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ほとんど育児をしない「とるだけ育休」はなぜ起こるのか

プレジデントオンライン / 2020年2月26日 11時15分

愛娘と東京スカイツリーにて - 写真=筆者撮影

育児休業を取得した男性のうち、ほとんど育児をしない「とるだけ育休」はなぜ起こるのか。働き方評論家で1児の父でもある常見陽平氏は、「形式的に数日間休みをとっても意味は薄い。自分は育児のために、育休はとらなかったが、勇気を持って仕事を減らした」という――。

■育休男性の約半数が「3時間以下」しか育児をしていない

今、わが国の大きな問題は「とるだけ育休」である。

ママ向けアプリ「ママリ」を提供しているコネヒト株式会社が、夫(パートナー)が育休を取得したママ508名に対して行った調査によると、育休を取得した夫(パートナー)の家事および育児にかける時間は1日あたり1時間以下が17.7%、1時間超2時間以下が14.6%だった。2時間超3時間以下の15.2%と合わせると、約半数が3時間以下だった。

同調査によると、「今後、夫(パートナー)に育休を取得してほしいと思いますか」という質問に対して「あまりそう思わない」「まったくそう思わない」が47.5%という結果になった。半数程度が「夫(パートナー)に育休取得をしてほしいとは思わない」と回答している。

2018年の男性の育児休業取得者の割合は、6.16%である。2%程度だった2010年代前半と比べると上昇しているものの、女性の82.2%に対しては大きく差がついている。

男性の育休取得率は低い上に、取得期間は2週間以内がほとんどである。2015年の厚生労働省「雇用均等基本調査」によると、育児休業の取得期間は、女性は9割近くが6カ月以上となっている一方、男性は、5日未満が56.9%、8割以上が1カ月未満となっている。

■「休ませる」という発想が問題だ

いったいなぜこうした問題が起きてしまうのか。

育児、さらにはジェンダーに関する話はいつも炎上を誘発する。今回も依頼を受け、真剣に悩んだが、学生時代から私が書いたものを読んでいるという担当編集者の熱意におされ、決断した。私一人が、生贄として炎に身を焦がすことで、世論が動くのであれば、喜んでその役を受け入れよう、と。猖獗したこの時代に、私はこの檄を叩きつける。

越後湯沢へ向かう新幹線の車内にて
越後湯沢へ向かう新幹線の車内にて(写真=筆者撮影)

私は「育休至上主義者」ではない。それではなぜ育休を論じるのか。それはいま日本が取り組むべきことは「休みやすい会社と社会にすること」だからだ。正規と非正規という極端な分化、さらにはフリーランスに代表される自由で不安定な働き方ではなく、「誰もが頑張るのではなく、ゆるく働くこともできる環境」をいかにつくるのかというのが課題だ。

さらには、「男性の育休取得義務化」というのは「自由に休む」のでなはく「休ませる」発想である。この休み方こそが、日本の特徴であり、問題だ。

シェイクスピアの『ハムレット』風に言うと、「自由に休むべきか、休ませるべきか」それが問題だ。祝日が国際比較しても多い一方で、有給消化率の低い現実などがそれを物語っている。もっとも、高付加価値な産業をつくることができなかった日本、人手不足の日本にとって、自由に休むこと自体、難しいのだが。

■新しい父親像なるものがまだ不鮮明

「とるだけ育休」から脱却するために、会社、家庭、個人が取り組むべきことは、「父親を育てる」ということだと私は考えている。男性は父親として生まれるのではない。父親になるのだ。ただ、新しい父親像なるものがまだ不鮮明であるし、父親を育てる仕組みも不十分なのだが。

企業によっては、父親インターンのような制度を導入している例もある。子育てをしている様子を見学し、イメージを明確にするのだ。家庭においては、結婚する前から男女で役割分担について議論し、実践するべきだろう。

