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なぜ日本のネット空間は「間違った情報」が欧米より多いのか

プレジデントオンライン / 2020年2月29日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NicolasMcComber

※本稿は、加谷珪一『日本はもはや「後進国」』(秀和システム)の一部を再編集したものです。

■「ネット空間=バーチャル」では、生産性は上がらない

ソーシャルメディアは、もはや社会になくてはならない存在となっていますが、日本ではネット空間は、あくまでバーチャルなものと捉える傾向が顕著です。

普段は大人しいのに、ネット空間では性格が豹変(ひょうへん)し、他人に罵詈(ばり)雑言を浴びせる人が多いことからもそれは分かりますが、こうしたネット空間に対する認識というのは、実は生産性に大きな影響を与えているのです。

ネット空間でのふるまいとリアルな世界でのふるまいは実は裏でリンクしており、リアル社会で他人を信用できない人は、ネット社会でもやはり他人を信用することができません。

総務省が公表した2018年版情報通信白書には、ネット利用をめぐる興味深い調査結果が掲載されています。同白書によると、日本人のソーシャルメディアの利用方法は極端に閲覧に偏っており、自ら情報を発信している人は少ないという結果が得られています。

フェイスブックにおいて自ら積極的に情報発信を行っている日本人はわずか5.5%で、米国(45.7%)、ドイツ(25.9%)、英国(34.9%)と比較すると大きな差が付いています。日本ではフェイスブックそのものがあまり普及しておらず、そもそも「利用していない」という人が過半数ですが、利用している人の中での比率という点でも、日本は16.7%と各国(40%〜50%台)よりも低い結果となっています。

他の媒体もほぼ同様で、ツイッターで積極的に発言している人は9%となっており米国の半分程度しかいません。ブログ利用者の中で、閲覧のみという人の割合は米国の2倍もあります。

■日本人のネット利用はもっぱら閲覧

日本におけるソーシャルメディアの利用が閲覧に偏っているのだとすると、ネット空間上で飛び交う情報は、少数の人が発信したものということになり、全体像を示していない可能性が出てきます。ネット空間上の情報や言論に偏りがあるという話は、多くの利用者が気付いていることだと思いますが、この調査結果はそれを裏付ける材料のひとつといってよいでしょう。

日本の場合、発信する人が少数ということに加え、ネット上の情報の多くが、すでに存在している情報のコピーであるケースも多く、同じ情報が拡散されることでさらに偏りが生じている可能性が否定できません。

情報に偏りがあり、その情報源が独立していない場合、いわゆる「集合知」が成立しないというリスクが生じてきます。集合知というのは、簡単にいってしまうと「みんなの意見は正しい」という考え方です。

グーグルなどが提供している検索エンジンのアルゴリズムには、集合知の考え方が応用されています。集合知が正しいことの事例としてよく引き合いに出されるのが、1986年に起きたスペースシャトル「チャレンジャー号」の事故です。

事故直後、まだ原因もよく分からない段階から、ガス漏れを起こしたリングを製造している会社の株だけが下落していました。正式な調査結果が出るよりもはるか以前に、市場は原因を完璧に特定していたのです。

■本来、みんなの意見は正しい

グーグルの検索エンジンはこの考え方を応用し、多くの人がアクセスするサイトは有用であると判断し、これによって検索結果を順位付けするという仕組みを開発しました(それだけで判断しているわけではありませんが、アクセス数やリンクが大きなファクターであることは間違いありません)。

ネット上の集合知をうまく活用できると、正しい見解に辿(たど)り着くまでの時間を劇的に短縮できますから、経済に対する効果は絶大です。

今までの時代は、何か新しいプロジェクトに取り組む際には、専門家や経験者に話を聞いたり、多数の本の中から該当するものを探すなど、相当な手間をかけて情報収集する必要がありました。ネットで集合知が形成されていれば、それを見れば一発でおおよその判断が可能です。一連の調査にかかる手間を一気に省けるわけですから、効率は何倍、あるいは何十倍にもなるわけです。

