「時短勤務で給料そのまま」を実行した社長は、他の社員をどう説得したか
プレジデントオンライン / 2020年2月25日 11時15分
■昔の富裕層は妻を専業主婦にしたがる
昭和の時代に育った富裕層は奥様を専業主婦にしたがる人が多く、平成の時代に育った富裕層は奥様が社会に出て活躍するのを応援する人が多い傾向があります。
やはり専業主婦が主流の時代と、夫婦共働きが主流の時代という、育った環境の影響が大きいと思われます。
その違いは、彼らが経営する会社の諸制度やオフィス環境にも表れています。
実際、昨今の若手経営者のほとんどは、会社の創業当初から女性の活躍を支える制度や体制を導入し、仕事と子育ての両立ができるようにしています。
知人の経営者(男性)に聞いた話ですが、女性従業員の一人が出産し、復職の話になったそうです。そして彼女から「すぐに復帰はするが時短勤務にしたい」という提案を受けたとき、彼は二つ返事でOKを出しました。しかも「給料はそのままで」。
■“時短勤務で給料そのまま”の理由
そう決断した彼の理屈はこうです。
「優秀な女性であれば、10時~16時の時短勤務であっても、9時~17時勤務の人と同じか、それ以上のパフォーマンスを発揮する。であれば正規の給料を払うのに何の問題もないだろう?」
彼の会社は女性向けの就職・転職あっせんやキャリアカウンセリングサービスを行っており、全従業員約50人のうち8割以上が女性ゆえに、女性スタッフの活用は会社の生存そのものがかかっているといっても過言ではないという状況です。
彼は、会社がそういう方針(能力さえあれば、育児しながら収入を減らさず働ける)であることを、社内で公表できるいい機会だったといいます。
「そんな働き方をしてもいいんだ」と、他の女性スタッフにも安心感を与えることで、「育児との両立ができる会社」「長く働ける会社」と思ってもらえる。そうして優秀な女性人材が辞めてしまうリスクを下げられるというわけです。
■独身女性からの不満は出ないのか
この話を聞いて、私は一つの疑問がわきました。
「それでは、未婚女性や子どものいない女性社員から、『不公平だ』と不満が出るのでは?」
それを彼に聞いてみたところ、そこは時短勤務とフルタイム勤務に関係なく、あくまで成果による評価を行うことが前提である。なので評価を毎年見直して対応する点を、事前に社員にしっかり説明することが大切だそうです。
では、なぜ彼はそこまでして彼女たちを引き留めるのでしょうか。
彼が言うには、自社の業務に習熟し、その会社の風土を理解した社員が定着することは、採用や教育といったコストの面だけではなく、スキルの伝承や企業の成長にも欠かせない。それに彼女たちは、何年も勤めて自社や顧客のことをよくわかっている。
「そんな人には、男女に関係なく、長く定着してもらいたい。だから会社の制度に合わせてもらうのではなく、社員一人ひとりに合わせてでも働きやすい環境を整備したほうが合理的だ」
とのことです。
■残業時間大幅減なのに業績はアップ
別の知人からは、営業部門の改革の話も聞きました。
その会社では、日中は取引先を回り、夕方に帰社してから書類作成が始まるらしく、会社を出るのはいつも夜8時とか9時。
そのため、小さな子供を持つ女性社員には担当を持たせることができず、それで補助業務しか任せてもらえない女性社員たちの不満がたまっていたそうです。
そこで、Wrikeなどのプロジェクトマネジメントツールを使って進捗管理を共有したり、Slackのようなチャットツールを使うことで、朝だけ定時に集まってミーティングをしてあとは直帰できる体制に変えたのです。
女性スタッフにも担当企業を受け持ってもらうことができ、結果彼女たちの士気も向上。残業時間が大幅に減ったにもかかわらず業績はアップしました。
その成果は社長の目に留まり、同様のワークスタイルが他の部門にも採用されたそうです。そして「女性が働きやすい職場」とネットの就職サイトでも高評価で、新卒も中途も含め優秀な女性社員の獲得に成功しているとのことです。
■子連れ出勤の男性社長も
あるいは、創業時からホワイトな環境を作っている会社もあります。
子連れ出勤を奨励し社長である本人(男性)が率先して子連れ出勤をしているそうで、その彼は会社がまだ小さい時からキッズコーナーや女性の更衣室兼休憩室を作っていたそうです。
そのおかげか、仕事と子育ての両立ができず大手企業を辞めざるを得なかった優秀な女性が多く応募してくれるようになり、地方都市にある企業にもかかわらず人材不足とは無縁だそうです。
特に人手不足の昨今、中小企業が優秀な人材を採用し、つなぎ留めるのは非常に厳しいものがあります。
そして労働人口が減少していく未来においては、やはり女性人材の活用は待ったなしです。
実際、多くの企業の就業環境は男性目線で作られていますから、女性が安心して長く働ける環境を整備することは、優秀な女性人材の確保につながります。
反対に、妊娠・出産・子育てで働き方の制約を受けやすい女性が、モーレツに働かないとキャリア・ポジション・収入を維持できないとか、子育てとの両立が難しい職場となると、人材の流出を招くことになります。
すると、再び採用活動をして、採用後も社内で教育など現場での労力がかかりますから、これは企業の体力を奪いかねません。
つまり、これからの成長企業は、「残業するな」などという「名ばかり働き方改革」や、「社員は会社の方針に合わせろ」というような会社ではなく、「会社の仕組みを社員に合わせる」柔軟性を持った会社になるのではないでしょうか。
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米国公認会計士
1971年岡山県生まれ。中央大学経済学部卒。大学卒業後、東京都内の会計事務所にて企業の税務・会計支援業務に従事。大手流通企業のマーケティング部門を経て、世界的な戦略系経営コンサルティングファームであるアーサー・D・リトルで経営コンサルタントとして活躍。2006年、株式会社プレミアム・インベストメント&パートナーズを設立。現在は不動産投資コンサルティングを手がけるかたわら、資産運用やビジネススキルに関するセミナー、講演で活躍。『捨てるべき40の「悪い」習慣』『「いい人」をやめれば、人生はうまくいく』(ともに日本実業出版社)など著書多数。
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(米国公認会計士 午堂 登紀雄 写真=iStock.com)
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