参考までに私の話をしよう。私が38歳、妻が37歳のときから妊活を始め、5年の歳月と絶大なる金額を投じて、娘を授かった。娘が生まれて、もともと担当していた料理、買い出し、ゴミ捨てなどの他に、保育園の送り迎え、遊び相手になること、病院などの送迎などすることが増えた。左系知識人として荒ぶっているときに「パパ『アンパンマン』の絵本読んで」と言われて脱力する機会も増えた。

無能だと言われればそれまでだが、仕事の時間を確保しにくいし、集中できない。だから、仕事を減らすことにした。

■「兼業主夫」を名乗り料理は全て自分が作る

料理はすべて私が作る。仕事があるとき、夜に会食がある際も、料理を作り置きしている。子供が生まれてからは保育園の送迎も加わり、さらに妻が休むことのできるよう、週末は1日につき半日は私が外に娘を連れ出すことにしている。平日に1日6時間、家事・育児に関わり、兼業主夫を名乗っている。

仕事もだいぶセーブした。子供が生まれる前には一時は月に20本あった連載は、今は数本である。私自身がオワコン化しているということもある。しかも、このプレジデントオンラインからの寄稿依頼も約束した日から1.5営業日遅れるというありさまだ。

ニッポン放送「ザ・フォーカス」収録前のスタジオにて
写真=筆者撮影
ニッポン放送「ザ・フォーカス」収録前のスタジオにて - 写真=筆者撮影

たまに「普通の男の子に戻りたい」と思うことがある。ただ、もう戻れない。

なぜ、このようにライフスタイルを変えたのか? 感情論も現実的な意見も踏まえて記す。なんせ、待望の子供だったからだ。『金八先生』や『夏体験物語』などの10代の妊娠シーンに衝撃を受けた世代だが、いざ子供がほしいと思うと、なかなかできなかった。やっと授かった。後述するが、子供がいるといういわゆる「普通の家庭」になった幸せを味わい尽くしたいという想いはある。

■二人でそれぞれ無理せず働くことが現実的

現実的かつ建設的な話をすると、私の方が料理や買い出しが得意であり、サービス精神旺盛なので、子供の対応に向いているということに気づいたからだ。経済的安定を考えると二人でそれぞれ無理せず働くことが現実的だと考えたというのもある。さらには、どう頑張っても、私は出産することができないし、授乳をすることもできない。そこに男の限界を感じたからだ。

仕事も物書きとしての限界を感じた時期であり、ここでいったんスローダウンした方があとあと復活できると考えたのだ。人生は長いので、ここで「人間活動」をするべきだと考えた。今まで見えなかったものが見えるのではないかと考えた。

新しい父親像をつくるべく、旧来の男らしさは徹底的に捨てた。育児をやり始める前から共働き夫婦であるがゆえに、働く妻を支えるために、家では召し使いロボットの「バニラちゃん」という設定だった。子供が生まれた当初は、育児のやり方がわからなかったので、最初の頃は妻の指示に何から何まで従っていた。料理はまだわかる。ただ、娘への接し方がわからなかった(今も絶対に、妻と娘には反論せず、絶対服従を誓っていることには変わらないが)。そもそも、食後赤ちゃんにゲップをさせる方法や、ミルクの作り方もわからなかった。

娘が生まれたばかりの頃は、何かミスをするたびに「すみません、すみません」と頭を下げる日々だった。当初は人間リモコンだった。電波の届く場所にいて、ひたすら指示にしたがう。家事・育児をこなしていくうちに「AI搭載」「機械学習」「ディープラーニング」状態で、自分で動けるようになった。今では「仲居さん」と呼ばれている。

■本音は「自由な時間があったら働きたい」

はっきり言って男のエゴだとはわかっているが「かっこいい父親」ではいたい。保育園の中では最長老の父親なので、肌には気をつけなくてはと思い、子供が生まれてから化粧水、乳液と顔パックは欠かさず行うようになった。今も、服は意地でも阪急メンズ東京で買うことにしている。『LEON』『UOMO』などのファッション誌や『BRUTUS』『Pen』『GOETHE』などのライフスタイル雑誌は熟読している。

