運動不足が「死に至る病」であることを証明する科学的根拠
プレジデントオンライン / 2020年3月16日 11時15分
※本稿は、谷本道哉『学術的に「正しい」若い体のつくり方』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
■90年代より「1日1000歩」歩かなくなっている
「ちょっとは運動しないとなぁ」
「何か体を動かすことをしなきゃ」
多くの人がそう思っていることでしょう。運動が健康によいこと、またスタイルを改善して見た目も若々しくすることは誰もが認識している、いわば常識といえます。
運動不足は、心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病などの生活習慣病を誘発します。また、高齢期の虚弱、体力低下による要介護の一要因にもなっています。私たち人間は「動物」。文字どおり、動いていないと病気になってしまうのです。しっかりと動いていてこそ、元気で健康な状態を保つことができるのです。
また、運動が見た目を若くしてくれることも経験的に明らかですよね。
中年以降になっても余分な脂肪のついた太鼓腹にならず、筋肉がしっかりついたカッコいいスタイルを維持している人は不思議なほど年をとりません。理由として、運動によるホルモン応答や抗酸化能力の向上などが関係していると考えられます。
健康にも若々しさのためにも運動がよい。分かっているはずなのに、残念ながら運動をしっかり行っている人というのは極めて少数派です。厚生労働省の調査によると、1回30分以上の運動を週2回以上、1年以上継続して行っている人は20〜50代では20%程度しかいません。
そして、日常の活動量の目安となる「歩数」は90年代と比べて1000歩ほども減っています(図表1)。運動をしていないというだけでなく、日常生活でもほとんど体を動かさなくなっているのです。
■運動不足による死亡者数は、喫煙による死亡者数とほぼ一緒
いまや運動不足は極めて深刻な問題となっています。見た目はもちろんのこと、健康面でのリスクは計り知れません。
たとえば、糖尿病の場合では、予備軍(可能性を否定できない人)も含めた患者数が90年代と比べてなんと1.5倍近くにまで増えています(図表2)。また、腰痛や肩コリは昔からある不調ですが、これらの症状を訴える人も近年、増加しています。ここにも現代人の運動不足が大きく影響しているといわれています。
8割の人に運動習慣がなく、しかも日常の活動量も減っている。そしてそれがいろいろな病気の発症と関係している。これはもう、「運動不足病」という一種の国民病であるといえるでしょう。
なお、運動不足が深刻な問題となっているのは日本だけでのことではないようです。
世界の全死亡のうちの9.4%が身体活動不足(Inactive)、つまり運動不足が原因であるという報告が近年なされました(図表3)。
そして、この9%という数字は喫煙が原因の死亡者数に匹敵するというから驚きです。こうした危機的な状況をこの研究報告では「運動不足病は世界的に大流行している“パンデミック”状態である」と表現しています。
ちなみにこの9.4%という数字、日本人においては16%とさらに跳ね上がります。
運動不足の弊害は、体形がだらしなくカッコ悪くなる、ということだけではないのです。運動不足は自分で解決できます。これはどうにかしなければいけませんね。
■日本人男性の平均体重がどんどん増えている
1980年にヒットした西田敏行さん主演のテレビドラマ「池中玄太80キロ」を覚えていますか? このドラマのタイトルにある「80キロ」は、当時「とても太っていて大きい人」を意味していました。
放映から三十数年が経った今、80kgという数字を見てどのような印象を持たれるでしょうか? 太った大きい人の代名詞という感じはあまりしません。最近は太っている人といえば100kgはないと物足りない(?)感じがしますよね。芸能界でも、80kgではおデブタレントとしての仕事は来ないでしょう。
日本人男性の平均体重の推移を見てみると、戦後から増加傾向が続いています(図表4)。
「池中玄太80キロ」が放送された1980年の玄太世代の30代男性の平均体重は62kg。そこから2006年の70kgくらいまで直線的に増え続け、以降は70kg程度に落ち着いています。つまり、池中玄太の時代から、平均体重は実に10kg近くも増えているのです。
また、成人男性の肥満者(BMI25以上:BMI=体重〔kg〕÷身長〔m〕×身長〔m〕)の割合も1980年には17%程度だったのが、2006年以降は約2倍の30%程度に増加しています。最近では太った人があまり珍しい存在ではなくなっているのです(図表5)。
