なぜ、年をとったら若い人を「さん」づけで呼ぶべきなのか
プレジデントオンライン / 2020年3月3日 15時15分
■新しい名刺を1年で200枚
「50代になったらこの先無駄な付き合いで時間を浪費しないよう、人間関係の整理を始めよう」。そんなことを思っている人はいませんか? いるとしたら、考え直したほうがいいかもしれません。おそらくそういうことを言う人は、いまが人生百年時代ということを知らないのです。
私は現在88歳ですが、人間関係の整理をしたことなんて、これまで1度もありません。人脈はいまだに増え続けています。昨年だけでも新しい名刺を200枚以上もらいました。そのうち半分以上は女性です。専業主婦だった人が自分の強みに気づき、セミナー講師を始めた、などという人がとても多いのです。
自分の人生を振り返ると、生きることを心の底から楽しめるようになったのは、70代になってからです。
私に言わせれば、50代とは、60代以降の第二の人生を心おきなくエンジョイするための考え方や行動を身につける時期です。そんな時期に人間関係を整理するなんて、とんでもない。反対に意識して広げていかなければいけません。
そのとき、気を付けなければならないのは、「同」ではなく「異」の人たちと積極的に出会うようにするということです。
「同」や「異」とはどういうことでしょうか。少し説明が要りますね。
■自分がどんな人脈を持っているか
ためしに自分がどんな人脈を持っているかを書き出してみましょう。おそらくほとんどは、同性、同年齢、同世代、同職種、同趣味というように、自分と重なる部分が大きい人とばかり付き合っているのではないでしょうか。
たしかに、こういうグループにいれば居心地はいいに決まっています。けれども、いざ新しいことを始めようと思ったときには、残念ながらこの手の人たちはあまり役には立ちません。むしろ、そんなことはやめておけと、足を引っ張ってくる確率のほうがはるかに高いと思います。
だから50代になったら、異性、異年齢、異世代、異職種、異趣味の人たちと積極的に交流することが大事なのです。そうして、そこで新たな人脈をつくるのです。彼らはこれまであなたが知らなかった世界の知識や情報を持っています。それがあなたの人生に新鮮な刺激をもたらしてくれるのです。
私自身が最近経験したことをお話ししましょう。付き合いのある葬儀屋の奥さんから、こんな話を聞きました。
西日本のある地域には、大きな葬儀があると、擦り切れた喪服を身にまといカラの香典袋持参で葬儀にこっそり参列する、通称「お供養もらい」という人たちがいるのだそうです。もちろん故人と関係があるわけではありません。その地域では香典のお返しに商品券を出す風習があり、お供養もらいの目当てはその商品券です。
地域の葬儀業界の人たちは彼らの存在に気が付いているのですが、見て見ぬふりをしているそうです。広い意味ではそれも故人の供養になるという考え方があるのかもしれません。
ただ、そのお供養もらいが近年はめっきり少なくなったといいます。いまの日本では亡くなる人が多く、葬式そのものも多いのですが、家族葬などコンパクトな規模の葬式が増え、それだと、どこの誰ともわからないお供養もらいは参列しにくいのです。
私は表にも裏にも多種多様な人脈を築いているので、こういうおもしろい話をたくさん聞くことができ、仕事の発想もどんどん広がるのです。
とはいえ、実際にはどうやって「異」の人脈をつくるべきか、わからない人が多いと思います。それなりのおカネを使わなくてはいけないのではないか、と心配する人もいるでしょう。
たとえば私の会社(きずな出版)でも定期的に読書会を開催していますが、そういうところに参加してみてはどうでしょうか。読書会とは限らず、「日本酒のたしなみ方」のようなテーマの軽いセミナーはたくさんあります。
参加費は実費を含めても数千円くらいでしょう。講座が終わってもそのまま帰らず、隣り合った人に声をかけて喫茶店で続きをやってもいいし、後日何かを企画して集まってもいい。
そもそも1人でコーヒーを飲むのも誰かと飲むのも、支払う金額は同じです。だったら誰かを誘ったほうがいいし、そうすれば確実に人脈は増えます。相手が男性だと「このあと飲みに」ということになるかもしれませんが、女性なら、こちらに下心さえなければ、コーヒー代だけでじゅうぶん話ができるはずです。
あなた自身が主宰者になれば、もう「セミナー講師」です。1人2000円の会費でも10人集まれば2万円。会場や飲み物などの経費を引いても1万円は残る。それくらいを主宰者がいただいても罰は当たりません。
この種のセミナーを週1回やれば月4万円のお小遣いが手に入ります。人脈を増やすのにお金がかかるどころか、逆に人脈と一緒に懐も豊かになるというわけです。実際、私の知り合いでこうして人脈とお金を増やしている70代が何人もいます。
そんな老後を迎えるには、自分より若い人との付き合いが決定的に大事になります。その際、相手が年上か年下かで態度を変える「昭和の男」は嫌われます。では、どうすればいいか。具体的には性別や年齢を問わず、あらゆる人を「さん」づけで呼ぶのです。
2008年に出した私の著作に『人に「かわいがられる男」になれ!』があります。このときはおおむね年上から「かわいがられる」ことを想定していましたが、人生百年時代の50代は「若い人にかわいがられなければダメ」と言えるでしょう。
■『マディソン郡』になぜ共感するか
50代になったら、そうした「異」の人との付き合いを心掛けることと同時に、心掛けてほしいことがあります。それは、秘密を持つということです。
クリント・イーストウッド監督の手で映画化された小説『マディソン郡の橋』をご存じでしょうか。平凡だと思われていた田舎の主婦が、ある時期、家族に内緒で激しい恋をしていたという話です。単なるよき妻やよき母で終わるより、よっぽど濃く豊かな人生を彼女は生きた。読者は、物語を通じてそのことに気付かされ、大いに共感するのです。
秘密の1つもなく、50代から身辺整理を始め、まじめな一市民として死んでいく人生なんて、そんなに魅力があるものでしょうか。最悪、ばれたっていいじゃありませんか。秘密を持つ生き方が、結果的には人生を豊かにしてくれるのです。
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きずな出版社長
1931年、東京都生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒業。「女性自身」などヒット雑誌の編集長を歴任、「女学の神様」「恋愛の神様」と呼ばれる。2013年から、きずな出版社長。近著に『70歳からの人生の楽しみ方』など。
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(きずな出版社長 櫻井 秀勲 構成=山口雅之)
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