TOKYO MX「田村淳の訊きたい放題」の楽屋にて
TOKYO MX「田村淳の訊きたい放題」の楽屋にて(写真=筆者撮影)

このように、男女二人でやりくりすること、特に家事・育児に具体的に時間を割くこと、そのために、仕事は減らすこと。これが私なりの答えだった。

ただ、自由な時間があったら何をしたいかと聞かれると、「働きたい」と答えるだろう。そう思って、常にモヤモヤしている。

20年前の終電かタクシーが当たり前だった頃、ときには朝から早朝まで働き山手線を2周して仮眠をとりサウナに寄って出社していた頃や、10年前の駆け出しの物書きでなりふり構わず働いていた頃に戻りたいかというと、そうでもない。社畜から家畜になることができた。ただ、これでいいのかと悩むことは正直ある。

腰をすえて、落ち着いて原稿を書きたい、本を読みたいのだ。いまそうした時間は毎朝の2時間に限られている。

■育児をしながらバリバリと働くのは無理だと気づいた

このモヤモヤを晴らすために、私はたまに「NO残業デー」ならぬ「YES残業デー」や「週末合宿」の日程を確保することにしている。妻子に実家に帰ってもらい、その時間、集中するのだ。

私は父が早逝し、母に育てられた。両親とも歴史学者だった。幼少期から10代にかけては突然「親戚の○○さんの家に泊まりに行ってきなさい」と言われた。私や弟が親戚の家に泊まる日に、母は研究に集中し、論文を書いていた。遊園地に連れて行ってもらったときは、母は木の下で洋書を読んでいた。このようなやりくりも必要なのだと思う。

ただ、そもそもずっとバリバリと働き続けるのは無理だ。もっというと、私はその競争に巻き込まれずにすむことができているとも言える。長く生き、続けることこそがポイントだと考えている。だから、忘れられない程度にメディアで発信している。健康こそが大切だとも気づき、娘が1歳半になった頃には酒を完全にやめた。

■仕事と子育ての両立には「仕事を減らす勇気」が必要だ

いかにも、メディアで紹介される意識高い系バリキャリ夫婦の子育ては参考にならない。どこかで無理をしているのだろう。そのスーパーマン・スーパーウーマン前提で考えるから、みんな疲れる。

いや、私自身、相当意識高い系育児に見られているのかもしれないが、私はそうは思っていない。できることをやっていること、仕事を頑張りすぎないことにしているだけだ。そして、声の大きな人の言うことで、あるべき育児や仕事の姿が捻じ曲げられてはいけないと考えている。

男性の育児参加、仕事と子育ての両立は、このように、仕事を減らす勇気、出世しない勇気も必要だ。ただ、それは誰も言い切れないのだろう。これをきっかけに、みんなが意識高い系育児、育休至上主義からの脱却をはかることを期待する。

筆者が作った料理を食べる娘
写真=筆者撮影
筆者が作った料理を食べる娘 - 写真=筆者撮影

さらには、モヤモヤはちゃんと口にしよう。別に解決策は本人だけで考えなくていい。ただ、違和感を口にしなくては、この国はみんなが疲弊し、強烈なバックラッシュが起こることだろう。

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常見 陽平(つねみ・ようへい)
千葉商科大学国際教養学部専任講師、働き方評論家
1974年札幌市出身。一橋大学商学部卒業、同大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より現職。著書に『僕たちはガンダムのジムである』『「就活」と日本社会』『なぜ、残業はなくならないのか』『社畜上等! 会社で楽しく生きるには』ほか。1児の父。

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(千葉商科大学国際教養学部専任講師、働き方評論家 常見 陽平)

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