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規制緩和が進んでもドイツやフランスで深夜営業が増えないワケ

プレジデントオンライン / 2020年2月26日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Alphotographic

※本稿は、加谷珪一『日本はもはや「後進国」』(秀和システム)の一部を再編集したものです。

■コンビニ24時間営業「問題の本質は生産性にある」

最近、コンビニの24時間営業の是非が大きな社会問題となっていますが、これは生産性の問題と密接に関係しています。

コンビニの24時間営業の問題が浮上するきっかけになったのは、最大手セブン‐イレブンの加盟店が、営業時間の短縮を実施し、契約内容をめぐって同社と対立したことです。

世の中では、24時間営業がすべて悪いという流れになっているようですが、それは表面的な見方にすぎません。すべての店舗において24時間営業が強制されていることが、一部のフランチャイズ加盟店の経営を苦しくしているのは事実ですが、加盟店の経営が苦しくなっている理由は別にあります。

コンビニのフランチャイズ加盟店と本部の契約内容は、店舗開設に必要な土地や費用をどちらが負担するのかなどによって異なりますが、一般的に加盟店にとってはかなり厳しい内容であり、加盟店はあまり儲かりません。

それでも市場の拡大が続いた時代には、毎年、売上高が増えますから、その分だけ利益も増加し、加盟店オーナーもなんとか経営を続けることができました。しかし、ここ数年でその状況が大きく変わっています。

■セブンは店舗数が増えたのに売上高が増えていない

2018年2月期決算時点でのセブンの総店舗数は2万260店舗となっており、5年間で何と35%も増加しましたが、1店舗あたりの売上高は同じ期間であまり増えていません。この間、客単価は上昇しているので、店舗の中には来店者数がむしろ減ったところもあるでしょう。

加盟店の売上高が伸びていないため、加盟店の利益が増加していないのに人件費が高騰したことから、一部の店舗では賃金の支払いに苦慮することになり、深夜営業が難しくなっているのです。つまりコンビニという事業の生産性が伸び悩んでおり、それに伴って加盟店の利益が減少していることが最大の問題なのです。

もしコンビニの売上高が順調に伸びていれば、つまり生産性が向上していれば、利益も増えていますから、加盟店が経営難に追い込まれることはないはずです。

コンビニの生産性が低下している原因は、店舗の出しすぎやドラッグストアなど競合業態の台頭、一部のフランチャイズ・オーナーに対して行われている不条理な契約など、様々な原因が考えられます。コンビニのビジネスについて議論するのは本書の目的ではありませんから割愛しますが、問題の本質は生産性にあるということはご理解いただけたのではないかと思います。

■ドイツの小売店の深夜営業が日本より少ない理由

深夜営業や休日営業の規制についてよく引き合いに出されるのが、ドイツやフランスです。ドイツには有名な「閉店法」と呼ばれる法律があり、小売店の深夜営業や休日営業は法律で規制されています。フランスにも同様の規制があり、小売店の種類によっては深夜や休日に営業することができません。

両国とも規制緩和が進んでおり、24時間営業を実施する店舗は増えましたが、日本と比較すれば、深夜や休日に営業している店舗は圧倒的に少数です。実はこの部分がとても重要です。

特にドイツにその傾向が顕著ですが、大幅な規制緩和が行われた結果、多くの店が24時間営業に移行したのかというと必ずしもそうではないのです。法律上では規制されていなくても、いまだに深夜や休日には休む店が多数を占めています。

フランスの場合には、イスラム教徒など移民が経営する小売店を中心に、以前から深夜・休日営業が行われていましたから、実質的に不便はなかったという背景はあるものの、やはり規制緩和によって多くの店が24時間営業に移行したわけではありません。つまりフランスもドイツも、事業者側は無理に営業時間を延長するつもりはないようです。

事業者が無理に営業時間を延長する必要がないのは、ドイツとフランスの生産性が高く、基本的に企業が儲かっているからです。利益を上げることができず、生産性が低下している状態で、いくら営業時間のことについて議論しても、まともな解決策は出てこないでしょう。

■生産性はたった3つの要素で決まる

これまで見てきたように、日本はすでに豊かな先進国ではなくなりつつあるのですが、その最大の原因となっているのが生産性の低さです。

生産性の問題については、すでにメディアで何度も報じられていますから、言葉そのものはよく耳にしているという人が多いと思います。しかしながら、「生産性とは何か」と真正面から問われてしまうと、案外、答えに窮してしまうのではないでしょうか。

生産性の定義が分からなければ、状況を分析することもできませんし、正しい処方箋を書くこともできません。この問題と真剣に向き合うためには、まずは生産性の定義について理解しておくことが重要です。

生産性というのは、企業が生み出した付加価値を労働量で割ったものです(図参照)。

生産性の定義

何をもって付加価値とするのかについては、いろいろな考え方がありますが、企業会計ベースの場合には会計上の売上総利益(いわゆる粗利益)を、マクロ経済ベースでは企業の粗利益の集大成であるGDP(国内総生産)を用いるのが一般的です。

労働量については、通常、社員数と労働時間を掛けた数字を用います。つまり企業が得た利益を、社員の数と労働時間の積で割ったものが生産性ということになります。

計算式で表わすと、企業が得た粗利益(マクロ経済的にはGDP)が分子となり、労働者の数×労働時間が分母となるわけですが、生産性の定義はズバリ、これだけです。

■利益を増やすか、社員数を減らすか、労働時間を減らすか

要するに生産性というのは、①付加価値、②社員数、③労働時間という3つの要素で構成されており、言い換えれば、生産性を向上させるためには、この3つの数字のどれかを変える以外に方法はありません。

