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入試で「まさかの不合格」となった人がその後も苦労するワケ

プレジデントオンライン / 2020年2月20日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/yopinco)

入学試験では模試でA判定の人が「まさかの不合格」となることがある。なぜなのか。精神科医の和田秀樹氏は「頭がよく偏差値の高い人は、自分が犯したミスをしっかり省みない。同じように出世コースを歩んでいるビジネスパーソンでも、自己モニタリングの習慣がないために突然転落することがある」という——。

■「A判定」の人が本番の試験で落ちてしまう理由

2月、私立大学や国公立大学の入学試験が連日実施されている。新型コロナウイルスの市中感染の危険性が高まる中での入試は、受験生にとって例年以上の試練となっているだろう。

そもそも受験本番は何が起こるかわからない。必ずしもふだんの学力通りの結果が出るものではない。非常に高い学力で、模擬試験の合格判定でもA判定を連発するような受験生が不合格になることも珍しくない。

私は、医師や大学院の教授の傍ら、以前から東京大学の現役学生が通信教育で個別指導をする塾の監修をしている。その中で感じるのは、こうした「想定外の不合格」は、試験問題との相性の悪さや体調不良などよりも、ケアレスミスが致命的な原因となるということだ。

日本では、偏差値の近い者同士が同じ大学(学部)を受験する傾向が強い。よって実力伯仲となり、正解率の高い問題をミスしない者は合格し、ミスをする人間が不合格になることが多い。

読者の中にもうっかりミスで志望校へ行けなかった方がいるかもしれない。また、仕事でケアレスミスをした経験は誰にもあるだろう。そこで今回は、ケアレスミスの構造とその対策について論じてみたい。

■原発の廃炉作業をする会社が実施する「ヒヤリ・ハット対策」

「ミス対策」というと受験の世界には依然、上から目線で生徒たちに「気をつけろ」「見直しをきちんとしろ」とおおざっぱなアドバイスをする教師や講師がいる。一般のビジネス社会と異なり、学校や予備校・塾は閉じられた世界であり、だからそんな物言いが通じるのかもしれない。

私は、医療者としての仕事の一環で、原子力発電所の廃炉作業をしている会社の産業医も務めている。その関係で毎月、同社の安全委員会に出席している。

ちょっとしたミスも許されない原発の作業現場における最も効果的なミス対策は、いわゆるヒヤリ・ハットや些細(ささい)な事故をしっかりと報告するということだ。ヒヤリ・ハットとは、大きな災害や事故とはならなかったものの、そうなってもおかしくない事例のことをいう。

この事例をなるべく全員で共有することが重大事例を防ぐことにつながる。この認識のもと、委員会ですべてを報告し、委員間で共有した上で従業員にも伝えることになっている。

1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300のヒヤリ・ハットが存在する
発火するコンセント
写真=iStock.com/ByoungJoo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ByoungJoo

これは労働災害の分野でよく知られている「ハインリッヒの法則」である。同社でもこれに基づいて、ヒヤリ・ハット事例を報告することが重大事故を防ぐという考えを徹底させているのだ。こうした姿勢・取り組みを、受験生や仕事場に応用するのは有効だと思う。

■失敗学権威が語る「失敗は成功のもとではない」「失敗博物館を作れ」

「ヒヤリ・ハットの情報共有」のほかに私が支持するケアレスミス対策が「失敗学」である。「失敗学」とは、発生した失敗の直接原因と、その奥にある根幹原因を究明する学問で、東京大学教授の畑村洋太郎氏が発案・提唱しているものである。私は、畑村教授と共著で『東大で検証!! 失敗を絶対、成功に変える技術』(アスキー・2001年)を出した。

畑村教授の本書での言説は痛快だ。

「失敗は成功のもとなどではなく、放っておくと人間は必ずと言っていいほど、同じ失敗をする」

だからこそ、以前どんな失敗をしたかをしっかり認知し、その原因を知っておかなければならない。畑村教授は、そのために人間が過去に犯した失敗をデータベース化し、「失敗博物館をつくれ」と提唱していた。

■自分の失敗を直視しない人が歩むいばらの道

ある事業を始めるとき、過去に人がどんな失敗をしたのかを知ることで、その失敗を未然に防げる。失敗事例を多く集めれば集めるほど、さまざまな失敗が防げる。私は、この考え方に感銘を受け、これを受験のケアレスミス対策に活かせないかと考えた。

前出の私が監修をする通信教育で雇っている東大生20人に「受験生のよくやってしまうミス」50個を集めてもらい、それぞれをどうすれば防げるかの対策も考えてもらった。その内容を網羅したのが拙著『ケアレスミスをなくす50の方法』(ブックマン社)である。

残念ながら、私がこれまで出した受験勉強のテクニック本ほど売れなかった。1点でも多く点を取りたい受験生にとって「ミスをなくす」ノウハウ本はあまり魅力的ではなかったようだ。新しい参考書や問題集を買ったり、予備校の受験直前講習に参加したりと「攻めの勉強」をする一方、ミス防止のような「守り」の対策をしないまま受験に突入してしまう。おそらく多くの受験生は自分が過去の模試などで犯したミスのチェックや振り返りもしていないのだろう。

