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渋野日向子が優勝を決めた最後のパットで考えていたこととは

プレジデントオンライン / 2020年3月14日 11時15分

渋野日向子氏(AFLO=写真)

なぜ世界で活躍するトップアスリートたちは、記録が伸びないときも強い気持ちで戦えるのか。ビジネスパーソンでも学べるアスリートたちのメンタル術について、スポーツ心理学者が分析した。

■一流の選手たちは達成意欲が強い

一流選手に共通するのは、異常なほど達成意欲が強いことだ。並の選手も一流選手に負けないぐらいの努力と練習を積み重ねているのだが、一流は並の選手が「実現できるわけがない」と考える壮大な夢や目標を設定し、その実現に向けて行動し続けている。

私はスポーツと心理学の専門的な知見から、これまで20年近くトップアスリートの言葉を分析してきた。その経験から一流選手と「並の選手」を分けるのは「普段の心のあり方」であるとわかってきた。

例えば2019年の全英女子オープンで日本中の注目を集めたプロゴルファーの渋野日向子選手は、その最終ホールで5メートルのロングパットを見事に決めて優勝を決めた。試合後、彼女は「これを決めたら優勝なのはわかっていたので、どういうガッツポーズをするかを考えていました」と発言した。並のプロゴルファーなら「これを外せばプレーオフになる」というプレッシャーから、慎重な弱いパッティングをしたはずだ。だが渋野選手は外れれば2メートルはオーバーするような強いパットを打ち、一打で決めた。彼女はきっと打つ時点で「自分は優勝する」という肯定的な心構えを持っていたのだろう。

ニューヨーク州立大学のリチャード・フェルソン博士が、高校に入学した2213名の1年生を3年生になるまで追跡調査した。その結果、肯定的な自己評価を持っている生徒ほど大きく学業成績が伸びることがわかった。「自分はできる」「自分には素質がある」というポジティブな信念がある人ほど、努力を厭わずぐんぐん成長することが科学的にも証明されたのだ。

一流を一流たらしめているのはポジティブ思考だけではない。五輪の水泳でメダルが期待される瀬戸大也選手は、「自分には永遠のライバルが国内にいるので。(中略)ライバルがいることで自分のレベルも上がっていく。すぐ近くにライバルがいるからこそ成長できると感じています」と語っている。彼のライバルとは、東京五輪にともに出場する可能性が高い萩野公介選手である。

瀬戸大也氏
瀬戸大也氏(AFLO=写真)

小学3年生の大会で出会ってから、中学2年生まで勝つことができなかった。瀬戸選手は「どうすれば萩野選手に勝てるだろう」と考え、必死で自分に足りないところを鍛えていくことで成長したのだ。ライバルの存在で実力を伸ばしたアスリートには、ほかにも卓球の伊藤美誠選手がいる。彼女も幼い頃からのライバルである平野美宇選手と切磋琢磨することで、世界トップレベルの卓球選手になった。

カリフォルニア州立大学のトーマス・サイ博士は「友人同士はお互いの心理状態が感染し合う」と主張する。つまりポジティブな人間とつきあえば自分もポジティブになるし、逆に落ち込んでいる友人と接していると、自分も落ち込んでしまうのだ。また感情だけでなくスキルも感染する。だからこそ上を目指すなら、つきあう人間はよく選び、前向きに努力を続ける人を友人にすべきなのだ。

■スランプのときにこそ絶好調

五輪競技とメジャーリーグの開催日程が重なるため、東京五輪への出場可能性は低いが、スランプの乗り越え方で参考になるのが、打者と投手の「二刀流」を武器に米国で活躍する大谷翔平選手だ。大谷選手はスランプのとき「書籍・映画・対話……どこかにヒントはないか。そうやってメンタルを切り替えるためのきっかけを常に求めている」と語っている。単に気晴らしのために本や映画に時間を投じているのではない。

大谷翔平氏
大谷翔平氏(AFLO=写真)

東京五輪開会式で聖火ランナーが期待されるイチローさんも、「スランプのときにこそ絶好調」という名言を残したが、大谷選手も必死に打開のヒントをあらゆる場で探しているのである。2人に共通するのが、「スランプは今の自分に必要な何かを教えてくれるきっかけ」と考えていることだ。前述の競泳・瀬戸大也選手も同じ考えを持っており、ライバルを打ち負かせないときは、その理由を突き詰めようと考える。うまくいかないときこそ平常心を維持し、事実をありのまま受け止め、改善策を徹底的に考えることが、一流に共通するスランプの乗り越え方なのだ。

■身長の低い選手でもトップにいけますか?

テニス競技でメダル獲得の期待がかかる錦織圭選手はあるとき「身長の低い選手でもトップにいけますか?」という記者の質問にこう答えている。

錦織圭氏
錦織圭氏(AFLO=写真)

「僕も背が高いほうではないし、そんなに強いサーブがあるわけでもないですが、やっぱり背の低い選手はほかでカバーできる部分があると思います。僕の場合は、フットワークやストロークでカバーできると思うので、そういった自分の強みを発揮したいと思います」

精神医学者のアルフレッド・アドラーは「劣等感があるから、人はそれを乗り越えようとする意志を得られる」と主張した。錦織選手の場合も、外国の一流選手に比べて背が低いというハンディをほかの長所で補うと考えることで、世界トップレベルのプレーヤーになったと言えるだろう。スランプや逆境、自分の短所に逃げずに向き合うことで、さらなる成長が可能となる。読者の皆さんも仕事などでスランプを感じたら、ご紹介した一流スポーツ選手の乗り越え方をぜひ参考にしてほしい。

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児玉 光雄(こだま・みつお)
スポーツ心理学者
追手門学院大学スポーツ研究センター特別顧問。京都大学工学部卒業後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学修士。『逆境を突破する技術』『上達の技術』『一流の本質』など著書多数。

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(スポーツ心理学者 児玉 光雄 構成=大越 裕 写真=AFLO)

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