式を見ると、分子が付加価値で分母が社員数と労働時間ですから、生産性を向上させるには、分子を増やすか分母を減らすのかのどちらか、あるいはその両方となります。つまり、付加価値を上げる(利益を増やす)か、労働時間を減らすか、社員数を減らすかの3つしかないのです。

世の中には、やたらと話を難しくしたがる人がいて、これが議論を混乱させる要因となっていますが、むやみに話を難しくする行為というのは、自分には知識があることをアピールしたいという、ただのマウンティングにすぎません。

繰り返しになりますが、生産性を上げて、私たちの生活を豊かにするためには、利益を増やすか、社員数を減らすか、労働時間を減らすしか方法はないのです。ここは非常に重要な部分ですから、ぜひ覚えておいてください。

さらに分かりやすく、くだけた表現を用いるのであれば、生産性を上げるためには、より儲かるビジネスを行い、できるだけ社員数を少なくし、同時に労働時間を短くすればよいわけです。

■日本の生産性がドイツや米国並みに高かったら……

ここで先ほど例として取り上げた、1万ドルを稼ぐために、何人の社員が、何時間労働する必要があるのかという話を思い出してください。

この式に当てはめれば、分子に相当する付加価値(利益)が1万ドルで一定だった場合、どうすれば生産性が上がるのかという話と同じことです。日米独の比較では、日本がもともと多くの人数を投入して、長時間労働を行っていました。

もし、日本の生産性がドイツや米国並みに高ければ、その分の人材や労働時間は別の仕事に充当されることになります。新しい仕事が生まれるということですから、これはマクロ経済の定義上、GDPの拡大につながります。GDPが増えれば、国民の総所得が増加しますから、これは豊かさに直結します。

のちほど、日本企業の社内には、実質的に仕事がない人がたくさん在籍しているという問題を解説しますが、この話も、企業単体で見ればムダが多いという程度のイメージにしかならないかもしれません。しかし、経済全体にまで視点を広げると話は変わってきます。

■余剰人員が別の仕事をすればGDPは一気に増大する

会社で人が余り、実質的に仕事をしていない人が在籍しているということは、経済全体で見れば、その分だけ、別の生産が犠牲になっているということを意味しています。不景気のときには、モノを作ってもなかなか売れない(つまり需要がない)という事態になりがちですが、ニーズを満たす製品が作られなければ、そもそも需要を喚起しませんから、生産力が犠牲になることは経済にとって大きなマイナス要因なのです。企業というものは、できるだけムダな社員を抱えず、経済全体として、できるだけ多くの生産を行うことが豊かさの源泉となります。

この話はあくまで付加価値が各国とも1万ドルだったらという前提ですが、現実には、付加価値の金額は大きく変わってきます。仮に日本企業が、ムダな社員を抱え、長時間労働だったとしても、分子の付加価値が大きければ、その分だけマイナスをカバーできるからです。

米国は日本の2倍近くも生産性が高いのですが、労働時間は日本並みに長時間労働です。米国の生産性が高いのは、社員の数が少ないことに加え、分子に相当する付加価値が極めて大きいからです。もっと分かりやすい言葉でいえば、儲かる商売をしていることが生産性を高めています。

ドイツも米国ほどではありませんが、儲かる商売に徹していることに加え、残業など考えられないという社会風潮です。分子が増えて、分母が減少するわけですから、生産性が高いのは当たり前なのです。

■米国人はテキトーに仕事をしているのになぜ生産性が高いか

以前、日本人ビジネスマンの仕事の仕方と、米個人ビジネスマンの仕事の仕方をコミカルに比較したユーチューブの動画がネットで話題になったことがありました。

日本人はデスクできちんとした姿勢で座り、電話に出るとペコペコ頭を下げながらしっかりと対応しています。一方、米国人は椅子にふんぞり返り、ダルそうに仕事をして、電話が来ると「ランチを食べてから」といって電話を切ってしまいます。

これには相当、誇張が入っていますし、会社や人によって状況は様々なわけですが、あながち間違ってはいません。多くの米国人は仕事がかなり適当ですし、細かいところは気にしないというか、非常に雑です。

しかし、日本と米国を比べると圧倒的に米国の方が生産性が高いのですが、この差は、ひとつの仕事から得られる利益の違いによってもたらされています。

米国は社会全体として、儲からない仕事は基本的にやりません。自動化できるものや、途上国にアウトソースできるものは、ドンドン外に出してしまいます。

また、業務上、意味のない作業を行うことはほとんどありません。

■日本はすでに先進国ではないという自覚が必要

日本では、なぜその作業があるのか分からなくても、昔からやっているという理由だけで継続するケースがありますが、米国ではそうしたことはほぼ皆無といってよいでしょう。

加谷珪一『日本はもはや「後進国」』(秀和システム)
加谷珪一『日本はもはや「後進国」』(秀和システム)

付加価値の低いものはすべて外に出し、自分たちはより付加価値が高く、成果の大きいものに集中するわけです。日本では長時間残業をしている人は、がんばっていると評価されがちですが、米国ではダラダラ残業しているようではむしろクビになってしまいます。

この結果、一見テキトーに仕事をしているように見えても、日本よりもはるかに大きな金額を稼いでいるのです。

日本はすでに豊かな先進国ではなくなっており、私たちはその事実を受け入れた上で、今後の対策を考える必要があります。

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加谷 珪一(かや・けいいち)
経済評論家
1969年宮城県生まれ。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村証券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。その後独立。中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行うほか、億単位の資産を運用する個人投資家でもある。

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(経済評論家 加谷 珪一)

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