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野村克也さんが「北京五輪で世紀の大エラー」G.G.佐藤の人生を救った秘話

プレジデントオンライン / 2020年3月21日 11時15分

G.G.佐藤氏

■後悔しているのは3つ目のエラー

人生で4回もクビになった人って、なかなかいないんじゃないですか。僕がその珍しい1人です。アメリカのマイナーリーグ、西武ライオンズ、イタリアのプロ野球、千葉ロッテマリーンズ。これまで世界各地の4球団から解雇を受けました。

現役選手時代、「楽しい」と思ったことは一瞬もないです。ホームランを打っても嬉しいのは1秒後まで。次の瞬間には、「次の打席も打てるだろうか?」と不安に駆られていました。真剣勝負を繰り返す中で、身を削っている感覚が常にありましたね。

でもほとんどのプロ野球選手は、水面下ではもがき苦しんでいると思います。北京五輪のときだって、錚々たるスター選手がベンチ裏ではめちゃくちゃ緊張していましたから。稲葉篤紀さん、新井貴浩さん、西岡剛さん……。

その北京五輪で、僕はエラーを3回しました。準決勝で2回、3位決定戦で1回。でも準決勝のエラーは、実は後悔していないんです。あれは金メダルを取りにいこうと、心も体も最高の準備を整えて、ベストを尽くした結果のエラーだったので。悔しくて泣きたかったですけど、そこは割り切れました。ただ、試合が終わったとき、「自分のせいで金メダルの夢が途絶えた」「星野(仙一)監督が自分を明日の3位決定戦に使うわけがない」と気持ちが切れてしまったんですよ。それで何の準備もせずに寝て、朝起きたらまさかのスタメン。「嘘だろ?やめてくれよ」と汗が流れました。

そこから無理やり、「昨日の不安を抱えていた自分はダメだった。今日は強気でいこう」と気持ちをつくった結果、中途半端に積極的な姿勢で試合に臨んでしまった。3つ目のエラーも冷静になれば、ショートの中島裕之選手に任せていいフライだったのに、取りに行ってミスしてしまいました。エラーそのものよりも、準備を怠って切り替えができなかったプロセスの持っていき方について、激しく後悔してます。

2008年、北京五輪の野球準決勝。8回裏2死一塁の場面で落球した。
AFP=時事=写真
2008年、北京五輪の野球準決勝。8回裏2死一塁の場面で落球した。 - AFP=時事=写真

■G.G.佐藤の野球人生をダメにはしたくない

あとから聞いたところによると、星野監督は「G.G.佐藤の野球人生をダメにはしたくない」と考えて、すぐ僕にチャンスを与えてくれたようでした。余計に申し訳なくて、悔しかったです。

あれから12年。「逆境からどう立ち直ったんですか」とよく聞かれます。その方法があったら、こっちが教えてほしい(笑)。僕は逆境を乗り越えたわけではありません。失敗は消せないから、しっかり向き合って受け入れる。そして自分のため、家族のため、ファンのためという原点に戻って次の目標を立てながら、目の前のことを一生懸命取り組むしかなかった。それをひたすら繰り返していたら、次第に笑って話せるようになっただけなんです。

日本に戻った最初の試合。ライトを守っていたら平凡なフライが上がって、捕球した瞬間、大歓声が湧きました。試合後、「西武ドームの空が、北京の空に見えました」とコメントしたから、また叩かれたんですけど。

別にふざけていたわけではありません。自分の中で「佐藤隆彦」とは別の「G.G.佐藤」という人格をプロデュースしている意識があって、「このコメントは絶対使われるはずだから、活かさない手はない」と考えていたんです。

これは中学生野球で指導していただいた野村克也監督の影響が大きいですね。監督の言葉で印象に残ってるのが、「おまえたち選手は自己評価が高すぎる。社会は誰かしらの評価で生きているんだから、自分がどう見られているか、もっと意識しなさい」でした。その言葉が胸に残って、自分のことを第三者的に見るクセがつきました。

自分の中で2人の役柄をつくって、「今日はエラーしたな。どうしたらエラーをしなくなる?」「どうすれば監督がおまえのことを使ってくれると思う?」という対話をするんです。自分目線だけだと、ミスに対して言い訳もするし、他人のせいにしたりもする。そこに第三者目線を入れることで、ミスを冷静に分析できるし、自分と世間の評価を近づけることができます。

監督でいえば、西武の伊東勤監督は失敗してもあまり怒りませんでした。それよりも「なぜ失敗したのか?」と選手に質問して、考えさせるんです。野球は失敗と向き合うスポーツです。3割を打つ打者でも、7割は失敗しています。打てなかった事実にフォーカスして、どうしたら同じ失敗をしないかを考えて、打率を上げていかないといけません。そこを質問で上手に意識させてくれたのが、伊東監督でした。

監督業と経営者業は似ています。自分の部下が失敗したら、叱るよりも先に「なぜ失敗したか」を聞いて、次にどう活かすかを考えさせたいですね。

■失敗も利用!「落とし営業」

野球は36歳で引退して、父が創業した測量、地盤改良工事を行う会社に就職しました。今、取引先と草野球をする機会があります。フライを落としてあげると、めちゃくちゃ喜ばれるんですよ(笑)。これは僕にしかできない「落とし営業」。いいんです、失敗だって使えるものは使ってしまえば。

失敗して辛いときは、「今は苦しいけど、後々、シンデレラストーリーとして語れるな」という視点があってもいい。僕は野球で芽が出なかった時期、アルバイトをしながら、「もし将来、スーパースターになったら、こんなサクセスストーリーはないぞ」と想像を膨らませていました。

読者は、僕のことをプラス思考と思うかもしれません。実は違って、もともとは超マイナス思考です。だからこそ、なるべく起きたことに対してプラスに考えるように訓練しています。

訓練として、普段からネガティブなことは口にしないようにしています。不安なとき、「失敗したらどうしよう」と思うことまでは許すけれど、口では「絶対いける」と言葉に出す。口も筋肉。反復練習することでマッスルメモリーされて、失敗が少なくなる気がするんです。素振りのように。……やっぱり僕、野球が染みついてますね(笑)。

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G.G.佐藤 1978年、千葉県生まれ。2004年西武ライオンズに入団。その後、イタリアのプロ野球、千葉ロッテマリーンズを経て、14年に現役を引退。現在は実父が社長を務めるトラバースにて、営業所所長を務める。

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(G.G.佐藤 構成=小林 力 撮影=八木虎造)

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