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「腐敗している国の外交官」ほど罰金を踏み倒す傾向がある

プレジデントオンライン / 2020年2月27日 11時15分

アメリカ・ニューヨーク1番街にある国際連合本部ビル(2009年9月28日) - 写真=dpa/時事通信フォト

受け入れる移民を出身国で選別するのは悪いことなのか。青山学院大学国際政治経済学部の友原章典教授は「出身地をもとに移民をステレオタイプ的に分類することは的を射ている面がある。例えばニューヨーク市では、駐車違反で摘発された公用車のうち、社会の腐敗度が高い国からの外交官は反則金を踏み倒す傾向にある」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、友原章典『移民の経済学』(中公新書)の一部を再編集したものです。

■「××県人」というステレオタイプ的な見方は合理的か

理想的な人材を移民として受け入れるためには、個人のいろいろな資質に基づいて審査する必要がある。ただ、こうした審査をきちんと行うと大変複雑なものになるだろう。煩雑な手続きが必要となり、行政費用がかさむ。実務上、現実的でない可能性があるのだ。そこで、移民を受け入れるときには、執行面で取り扱いやすい基準があると便利だ。たとえば、何らかの基準でスクリーニングをかけるというのも一つの方法である。入学試験の足切りのようなものだ。

たとえば、移民を受け入れるときに、受け入れの対象となる国を選別すべきだという意見がある。○○人と△△人は受け入れるが、□□人は受け入れないというものだ。誰しも良き隣人を望むが、行儀の良い移民と悪い移民がいる。私たちが自国へ移住してきてほしいと思う人は、外国から移住したい人とは違うかもしれない。そこで、どの国の出身かによって、移民として受け入れるかどうかを判断しようという主張だ。

こうした取り扱いは差別的とも受け取られ、一見すると、悪いことのように感じられる。ただ、よくドイツ人は几帳面だとか、南米出身者はおおらかだとかいわれる。また、外国人だけでなく、内輪の日本人に対しても、しばしば似たような見方をする。たとえば、雪に閉ざされた長い冬を過ごす××県人は粘り強いとか、一年中温暖な気候でのんびりと過ごしている☆☆県人は時間にルーズだとかいうものだ。

これまでの研究では、出身国(地)によってステレオタイプ的に行動パターンを分類することは、ある意味、的を射ているとされている。たとえば、イタリアの銀行に勤める職員を対象にした分析では、イタリア内の出身地域によって、仕事をさぼる傾向に違いが認められている。

■国連勤務の外交官の駐車違反が急減した理由

また、コロンビア大学のフィスマンとカリフォルニア大学バークレー校のミゲルは、国連に勤務する外交官の駐車違反を調べ、国によってズルをする程度が違うとする(注1)。社会の腐敗度が高い国(たとえば、汚職などが一般的な国)からの外交官は、外交特権を私的に乱用し、反則金の支払いを怠る傾向があるのだ。

ご存知の方もいるかもしれないが、国連のあるマンハッタンでは、駐車スペースを探すのに大変苦労する。このため、駐車違反も多く見られる。

こうしたなか、外交特権は、無料の駐車券と揶揄(やゆ)されていた。駐車違反をすると、外交官であることを示すプレートをつけている車も反則切符をもらうかもしれない。しかし、国連に派遣された職員やその家族は、外交特権を使い、2002年までは反則金を支払わなくても罰せられなかったのだ。反則金を払うかどうかはあくまで自発的な行為であり、それぞれの出身国の文化的な規範にゆだねられていたといえる。

しかし、世論に後押しされる形で状況は変わった。2002年11月から、支払い不履行が累積4回以上の外交官の車から、ニューヨーク市が外交官のライセンスプレートを没収できるようになったのだ。

さらに、ニューヨーク市は、国務省に対し、不履行を犯した外交官の出身国に援助するアメリカの資金のうち、反則金の110%相当額を控除するように申請できることになった(実際に申請されたことはないそうだ)。すると、駐車違反に対する反則金の支払い不履行が、急速かつ急激に減ったのだ。

注1:Fisman, R. and E. Miguel, 2007, Corruption, Norms, and Legal Enforcement: Evidence from Diplomatic Parking Tickets, Journal of Political Economy 115(6), 1020-1048.

■腐敗度が高い国の外交官は反則金を踏み倒す傾向が

では、どのような国が反則金を無視していたのだろうか。1997年11月から2005年11月までのデータを使い、外交官1人当たり1年間に反則金の支払いが不履行である回数を見てみると、ワースト10は、クウェート、エジプト、チャド、スーダン、ブルガリア、モザンビーク、アルバニア、アンゴラ、セネガル、パキスタンである。

一方、まったく無視していない国は、北欧の国、カナダや日本だった。ワースト6の国は、反則金を100回以上踏み倒している。ちなみに、分析の対象となった149カ国のうち、日本は143位(下の順位ほど、違反が少ない)、お隣の中国は67位、韓国は122位となっている。

こうして見ると、社会の腐敗度が低いとされる国の外交官は、きちんと反則金を支払う一方で、腐敗度が高い国からの外交官は、踏み倒す傾向が見られる。反則金の不履行と社会の腐敗度には関係がありそうだ。

