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「思い残すことはない」静かな達成感を得た人の生き方

プレジデントオンライン / 2020年3月23日 11時15分

シンクロスイマー、オリンピック銀メダリスト 武田美保氏

■銅メダルを取って愕然とした

シンクロナイズドスイミングの選手だった武田美保さん。アトランタ、シドニー、アテネと3回連続で五輪に出場し、そのすべてでメダルを獲得。どうやってモチベーションを維持していたのか。

「特に秘訣があったわけではありません。続けていたのは、やらないと答え合わせができなかったからなんです。1回目のアトランタでは、代表選手になれるかというギリギリのレベルだったので、代表に選ばれた時点で満足してしまって。本当はそこがスタートなのに、自分の中では終わっていた。だからオリンピックまでの8カ月間の合宿は、やらされてる感だけで、とにかくしんどい時間でした」

そこは一流アスリート。苦しい気持ちを抱えながらも8カ月間、過酷な練習をこなした。その結果、本番ではノーミス。チームで銅メダルを獲得した。しかし、表彰台で武田さんは愕然とする。

「とにかく休みたい、しんどいことから逃げたいという感情しか残ってなかった。それがものすごくショックで。私、何者にもなれてないなと……」

こんな感情になるために十数年ほとんどの時間を費やしてきたのだろうか。支えてくれた家族、指導してくれたコーチや監督にも申し訳ない。

「オリンピックでは、どんな喜びや満足感を味わえるのか。それを知らないと終われないと思いました。しかし、次のオリンピックまでの4年間、苦しい練習に耐えられるのか? 何度も自問自答しました。でも、選手として得られるものを知りたい、という気持ちが勝ったんです」

■結果がよくても、内容がともなわないと満たされない

新たな覚悟で挑んだシドニー五輪ではデュエットとチームの2種目に出場し、両方で銀メダルを獲得。特にチームでは会心の演技ができた。

3度目の挑戦となったアテネ五輪。最高の状態で集大成となる演技をし、見事銀メダルを獲得。
3度目の挑戦となったアテネ五輪。最高の状態で集大成となる演技をし、見事銀メダルを獲得。(Getty Images=写真)

「空手の動きを取り入れた演技をしたのですが、やってる間、ゾクゾク、ワクワクして、終わった瞬間は、やった! と思いました。完璧にできたのがわかる、最高に幸せな境地に達したんです。答え合わせはできました」

しかしデュエットでは課題が残った。練習で感じていたパートナーとの微妙なズレが大きな不安となり、決勝ではミスが出たのだ。

「これがオリンピックの魔物かと。銀メダルは取れたのですが、納得のいく演技ができなかった自分が許せなくて。結果だけ見れば十分だったかもしれません。でもそれでOKじゃない。評価や結果ではなく、内容がともなっていないと満たされないんです。あれほど練習したのに、こんなに空虚な気持ちになるなんて、私、4年間何やってたんやろと。それでまたやめられなくなったんです」

気力体力、あらゆる面でこれが最後の五輪になる。そう覚悟を決めて練習に打ち込み、心身ともに最高の状態で乗り込んだアテネでは銀メダルを獲得。メダルの色は前回と同じだが、気持ちは違っていた。

「ああ、自分との勝負に勝った、思い残すことはないという静かな達成感、納得感を得られました。井村先生にも認めてもらえたので、引退のときはすっきりした気持ちで何の悔いもなかったです」

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武田美保(たけだ・みほ)
シンクロスイマー、オリンピック銀メダリスト
アトランタ、シドニー、アテネの3度の五輪で合計5つのメダルを獲得。引退後はテレビ番組への出演、講演、本の執筆など幅広く活動している。

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(山下 久猛)

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