■平均体重増加の原因は「摂取カロリー」ではなかった
では、なぜここまで平均体重が増えたのか。
飽食の時代のためと思うかもしれませんが、実は1日当たりの摂取カロリーの平均(20歳以上)は、1980年の約2100キロカロリーと比べて、2012年では1888キロカロリー。摂取カロリーはむしろ減少しているのです(国民健康・栄養調査)。
それでも平均体重が増えているのは、「動物性脂肪の摂取割合が増えた」ことと(動物性脂肪の不飽和脂肪酸は体脂肪の蓄積を進める)、消費カロリーの減少、つまり「動かなくなっている」ことに原因があるようなのです。
要するに、「運動不足病」の深刻さが肥満者の増加という形で表れているのです。
肥満はさまざまな疾患のリスクを上げます。「内臓脂肪の増加」が糖尿病や心筋梗塞、脳梗塞などの原因となることは皆さんもご存じのことでしょう。肥満は見栄えが悪くなるだけの問題ではないのです。
■「メタボ」と言われても運動をしない人たち
「メタボ」が流行語大賞のトップ10入りをしたのは2006年。
メタボというキーワードで運動の必要性が広く認知されてから相当の年月が過ぎたにもかかわらず、運動習慣者の割合や、1日の歩数は増えていません。肥満者の割合も減っていません。
必要性が分かっていて、やらなきゃとは思っているはずなのに実行できない。その主な理由は、メタボはあくまで心筋梗塞などの「病気になりやすい状態」にすぎず、メタボ自体が「病気ではない」からではないでしょうか。
太っていて内臓脂肪が多くても、血圧が高くても、血糖値が正常値でなくても、確かに苦しいことも、痛いことも何もありません。
多くの人は、元気で何も症状がないうちはそれほど体に気を遣わないもの。肺がんだとお医者さんにいわれるまで、禁煙を思い立ちさえしない人もたくさんいます。
ロコモに関しても同じです。
高齢になったとき、体力が低下して自立した生活ができなくなる恐れがあると分かっていても、元気で動けているうちはそれほど気にかけないものです。
■いっそ、モテるために運動を始めてみる
「健康は何ものにも替えられない大切な財産」
病気になる前から、元気に動けているうちから、このことだけは忘れないでほしいのですが、何の症状も出ていない状態で、体のこと、健康のことを真剣に考えるのはむずかしいことかもしれません。
それなら健康のためというのではなく、やせてカッコいいスタイルになるために(そして何ならちょっとモテちゃうために)という目的で運動を始めてみてはいかがでしょう。キレイに、そしてカッコよくなることも、とても大切なことです。定めた目的が変わろうとも、結果として病気のリスクが下がって健康になるのなら、健康のためでも、モテるためでも、体に起こることは同じです。
そういった視点から考えると、ちょっと古いですが「ちょい不良(ワル)・ちょいモテオヤジ」ブームをつくった雑誌『LEON』、そしてその表紙を飾ったパンツェッタ・ジローラモさんの功績は偉大でしょう。何歳になっても、「カッコよさにこだわることのカッコよさ」を、日本中に呼び掛けたわけですから。
もちろん女性においても同じことがいえます。いくつになっても女性はキレイで男性はカッコよく。とても素敵なことだと思います。
皆さんにもカッコいいスタイルを手に入れて、健康で充実した、いきいきとした人生を送っていただきたい。そのためにこの本『新装版 学術的に「正しい」若い体のつくり方』を贈ります。
ただし本を読んでモテるようになったとしても、家庭が崩壊するような「ちょい」を越したワルいことはなさらないようにしてくださいね。
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近畿大学生物理工学部人間環境デザイン工学科准教授
1972年、静岡県生まれ。大阪大学工学部卒、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。国立健康・栄養研究所特別研究員、順天堂大学博士研究員などを経て、現職。専門は身体運動科学、筋生理学。「みんなで筋肉体操」(NHK)、「モーニングショー」(テレビ朝日)などで運動の効果をわかりやすく解説している。著書に『スロトレ』(共著、高橋書店)、『みんなで筋肉体操語録』(日経BP)など多数。
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(近畿大学生物理工学部人間環境デザイン工学科准教授 谷本 道哉)
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