そこで、詳細な分析を行ったところ、社会の腐敗度が高い国から来た外交官ほど、反則金の支払いを無視する回数が多いことが確認された(図表1)。また、アメリカと距離的に近い国ほど、反則金の支払いを無視する確率が少ないことも分かった。距離についての結果は、理由が定かではないが、移民や観光を通じて文化的な類似性があるからではないかと推測されている。

国別外交官1人当たりのニューヨーク市 における駐車違反反則金の踏み倒しの指標
Fisman and Miguel(2007)Figure 2 より抜粋して作成。罰則強化以前には、腐敗している国の外交官ほど、反則金を踏み倒していたことが分かる

■この結果をどう解釈すべきか

これらの結果から、フィスマンとミゲルは、遠く離れた異国の地にいる外交官でも、母国の政府職員のようにふるまい、社会的腐敗と関連した規範の影響の強さがうかがえるとする。こうして見ると、良き隣人となるか、悪しき隣人となるかは、出身国によって、ある程度推測できるかもしれない。

ただし、それはあくまで短期的な議論だ。彼らの分析では、社会的腐敗と関連した規範が、長期的にどのように変わるかまでは分からない。また、彼らの分析は、移民の受け入れ対象国を選ぶために行われたわけではない。社会的な腐敗行為には、文化的な規範と法的処罰の両方が影響を与えることが主眼だ。さらに、法的処罰の影響は、文化的な規範の変化の影響よりも大きいことを示している。

この結果をどう解釈すべきだろう。短期的でも社会的規律を乱す可能性がある移民は排除すべき、つまり、出身国による移民受け入れの選別を認めるべきか、それとも、法的処置によって規律はコントロールできるので、出身国による選択を行うべきでないとするか、いずれにしても難しいところだ。

■出身国によって移民のタイプは違ってくる

議論は社会規範にとどまらない。ボージャスによると、出身国により、移民のタイプが違ってくる(注2)。所得格差が少なく、高技能を有する労働者がさほど評価されていない国からは、高技能労働者が移民してくる。一方、所得格差が大きく、単純労働者が貧困にあえぐような国からは、単純労働者が移民する傾向にあるとする。

ここでの高技能労働者の移民とは、日本の研究者がアメリカに移住するようなケースだ。たとえば、アメリカの大学教授は、野球やサッカー選手のように、契約時に交渉して年収を決めるため、論文や特許のような業績が重要になる。しかし、日本の大学教授は業績で年収が変わることはなく(一部例外は除く)、勤続年数などで一律に給料が決まる。このため、評価に不満を持つ優秀な研究者が、研究環境を含めて、より魅力的なアメリカの大学に移ってしまうのだ。

発展途上国からの単純労働者移民はもっと分かりやすいだろう。貧困を脱するという理由で、経済的により良い生活を求めて移住するのだ。

また、移民の出身国によって、経済的に成功するかどうか違いが見られるとされている。経済的に豊かな国からの移民は、入国直後の賃金が、アメリカ人の賃金と比べても高く、逆に、貧しい国からの移民は低い傾向がある。教育水準の違いが、こうした賃金格差の主な理由とされている。通常、豊かな国からの移民は、高い教育を受けているからだ。

注2:Borjas, G.J., 2016, We Wanted Workers: Unraveling the Immigration Narrative, New York: W.W. Norton & Company (ジョージ・ボージャス〔2018〕『移民の政治経済学』「第4章 移民の自己選択」白水社).

■どのような人を隣人として迎えたいか

さらに面白いことに、同じ教育水準であっても、豊かな国からの移民の方が、貧しい国の移民より、経済的に成功する傾向がある。豊かな国からの移民は、受け入れ国でも通用する技能を持っているからではないかと推測されている。一方、貧しい国からの移民はそうした技能がないことになる。

友原章典『移民の経済学』(中公新書)
友原章典『移民の経済学』(中公新書)

こうして見ると、誰を移民として迎え入れたいかといった際、暗黙のうちに、国の選択をしている可能性がある。たとえば、受け入れ国でも通用する技能が、受け入れ国が必要としている技能だとすると、豊かな国からの移民を推奨することになる。

一方、サービス産業の人手不足を解消したいのであれば、所得格差が大きく、単純労働者が低賃金である発展途上国からの移民を念頭に置いていることになるだろう。また、社会規範が似ている国の人の方が、一緒に暮らすのも安心だと思うかもしれない。

どのような人を隣人として迎えたいかの基準が分かれば、明示的に国の選別をしなくても、自然と対象となる国も絞られてくるだろう。すると、国の選別自体を議論することは、あまり意味のないことになる。

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友原 章典(ともはら・あきのり)
青山学院大学国際政治経済学部教授
東京都生まれ。2002年、ジョンズ・ホプキンス大学大学院よりPh.D.(経済学)取得。世界銀行や米州開発銀行にてコンサルタントを経験。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経営大学院エコノミスト、ピッツバーグ大学大学院客員助教授およびニューヨーク市立大学助教授等を経て、現職。著書に『国際経済学へのいざない(第2版)』日本評論社、『理論と実証で学ぶ 新しい国際経済学』ミネルヴァ書房、『実践 幸福学』NHK出版新書など。

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(青山学院大学国際政治経済学部教授 友原 章典)

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