コーヒー100円の「低価格路線」で大復活したマクドナルドの行く末
プレジデントオンライン / 2020年2月28日 11時15分
■既存店売上高は50カ月連続でプラス達成
マクドナルドが復活した。2014年7月の鶏肉偽装問題でどん底に沈んだが、店舗の改装や「マクドナルド総選挙」などのキャンペーンが奏功。19年12月期、直営店とフランチャイズ(FC)店の売上高を合計した「全店売上高」は創業以来最高を記録した。
日本マクドナルドホールディングス(HD)が2月13日発表した19年12月期連結決算は、売上高が前期比3.5%増の2817億円、営業利益が11.9%増の280億円、純利益が23.0%減の168億円だった。
19年12月期の全店売上高は、前期比4.7%増の5490億円だった。既存店売上高が4.5%増と好調だったことが寄与した。既存店売上高は好調が続いており、15年12月から20年1月まで50カ月連続でプラスを達成している。19年の1店舗当たりの平均月商は約1500万円で上場来最高だったという。
■増税後に真価を発揮した「お得感」
この好調を牽引したのは「お得感」だ。消費税増税後、その真価を発揮した。
昨年10月の増税の際、マクドナルドでは店内飲食(税率10%)と持ち帰り(同8%)で価格を統一し、商品の3割は税込み価格を10円引き上げた一方、7割は税込み価格を据え置いた。税込み価格を据え置いた商品を店内で飲食する場合は実質値下げとなるので、これがお得感につながった。
また、10月から期間限定で100円~200円(以下すべて税込み)の低価格メニュー「ちょいマック」(旧おてごろマック)に「スパイシーチキンバーガー(スパチキ)」(200円)を追加したほか、「プレミアムローストコーヒー(ホット)」(Sサイズ100円、Mサイズ150円)を2年9カ月ぶりに全面リニューアルし、無料配布するキャンペーンも行った。こうした施策も、「マクドナルドはお得」というイメージを与えた。
増税後に苦戦を強いられた外食チェーンもあったが、マクドナルドの業績は好調を保った。10月の既存店客数は前年同月比2.4%減ったものの、11月は4.3%増、12月が3.0%増、今年1月が1.5%増とプラスが続いている。
スパチキ追加やコーヒー刷新の成功を受けてか、1月からは「おてごろマック」の名称を「ちょいマック」に改めてスパチキの販売期間を延長したほか、「プレミアムローストコーヒー(ホット)」Mサイズを期間限定で50円引きの100円で販売するキャンペーンを行っている。
■他チェーンの追随を許さない安さ
低価格メニューの打ち出しが功を奏していることから、やはりマクドナルドの強さは「価格の安さ」にあるといえる。「スパチキ」など「ちょいマック」のハンバーガーはどれも200円で十分安い上に、レギュラーメニューでも「ハンバーガー」「チキンクリスプ」がいずれも110円と圧倒的に安いハンバーガーが存在する。
これほど安いハンバーガーを提供するチェーンは他にないだろう。人気チェーンのバーガーメニューでいちばん安いのはいずれもシンプルなハンバーガーだが、ロッテリアでは170円(税抜)、モスバーガーでは204円(税抜)、ドムドムで240円(税込)と、マクドナルドには太刀打ちできない。
ドリンクも同様だ。マクドナルドはSサイズ100円のドリンクを多数取りそろえている。いずれのチェーンもそこまでの低価格路線は採っていない。
18年1月に「カフェラテ」を全面リニューアルし、Sサイズを50円値下げして150円で販売を始めたことも、マクドナルドの低価格路線の象徴といえるだろう。これによりコンビニと同程度の価格となり、コンビニとも十分戦えるようになった。
■中価格帯商品でも「バリュー」を演出
マクドナルドは18年に「もっと、おいしさ向上宣言」を掲げていたが、19年はこれを刷新して「もっと、おいしさ&バリュー向上宣言」を掲げた。これ以降、より顕著に「お得感」を演出するようになってきている。
19年3月から期間限定で新作「ホットアップルカスタードパイ」(120円)を販売したほか、7月には期間限定で「プレミアムローストコーヒー」Sサイズと、「ワッフルコーンプレーン」または「マックフライポテト」Sサイズのセットを60円引きの190円で販売した。
中価格帯以上の商品でもこの路線は同様だ。例えば昨年4月、平日午前10時半から午後2時までセット商品が割安になる「バリューランチ」に、レギュラーのセットメニュー「バリューセット」との比較で90円割安となる「ビッグマック」と「グランベーコンチーズ」を追加し、サイドメニューとドリンクをセットにして600円で販売した。
次いで8月には期間限定で、「夜マック」(午後5時から閉店まで)の中で、3~4人分のハンバーガーやポテトなどをセットにした「わいわいパック」を約3割引きで販売している(3人分:1490円、4人分:1980円)。
■背景にある圧倒的なスケールメリット
マクドナルドが思い切った低価格を実現できる背景には、圧倒的なスケールメリットがある。世界100カ国以上で3万8000店以上、日本では約2900店もの店舗を展開するスケールメリットを生かして原材料を安定して安価に調達できるのだ。これは競合にはない強みといえるだろう。
外食店を取り巻く環境は厳しさを増している。増税による消費者の節約志向の強まりや、コンビニエンスストアなど中食勢との競争激化、人件費をはじめとするコスト上昇など、成長を阻害する要因は多い。
低価格で商品を提供できない外食店は苦しい状況に置かれている。値上げを余儀なくされて客離れが続く定食チェーン「大戸屋ごはん処」や、居酒屋チェーン「鳥貴族」を見れば明らかだ。
その中にあって、スケールメリットを生かして価格を抑え、お得感を演出できるのは巨大チェーンならではといえる。マクドナルドは2020年もこの路線を突き進んでいくようだ。年間を通じて「コーヒーだけでも、お気軽に。」のメッセージを発信し、100円コーヒーのみの注文も歓迎するスタンスを打ち出している。俳優の木村拓哉さんを起用して、このメッセージをアピールするCMを通年で放映していくという。
さらに20年は、スマートフォンによる事前注文を強化して、店舗の収益力を高めていく。20年12月期連結業績予想によれば、全店売上高は前期比4.0%増の5710億円を目指し、営業利益は3.5%増の290億円で9年ぶりの最高益を見込む。お得感を武器に勝ち続けられるのか、行く末を注視したい。
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店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。
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(店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司)
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