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人生で成功したければ「ブランド物」を積極的に着たほうがいい

プレジデントオンライン / 2020年3月7日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yana Tkachenko

機能はほとんど同じなのに、高価な「ブランド物」が好まれるのはなぜか。脳科学者の中野信子氏は、「ブランド物を持つことは、すでに一定の社会経済的地位を手に入れているというサインだ。他者から『社会的パートナーとしての価値が高い』と認識され、より多くの投資を受けられる」という——。

※本稿は、中野信子『空気を読む脳』(講談社+α新書)の一部を抜粋、見出しなど再編集したものです。

■ブランドのロゴが「独裁者ゲーム」に与える影響

「独裁者ゲーム」という、利他性の程度を定量的に検討できるということで、心理実験などでよく使われる課題があります。

分配者と受領者の二者で行われ、分配者が掛け金の配分率を決定し、受領者はその決定に従って受け取るだけという単純なルールです。

この課題では、受領者は配分率の決定に対して何かをすることも発言することもできません。独裁者ゲームでは、分配者は掛け金を独占するのが最も合理的な選択です。ですが、多くの場合、受領者に対して2割以上の配分比を決定することがわかっています。

被験者のブランドへの反応を調べるために、この独裁者ゲームをやってもらいます。

20枚の1ドル紙幣を持たせた被験者が、見知らぬ相手に対して一体何枚渡すのかを観察するのですが、この実験は相手がブランドのロゴなどが何もついていないセーターを着ている場合と、ブランドのロゴつきセーターを着ている場合とで、渡す枚数がどう変化するのか、という点がポイントです。

さて、ブランドのロゴの有無により、独裁者ゲームの結果はどう変わったのでしょうか?

ロゴつきの場合は、ロゴなしのときに比べて、実に25%も多い金額が、相手に与えられたのです。

■ブランドを身に着けたほうが多くの寄付をもらえた

街を歩いているとき、にこやかに近づいてきた見知らぬ人から「アンケート調査にご協力をお願いできませんか?」などと話しかけられた経験を、誰でも一度や二度は持っているのではないかと思います。こうしたアンケートに応じる人は実際、どのくらいいるのでしょうか?

オランダ、ティルブルグ大学のマイヤーズらの研究によれば、近づいてきた調査員の服装によって、アンケートに答えてくれる人の割合が変わったといいます。

まったく知られていないブランドのロゴがついたセーターを着ていた場合には、アンケートに答えるのを承諾した人は約14%でした。だいたい7人に1人くらいです。しかし、ラコステのワニのロゴがはっきりわかるセーターを着ていた場合には、なんとアンケートに答えてくれた人の割合が約52%になったのです。

実に半分以上の人が、調査員が見知ったブランドのセーターを着ていただけで、協力的な態度をとった、ということになります。

寄付金の額についても同じような結果が報告されています。

ここでもなんと、見知ったロゴつきのセーターを着て依頼した場合には、そうでない場合に比べて、寄付金の額が倍になったのです。

有名ブランドのロゴつきセーターを着ている人は、それを買えるだけの経済的余裕のある人なのだろうという推測ができますから、この結果は不思議なことが起きているようにも見えます。

「独裁者ゲーム」においては、より持たざる相手に何かを与えたいという気持ちが生まれるわけでもなく、より持てる相手に妬(ねた)みを感じるなどして配分率を下げたりするわけでもなかったのです。

■人は何のために消費をするのか

それでは「裕福な相手に、より多くを与える」という一見不合理な選択を私たちがしてしまうのは、一体なぜなのでしょうか?

従来の、消費についての社会学的な理論ではこれをうまく説明することができませんでした。

たとえば、フランスの社会学者ブルデューは、消費を促進するのはディスタンクシオン(卓越性)への欲求であると分析しています。文化財の消費、またそれらへのアクセス権の独占を目的として行われる経済行動は、卓越化という利益を期待して行われるという考え方です。

また、自己肯定のために人間はブランドを必要とする、という主張や、いつか訪れる死への怖れを超克するために金銭的価値への執着が生まれるとする立場もあります。

これらの理論が展開するような、地位をめぐる競争に勝利し、自分が劣っているという屈辱を晴らすために消費が行われるのだ、という主張について考察を加えてみると、消費は競争を助長し、人間同士の社会的距離を広げる行為である、ということになります。

