エフエム東京を呑み込む寸前「MXテレビ87歳ドン」の欲望
プレジデントオンライン / 2020年2月21日 18時15分
■MXテレビの事実上の親会社はエフエム東京だが…
2000万円相当のスーパーカー「ランボルギーニ」を景品にして、他愛ないゲームを東京・歌舞伎町のホストたちに競わせるバラエティ番組『欲望の塊』を放映した東京MXテレビ(東京メトロポリタンテレビジョン)が、ツイッターの告発で炎上している。
死人まで出たこの不祥事は、実は単なる番組の粗製乱造の問題だけではない。MXにドンとして君臨する87歳の後藤亘代表取締役会長が、自分の古巣でいまも名誉相談役であるエフエム東京(TFM)を呑み込む両社統合を狙ったが故に軋みが増幅したとも言えるからだ。
もっとも、同一エリアで放送免許を得ているテレビ局同士の合併は、総務省令が定める「マスメディア集中排除原則」では認められない。後藤氏がめざすテレビとラジオの合併も、どちらも特定地上認定基幹放送事業者で、本来なら合併は認められないはずだが、放送法に詳しい識者は「民放連はローカル局の経営不安を理由に、水面下で合併を認めるよう総務省に働きかけている。テレビ局とFMラジオ局の合併はそれよりハードルが低い。結局は総務省のさじ加減次第で決まる」と指摘する。
要は、電波を司るお上の機嫌を損ねては放送事業者は何もできない構造なのだ。ところが、MXの筆頭株主で実質親会社であるTFMでは昨年、83億円の粉飾決算が発覚、会長や社長ら取締役陣交代劇が起き、制作現場が荒廃するなどMXと同じく組織の動揺が起きている。放送界最高齢の会長が進めるこのスキーム自体が無理筋だからではないのか。
■「出演料150万円を支払い、2000万円の景品を争う」は賭博罪の恐れ
『欲望の塊』は1年前の1~3月にMXで午前3時台に12回放送した30分番組で、優勝した人気ホスト、一(はじめ)陸斗(りくと)氏が1年経ってもスーパーカーが届かないと告発、タレントのギャラや制作会社にも未払いであることが発覚した。
1月21日にはMXが「番組は外部(企画会社)からの持ち込み企画だが、放送責任はある」と腰の引けた謝罪文をネットに掲載。3日後、行方不明のこの企画会社「五行」の担当者が、福岡市西区に駐車中の車から遺体で発見された。「ご迷惑をおかけしました」とのメモがあり、練炭による自殺とみられる。
「五行」はP‐styleなどいくつも社名を持つが正体不明で、ホスト20人足らずに出演料150万円を払わせてネコババ、どこかに流用したか、吸い上げられたかの単純な詐欺に見える。MXも「完パケ納品」で「制作著作権はMXにない」と放送責任だけ認め、「問題解決に向け努力しています」と善意の第三者を装う。
しかし「持ち込み番組」への度を越えた丸投げ――カネ集めも景品代も制作費も外にお任せで、景品やギャラが支払われたかどうかの基本チェックすら1年間も放置するような無責任は、他のテレビ局をあきれさせた。
元特捜検事の若狭勝弁護士が指摘したように、150万円の出演料で2000万円の景品を競えば刑法の賭博罪に抵触する恐れがあり、ホストから「店の広告宣伝費」として金を集めながら「広告放送」の断りがないのは放送法違反が疑われる。
■TFMは83億円の巨額赤字で、会長・社長ら取締役7人が退陣
2017年にMXは、報道バラエティ番組『ニュース女子』の沖縄報道で、放送倫理・番組向上機構(BPO)から「重大な放送倫理違反」と勧告を受けたばかり。伊達寛社長が市民運動の代表に謝罪して、番組を打ち切りとしたことは記憶に新しいが、懲りないMXに放送界の目は厳しい。
しかも『欲望の塊』が放映された時期には、MX株を20.33%保有して持分法適用会社にしている筆頭株主のTFMで激震が起きていた。関係者によれば、昨年1月ころ、TFM経営陣が粉飾決算しているとの内部告発があり、大株主の東海大学(TFM株10.22%保有)や東京タワー(同7.28%)から引導を渡された冨木田道臣会長、千代勝美社長ら7人の取締役陣が6月に退陣している。
8月に森・濱田総合法律事務所の弁護士を委員長とする第三者委員会が2017年3月期から3期にわたり粉飾決算があったと発表した。19年3月期は再決算して83億円の赤字を計上している。発覚前の流動資産は72億円しかなく、赤字穴埋めをどうするのか、TFMは連結中間決算をまだ公表していない。
■TFM新社長の黒坂修氏は、子息がMXテレビに勤務中