悪い点数のテスト用紙を受け取る女生徒
写真=iStock.com/mediaphotos
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mediaphotos

畑村教授が言うように「人間は一度やったミスを繰り返す」のだから、模試でしたミスは本番でもミスする可能性が高い。だから、高い学力を持ちながらも不合格となる番狂わせが起きる。まさに賢い人間がバカな選択(ミス防止対策をしない)をして、バカな結果(不合格)を甘受する。本当にもったいないことである。

■「自分は負けるはずがない」ミスを認めようとしない

実は、こうした事例は大人もしばしば引き起こす。私は「大人のための勉強法・仕事術」といったテーマで原稿執筆依頼をされることがある。これはビジネスパーソンの読者が、自分の能力やスキルのノウハウ、知識を高める目的で購入するのだろう。その意欲自体は買おう。

しかし、前述したように過去の自分を振り返り「ミス防止対策」をしていないのなら本末転倒だ。その作業をおざなりにした結果、社内での立場が弱まったり失脚したり、不名誉なレッテルを貼られたり、と「負債」を抱えることになったら目もあてられない。

「ユニクロ」を展開する柳井正社長の著書に『一勝九敗』(新潮社)がある。人生やビジネスでは、負けることも多いが、その「負け」を小さくし、「勝ち」を大きくすれば最終的には成功することができる、といった教訓も書かれている。これはミスを減らすべきという私の発想と近いものがある。

逆に、10戦して9勝していた人がたった1敗のため、人生を大コケしてしまうケースがある。例えば、株や不動産の取引をして成功していた人がバブル崩壊やリーマンショックの際に破産の憂き目に遭う。その原因のひとつは「自分は負けるはずがない」という驕(おご)りだったかもしれない。人生にはいい時も悪い時もある。勝つ時も負ける時もある。そうした真理を無視して、自分を買いかぶったツケが回ったのだ。

こうした勘違いを起こすのは、とりわけ「高い学歴」の人に多い。自他ともに「賢い」と認めた人物は、自分がミスをするのではないかと疑うことをしなくなる。それが落とし穴に落ちると、周囲は「ほれ、見たことか」と内心ほくそ笑んでいる。

■受験偏差値が高いのに、自己モニタリング力が乏しい人の特徴

でも、それは自分が掘った落とし穴だ。彼らを見ていると、受験偏差値が高いだけで、メタ認知力が低いのかもしれないと感じることがある。

「メタ認知」とは、自分の認知を認知するという認知心理学の言葉だ。例えば、「自分の知識は足りているか」「自分の思考が感情や周囲、上司の意見などによって歪曲されていないか」などを、自己モニタリングして、その都度、自分を修正する(メタ認知的活動)ことは、人が成長する条件となる。

感嘆符
写真=iStock.com/Serdarbayraktar
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Serdarbayraktar

「自分がどんなときにバカになるか、ミスをするのか」を知ることは、このメタ認知的知識に当たる。学歴ばかりが高く、メタ認知力が低い人間は、自分というものがわかっていないので結果的に何度も同じミスをする。

受験偏差値が高ければ希望の大学や企業に入ることはできるかもしれない。しかし、人生は長い。山あり谷ありだ。そうした人生の旅を歩む時、メタ認知力が劣っているばかりに、定期的な自己モニタリングができず、前にやったミスを繰り返すといった失態を演じ、「思わぬ転落」となることもあるに違いない。

■「わたし、失敗しないので」なんて人はありえない

大事なのは3つのポイントだ。

すなわち、失敗学の発想をもとに、今取り組んでいる仕事において過去にどんな失敗事例があるか検証すること。さらに、自分の感情(とくに不安感情)によって自分の思考パターンが変わっていないか、あるいは周囲の意見に振り回されていないか、をチェックする習慣を怠らないこと。そして、歪みや偏りを正し、その都度、自分を修正すること。

人気医療ドラマの主人公が言う決めセリフに「わたし、失敗しないので」がある。そんなスーパースターが日本人は好きだが、この世に失敗しない人などいない。

「神の手」と言われる名医の手術を見たことがある。確かにそのスキルは見事なものだったが、いささか周囲のスタッフへの態度が傲慢に見えた。ところが、部下の医師に聞くと、そのゴッドハンド医は手術が少しでもうまくいかないと、「僕ほどダメな医者はいない」と泣き叫ぶのだという。それゆえ、いくら偉そうにしていても、看護師たちはそれを「真剣な取り組みの裏返し」だと理解して、嫌う人はいないそうだ。

■ガチンコ対決でミスをしないということが人生においても重要

ふだんの能力は高いにもかかわらず、本番でミスをして不合格になる子はかわいそうだ。それに、1回だけの試験ではなくふだんの学力で合否の判定をすべきという意見もある。

一理あると思うが、一方で受験こそがミスに対する意識を鍛えるまたとない機会だと私は信じている。ガチンコ対決でミスをしないということが人生においても重要となるのだ。

仮に医師が手術ミスをした際に、「ふだんは能力の高い先生なのですが……」と病院側が言い訳をしても患者が納得するかどうかを考えてほしい。

医師の説明に落ち込む少女
写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。

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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)

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