しかしながら、「みんなの意見は正しい」という命題が成立するためには、①意見の多様性、②意見の独立性、③意見の分散性、④意見の集約性、という4つの条件を満たしている必要があります。

つまり、多様な価値観を持った人が集まり、皆が他人に左右されず、独自の情報源を使って自分の考えを表明した結果を集約すれば、必然的に正しい答えが得られるという理屈です。

その点からすると、日本のネット空間は、発信者の数が少なく、情報に偏りがあるため、情報の信頼性が低下してしまうことになります。

■「信用」することもひとつの能力

同調査では、ネットで知り合う人の信頼度についても国際比較しています。

「SNSで知り合う人のほとんどは信用できる」と回答した日本人はわずか12.9%ですが、米国は64.4%、英国は68.3%に達します。逆に日本人の87.1%は「あまり信用できない」「信用できない」と答えており、ネット空間で知り合う相手に対して信用していないという現実が浮き彫りになっています。

実は、他人を信用できないという話はネット空間に特有のものではありません。

ネットかリアルかは区別せず「ほとんどの人は信用できる」と回答した日本人はわずか33.7%しかおらず、その割合は各国の半分となっています。つまり日本人は基本的に他人を信用しておらず、ネット空間ではその傾向がさらに顕著になっているにすぎないわけです。

日本人は猜疑心(さいぎしん)が強く、他人を信用しないという話は、海外でビジネスをした経験のある人なら、実感として理解できるのではないでしょうか。

米国は契約社会といわれていますが、それは一部のカルチャーを極端に解釈したものにすぎません。米国では意外と信用ベースで話が進むことが多く、後になって金銭的に揉(も)めることもそれほど多くありません。中国に至っては、いったん信頼関係ができると、ここまで信用してよいのだろうかというくらいまで、相手から信用してもらえることすらあります。

■狭い範囲で顔を合わせて経済活動する日本人

日本人や日本社会がグローバル化できないのは、英語などの問題ではなく、他人を信用できないという性格が大きく影響している可能性があります。経済活動において、相手を信用できないことによって生じるコストは膨大な金額になりますから、日本は多くの富を失っているのです。

信用できない相手と取引するリスクを軽減するためには、多額の調査費用をかけて相手を調べたり、すべての案件で契約書を作成するといった作業が必要となり、時間とコストを浪費します。これを回避するには、よく知っている相手だけに取引を絞り、狭い範囲で顔を合わせて経済活動するしか方法がなくなってしまうでしょう。

日本企業の中には、昔からの取引先以外とは取引しない、資本関係のある下請け会社にしか発注しないというところも多いのですが、こうした商慣習というのは、よく知った相手とだけ取引することでリスクを回避しているわけです。

しかしながら、特定の相手とだけ取引を続けていると、馴れ合いが生じやすいですし、何より、もっと好条件で取引できる相手がいたとしても、それを排除するメカニズムが働いてしまいます。こうした環境では十分な市場原理が働かず、結局は多大なコストを支払う結果となるのです。先ほどテレワークについて言及しましたが、信用できない性格が、日本においてテレワークが浸透しない原因のひとつになっている可能性は十分にあるでしょう。

■まずはリアルな世界からはじめよう

加谷珪一『日本はもはや「後進国」』(秀和システム)
加谷珪一『日本はもはや「後進国」』(秀和システム)

血のにじむようなコスト削減努力を行っても、儲かった実感が得られないことの背景には、こうした見えないコストが関係しているということを私たちはもっと認識するべきだと筆者は考えます。

これからの時代は、否が応でもビジネスのネット化がさらに進みます。

ネットという広域プラットフォームを十分に活用するためには、まずリアルな世界において、他人を信用する「能力」が必要となります。信用しつつも過度に依存しないという振る舞い方が身に付けば、ネット空間が異質なものにはならず、ビジネスのネット化もスムーズになるでしょう。最終的にはこれが大きな利益につながり、生産性を引き上げる結果となるのです。

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加谷 珪一(かや・けいいち)
経済評論家
1969年宮城県生まれ。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村証券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。その後独立。中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行うほか、億単位の資産を運用する個人投資家でもある。

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(経済評論家 加谷 珪一)

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