調査委によれば、約100億円を投資したデジタルラジオ(i‐dio)は端末の普及が進まず、累積赤字の子会社を千代前社長の知人の会社への「飛ばし」で期ズレさせて連結対象から外したという。ほかにも金銭信託や大がかりな循環取引があり、1990年代バブル破裂期を彷彿とさせる手口のオンパレード。これだけ悪質だと刑事責任も問われかねず、調査委が再発防止策とコンプライアンス強化だけで賠償請求を提案していないのが不思議なほどだ。
新経営陣の顔ぶれをみると、後藤氏に近い人脈が目立ち、早くから「自作自演のクーデター」説が流れた。後藤氏子飼いとされる西川守監査役が、本来なら監査責任を問われる立場であるにもかかわらず副社長に返り咲いたが、以前からMXに通う姿が目撃されており、内部告発者とは監査役当人ではないかと社内で噂されている。新社長の黒坂修氏も、全国FM放送局で構成するジャパンエフエムネットワーク(JFM)社長から昇格したが、子息がMX入りしており、後藤氏には異を唱えられない立場にある。
冨木田・千代体制が一掃されたのは、今年米寿を迎える後藤氏とどんな角逐があったからだろうか。新経営陣が撤退を決めたi‐dio事業は、後藤氏がTFM社長だった時代からの肝いりプロジェクト。16年にスタートしたものの、その赤字が毎期の決算に反映されていないことを、勝手を知る後藤氏が気づかなかったとは考えにくい。尻ぬぐいしていた冨木田・千代体制が、弱みを暴かれて放逐されたのではないのか、と内部関係者は見る。
■ラジオとテレビのトップを40年以上も続ける「ドン」
MXはもともと東京都と東京商工会議所が鈴木都政時代の1993年に設立した東京ローカルのUHFテレビ局である。東商証副会頭の藤森鉄雄氏(第一勧業銀行元会長)が初代社長に就いたが、独自アンテナの制約もあって経営不振で、藤森氏周辺の伏魔殿にたまりかね、旧郵政省の仲介でTFMに都などの保有株の一部を譲渡して後藤氏に立て直しを任せた。
後藤氏は旧郵政省の前身、逓信省の官僚だった松前重義氏(東海大学創立者)の元秘書である。TFMの前身である東海FMに入り、89年にTFM社長に就任、以来ラジオとテレビのトップを40年以上も続けている。
後藤時代のTFMは、マクドナルドと組んだマックビジョンや、NTTとの合弁事業「iiV CHANNEL」など、コンテンツ不足が祟って死屍累々だった。不透明な事後処理が今回の粉飾の土壌になった、と一部関係者は見る。
■「集中排除原則」のため両社の代表取締役を兼務できない
MXでも、自前でコンテンツを作らない方針に徹し、低コストの通販番組とアニメ再放送に頼って09年に黒字化したが、地上波デジタルのおかげで他のテレビ局とアンテナを共用できるようになったのが主因で「誰でも黒字化できた」と他局はその経営手腕を冷ややかに見ている。
ただ「集中排除原則」があるため、後藤氏はTFMとMX両社の代表取締役を兼務できなかった。当初はTFM社長(07年から会長)の代表権だけ、MXは小田急出身の副社長が代表権を持つという変則だった。2010年に後藤氏はTFMの代表権を冨木田氏に譲り、入れ代わりにMXの代表権を持つ。
こうみるとラジオ・テレビ「両手に花」の一体支配が悲願とみられ、「集中排除原則」は邪魔だったに違いない。そこで、コンプライアンスを口実に後藤氏の影響力を徐々に排してきた冨木田体制を「粛清」したと関係者は見る。
■TFMの「粛清」と「粉飾決算」の不自然さ
この「粛清」でTFMとMXにモラールダウンが起きた。両社とも辞める社員や幹部が相次ぎ、『欲望の塊』のようなトラブルには逃げの一手。しかもTFMは前経営陣に対する責任追及が中途半端である。深追いすると返り血を浴びるので、刑事告発や損害賠償請求訴訟を避けて“寸止め”にしたと関係者は見る。
昨年暮れの幹部会合の席では、後藤氏が次は両社統合と檄を飛ばしたとの情報が流れた。そこへランボルギーニの不祥事が発覚、MXが公共の電波の番組枠を又貸しして稼ぐ「欲望の塊」であることをつつかれたくない広報は貝になった。TFMも「報告書以上のことはお答えできません」と質問状にノーコメントだった。
肉を切らせて骨を断つTFMの「粛清」と粉飾決算の不自然さにもかかわらず、臭いものに「フタ」をするなら、監督官庁である総務報情報流通行政局に問おう。会社法違反のみならず放送法119条(不実の公表)にあたるTFMをどう処分したのか。次回はそこが起点だ。
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(チーム「ストイカ」)
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