夫婦別姓を認めない日本の男性リーダーの女性蔑視思考とは
プレジデントオンライン / 2020年2月27日 11時15分
■同じ権利をもっていることに気づいてしまう!
前回も述べましたが、夫婦同姓を法律で義務付けているのは、先進諸国のなかでも日本だけです。なぜ、日本で選択的夫婦別姓が認められないのか、その理由は大きく分けて3つあると考えています。
まず「感情論」。次に意外と根強いのが「宗教観」。そして「女性蔑視」、つまりは男性の支配欲です。妻子が自分の姓を名乗ることで、妻子が自分とひも付いている感覚を得られ、自分が一人前になったと考える男性が日本には多い。
私が選択的夫婦別姓制度の導入に向けた活動のため、最初に政治家と名の付く人、つまり地元や国会の議員さんに会い始めたのは2018年のことでした。このとき言われて衝撃的だったのが、「選択的夫婦別姓というものを許してしまうと、女性が男性と同じ権利を持っていることに国民が気付いてしまう」「それを許すと女性天皇が生まれる機運をつくってしまう」「八百万の神に守られた日本は男性の系譜でずっと来ていたにもかかわらず、それを崩すことになる」という言葉です。このような旧弊な考えを持つ議員さんは、仔細に地域を回っていくと、わずかとはいえ現在もいます。
■夫婦同姓は日本古来の伝統ではない
実は「夫婦同姓を強要する法律は改正すべき」という案は、過去に何度も議論されてきました。1996年に法制審議会の答申があって、すぐにでも法改正されてよい状態だったのですが、結局国会に上程されずに終わってしまった。
このときの主な反対派の意見は「夫婦同姓は日本の伝統なので、これを守るべき」というものでしたが、人類学者60名が出した1996年5月の抗議文のなかには「夫婦同姓は日本の伝統ではない。文化を研究する者として強く訴える」という一文があります。
もともと日本は夫婦別姓であり、結婚によって「氏」を変える文化・風習はありません。夫婦同姓はドイツの法律にならって明治31年(1898年)に導入したものです。
そもそも日本の民法で最初に夫婦の氏の在り方が決められたのは明治9年のことで、そのときは夫婦別姓でした。それが明治31年に家制度という差別的な制度を導入するにあたり、ドイツの法を参考にして法律を変えた。そして家制度自体、ほかの家族の生殺与奪権を戸主が全部握るような差別的な制度だったため、49年間しか存続せず、1947年に廃止されています。ところが姓の在り方だけが、いまも家制度のままなのです。
■国連の3度にわたる是正勧告を無視
この40年間、法改正議論はずっと続いていますが、日本の伝統の在り方を誤解している人、女性蔑視を続けたい人など、おそらく家父長制というものに味を占めたごく一部の人たちの強硬な反対によって、いままで変えられずにきたのではないでしょうか。
そのあいだにも日本以外の国は法改正していて、2014年以降、夫婦同姓を強制する国は日本以外にはひとつもありません。この状態に対して国連は「女性にも男性と同じ権利を与えなさい」「氏はアイデンティティーにかかわるものだから、それを奪ってはならない」と、2003年、2009年、2016年の3回にわたって是正勧告をしていますが、日本はそれを聞き入れていない唯一の国なのです。是正勧告を受けるたびに、苦しい言い訳をしています。いわく「同じ姓でないと家族としての一体感がない」「同じ姓でないと子供がかわいそう」。
■同姓が絆をつなぐという感情論
しかし家族の姓がバラバラな国は外国にいくらでもあります。たとえばラテンアメリカのスペイン語圏では、母親から一つ、父親から一つ、氏を受け継いで連結姓にする。そうすると親とは姓が部分的にしか同じではないのが当たり前。まったく同じ姓を持つのは、同じ父親と母親から生まれたきょうだいしかいません。それでも家族は家族として絆をちゃんと育んでいる。
あるいは私の姉はカナダのケベック州という100%夫婦別姓の地域に暮らしていますが、ここは結婚改姓が禁止されています。ジェンダー平等と、移民の国なので自分のルーツを大事にしようというのが理由。
このように世界各国で普通に運用されている制度が、どうして日本では子供に悪影響があるという懸念の種にされてしまうのか。実際に別姓事実婚家庭で育った子どもたちが2020年2月14日、国会議員40人の前で「私たちは両親がそれぞれの名字であることが『普通』という感覚で育ち、それで今まで何も困ることはなかった」と証言。「望まない改姓をせずに法的な家族になれる選択肢を」と訴えました。
姓が絆をつなぐものであるというのは、感情論にすぎないのではないでしょうか。
「選択制にすると離婚が増える」という人もいますが、それならなぜ現在、3組に1組の割合で離婚するのでしょう。氏の在り方と離婚はまったく関連がないと思います。
■妻子が自分の姓を名乗ると、男性の支配欲が満たされる?
むしろ問題なのは、妻子が自分の姓を名乗ることで、妻子が自分の所有物であるかのような錯覚を男性が抱くことです。本音をひもとくと「改姓した女性に『嫁』として家事・育児・介護を丸投げしたい」「妻子に同じ記号をつけて支配欲を満たされたい」などになるのではないでしょうか。
実は日本のDV加害者の多くが、「結婚で妻が改姓したときから所有意識が生まれた」と証言しています(※1)。
逆にいえば選択的夫婦別姓を導入することで、男性の側は「俺は嫁をもらうんじゃないんだ」、女性の側は「私は嫁じゃないんだ」という意識が芽生える可能性があります。
選択的夫婦別姓は、夫の姓を名乗ってもいいし、妻の姓を名乗ってもいいし、そのままお互いの姓を名乗り続けてもいいという制度です。いまの法律では、夫か妻の姓を名乗るかは選べますが、そのほかにどちらも姓を変えなくていいという選択肢が生まれるということです。「私は夫と同じ姓にしたい」という人はそれを選択すればいい。ただ、結婚前の姓を変えたくないという人にはその自由を認めるというだけのことです。
いままでは夫婦別姓というと、イデオロギーの話だと誤解されてしまい、実際に困っている当事者の声が届きにくいところがありました。しかし「これは男女問わず、国民が困っている問題なんですよ」とお知らせすることによって、事態は少しずつ変わっていっています。
※1:DV防止団体aware・山口のり子代表の2015年11月30日東京新聞寄稿参照
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「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」事務局長
本業はIT企業の会社員。Twitterでつながった仲間と、地元議会に陳情書を提出したことをきっかけに2018年11月、団体を設立。約1年で37件の意見書を地方議会から国会に送り、国会議員への直接陳情も続けている。クラウドファンディング「#自分の名前で生きる自由」実施中。
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(「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」事務局長 井田 奈穂 構成=長山 清子 写真=iStock.com)
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