■ブランド物を持っている=協調する価値がある

しかしながら、これまで紹介したいくつかの実験は、ブランド品の消費によってより相手と協調する結果を生むものばかりですから、自分を相手に対してできるだけ優位に持っていこうという動機に着目して強調するこうした理論を適用しようとしても、かなり説明に無理が生じてしまうと言わざるを得ません。

しかしここで「社会的選択」という概念を導入すると、この現象をうまく説明できる可能性があります。社会的選択というのは、競争でなく協調するという戦略をとる場合、協調する相手をどう選ぶのか、その選び方のことです。

「ブランドのロゴつきのものを身に着けている」ということは、その人物がすでに一定の社会経済的地位を手に入れているというサインです。つまり脳は、ブランドのロゴという社会経済的地位の高さを示すサインを見て、「互恵関係を築けば利益の増大が見込める」と判断し、その相手を「社会的パートナーとしての価値が高い」と読み替えてより多くの投資をする、と解釈することができます。

あとで説明しますが、ブランドは、強い感情と結びついた記憶を呼び起こすことで、その商品やそれにまつわる経験に価値を付与します。

■脳はブランドと味を別々に処理している

けれども、ブランドは脳ではどのように認知されているのでしょうか?

ブランドがブランドになるには、何が必要なのでしょうか?

有名な実験に、「ペプシチャレンジ」というブランドが脳に与える影響を調べた研究があります。コカ・コーラとペプシコーラを比較し、ブランドについての知識が味や選好を変容させるということで話題になった、広く知られている古典的な研究です。

これを脳科学的に検証しようという研究が、アメリカの脳科学者モンタギューらによって行われています。

実験ではまず、ペプシコーラとコカ・コーラを被験者に飲んでもらい、味の好みとブランドの好みが一致するかどうかを調べました。その結果、自分が好きだと思っているブランドと、ブラインドテストで調べた味の好みはそれほど一致するわけではない、ということがわかりました。

つまり、コカ・コーラ好きだと感じて公言していても、ラベルを見せずに中身だけ飲ませるとペプシコーラを選ぶ、という人がそれなりにいた、ということになります。

次に研究グループは、被験者にコカ・コーラとペプシコーラのそれぞれをブランド名なしで飲んでもらい、その最中の脳の活動をスキャンしました。主観的な快楽を感じるときに活動すると考えられている脳機能領域は腹内側前頭前皮質ですが、この部分の活動は、被験者があらかじめ報告した自分のブランドの好みとはあまり一致しませんでした。ブランドと味を、脳はどうも別々に処理しているようです。

このデータをもう少し掘り下げるために、ブランド名がわかっている状態で被験者にそれぞれを飲んでもらって、そのときの脳をスキャンしました。すると、コカ・コーラを好きだと答えた人がコカ・コーラと知って飲むときには、記憶・情動の回路が活性化していたのです。

■ブランドを好むのも大事な脳の働きのひとつ

一方で、ペプシコーラではこのような反応が見られませんでした。コカ・コーラに特異的に見られたこの反応は、情動に直接訴えかけて判断を変化させるということで、エモーショナル・ブランディングと呼ばれています。

中野信子『空気を読む脳』(講談社+α新書)
中野信子『空気を読む脳』(講談社+α新書)

研究グループはさらに、腹内側前頭前皮質を損傷した患者に対して同じ実験をしました。先に説明したとおり、この部分の活動は、主観的な快楽、そして感情的記憶と結びついています。すると、この患者たちは、ブラインドテストでの味の好みと、ブランド名を明かした場合の好みが一致したのです。

ブランドの好みに判断が左右されてしまうのを私たちはあまり良いことのようには思っていませんが、ブランドを好むのも大事な脳の働きのひとつと言える、ということになるでしょうか。

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中野 信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者
東京大学工学部応用化学科卒業。同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに、人間社会に生じる事象を科学の視点をとおして明快に解説し、多くの支持を得ている。現在、東日本国際大学教授。著書に『サイコパス』(文春新書)、『キレる! 脳科学から見た「メカニズム」「対処法」「活用術」』(小学館新書)、『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム)ほか多数。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。

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(脳科学者、医学博士、認知科学者 中野 信子)

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