発生している地域のみならず、松濤・青山・広尾・代官山・白金・御殿山といった、都心を代表する高級住宅街でこうした騒音が毎日発生する。またタワーマンションは「眺望が良い」といった観点から、一般に上階に行けば行くほど資産価格が高い。ところが、上空から騒音が発せられるとなると、話は変わってくる。1Fあたりの高さが3メートルと換算すると、30Fは90メートル、40Fなら120メートル分、音源に近づく。港区には47F建てのタワーマンションもある。

具体的にどのくらいうるさくなるか。国交省の想定では、渋谷駅周辺が高度600mで最大74dB(デシベル)、五反田・品川駅周辺が高度450mで76dB、大井町駅周辺は高度300mで80dBだ。70dBといえば、「電車の車内」「掃除機の音」「騒々しい事務所の中」と等しい。80dBでは「地下鉄の車内」「ボウリング場」「交通量の多い道路」「機械工場の音」と同等であり会話がかき消されるほどの騒音だ。

■1億円のタワマンが7500万円程度になる計算に

では、資産価格はどのくらい下がる可能性があるだろうか? ところがわが国には、騒音が資産価格に与える影響に関し明確な基準はなく、裏付けとなるデータも存在しない。そこで海外事例を参照してみる。アメリカのコンサルティング会社が1994年に米連邦航空局に提出した報告書によれば、ロサンゼルス国際空港北部における、飛行機騒音による不動産価格は、1dB上昇するごとに1.33%ずつ下落していた。

このデータを用い、環境省が定める「環境基準」(生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準)の55dBをベースとして試算すると、現状は環境基準程度の騒音状態である代官山や白金あたりの資産価格は最大25%、現在60dB程度の大井町駅周辺では最大26%の資産価格下落の可能性がある。1億円のタワーマンションは7500万円程度になる計算だ。

タワーマンションの高層階で、サッシの防音等級がそれほど高くない場合には、下落率はさらに高くなるかもしれない。

こうした懸念に対して国交省は「航空機の飛行と不動産価値の変動との間に直接的な因果関係を見出すことは難しい」と回答をしつつ、各地で説明会を開催するなどのアクションを起こしてきた。筆者はいくつかの説明会に参加したが、とある会場では、担当者に猛然と抗議する地域住民の姿がみられた。複数の反対運動を行う会が結成され、HPや街頭活動を通じて見直しを訴えている。

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長嶋 修(ながしま・おさむ)
不動産コンサルタント
さくら事務所会長。1967年生まれ。業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」を設立し、現在に至る。著書・メディア出演多数。YouTubeでも情報発信中。

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(不動産コンサルタント 長嶋 修)

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