小泉進次郎の育休は、日本のあらゆる課題解消の第一歩になる
プレジデントオンライン / 2020年2月28日 6時15分
■「男性の育休」が、すべてを変えるカギになる
ジェンダーギャップで日本がまたランクを落とし、世界121位になったというのは、当然の結果だと思います。日本はジェンダー平等政策が、欧米に比べるとトラック5周分くらい遅れていますから。今、ようやく本気で「マズい」という空気ができ始めているように感じます。今年は、日本がジェンダー平等に向かう、スタートの年になるのではないでしょうか。
変化のカギになるのは、男性の育休です。僕はよくこれを「ボウリングの1番ピン」に例えています。この1番ピンが倒れれば、女性活躍の推進、子どもの虐待の防止、DV(ドメスティックバイオレンス)の防止、離婚の減少、介護離職の減少など、いろいろなピンが倒れ解決に向かっていくはずです。
小泉環境大臣が育休取得を表明したときに、「男性議員の育休取得は是か非か」が話題になりましたが、そういう議論はもう終わりにしたい。早く、育休を取りたい父親が当たり前に取れる社会にすべきだと思います。
■男性育休に“第3の波”がやってきた
僕は今、男性の育休取得の「第3の波」が来ていると思います。缶詰のフタで言うと、去年までは3分の1くらい開いていた状態。そのフタが、小泉環境大臣の育休で3分の2くらいまで開きました。
第1の波は、2010年の育児・介護休業法の改正です。制度上は男性が育休を取りやすくなり、「イクメン」という言葉が流行語になりましたが、なかなか育休を取る男性は増えませんでした。
第2の波は、2015年末ごろです。当時衆議院議員だった宮崎謙介さんが育休を取りたいと発言して注目されましたが、結局不倫問題で議員を辞職。残念ながら男性育休を推進しようという機運が下がってしまいました。
それから僕らは、しばらくひっそりと地下で活動を続けていたんですよ(笑)。それでやっと来た第3の波です。今度こそ本物にしなくてはいけない。
■「育休取るの?」と聞いてはいけない
部下の男性に子どもが生まれたときには、「おめでとう。育休取るの?」と聞いてはいけません。「取るの?」ということは、相手には「育休取るの?(取るわけないよな)」と伝わります。「育休いつ取るの?」と聞いてあげてほしい。取ることが前提なんですから。
こうした間違いを犯すのは、女性の上司も同じです。
先日、ある50代くらいの公務員の課長の女性が、子どもが生まれて育休を取りたいといった男性に対して「え? あなたが育休を取るの? 今は女性の両立支援策も充実しているから、あなたが休まないで、奥さんに育休を取ってもらった方がいいわよ」と言ってしまったそうです。この課長は、「男性は、休まないでたくさん働いた方が出世する」と考えていて、よかれと思って言った。アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)は本当に根深いです。
■小泉進次郎にかけた2つのアドバイス
だからこそ僕は、「あなたが育休を取ると、空気が変わるから」と言って小泉さんを説得したんです。「空気を読むのではなくて、空気を変えてほしい」と言ったんです。
小泉さんとは、子どもが生まれてから電話で話したのですが、オムツ替え、沐浴、夜中のミルク作りなどをやっているそうです。本当に大変そうで、「これをやっている日本中のママとパパを尊敬します」と言っていました。こういう、お母さんたちの大変さと充実感を、すべてのお父さんにも味わってほしいんです。
彼には、奥さんが仕事に復帰するときに、もう一度、2週間の育休を取るといいよとアドバイスしました。実際、そうすると発表されたようです。
■せめて3カ月は定時帰りを
育児・介護休業法では、生後8週間以内にパパが育休を取ると、ママの仕事復帰時や子どもが保育園で慣らし保育を始める時などに、再度育休を取ることができますが、まだ広く知られていません。小泉さんは国会議員なので育休の制度はありませんが、こうした法律の趣旨を広く知ってもらうためにも、奥さんの仕事復帰時に再度育休を取ることはとても意味があると思います。
世の中にはどうしても育休が取れない男性もいます。それでも、せめて生後3カ月間はなるべく定時で帰るようにしてほしい。家事をやったり、保育園を探したり、ママの話を聴いたり……男性も授乳以外は何でもできます。いくらでもやることはあるんです。
■なぜ「里帰り出産」はいけないのか
実は、一番よくないのは里帰り出産です。お父さんのためにも、お母さんのためにもよくありません。
妻の方は、実家なら食事の準備はしてもらえるから楽だし、夫はどうせあてにならないし……ということで里帰り出産を選んでしまうのでしょうが、それでは後が大変です。男性の方は、育児の大変さがイメージできませんから、妻子が家に戻るころには「妻ももう子育てに慣れただろうし、オレがそんなに頑張る必要はないよな」と勘違いしてしまう。
夫と妻の間で、ミルクやおむつなどの育児スキルの格差は広がり、妻の側も育児や家事を夫になかなか任せられなくなる。男性の、育児や家事への参入障壁が一気に上がってしまいます。その結果、妻はワンオペに陥って孤立し、夫への恨みを募らせて再び子どもと実家に帰ってしまうのです。そして夫のもとに送られるのが離婚届。僕はこうした「里帰り出産離婚」のケースをいくつか見てきました。
里帰り出産ではなく、「マイタウン出産」をしてほしい。まず夫が育休を取り、地域やNPOなどの支援を受けながら産後を支えるのです。これからは、親が高齢で里帰り出産が難しいケースは増えますし、共働きが当たり前になっているのですから、そろそろ古いOS(基本ソフト)をアップデートして、バージョンアップしないといけません。育児でバージョンアップしたOSは、将来の介護で大いに生きてくるはずなんです。
■30代は、父親のような働き方をしたくないと思っている
僕の周りにいる30代の父親の多くは、普通に育休を取りたいと思っているんです。所得は伸びないし、妻にも働き続けてもらわないと家計も厳しい。企業も、男性の育休取得を進め、ワークライフバランスが取れる職場づくりをしないと、いい人材が採用できないことに気付き始めています。
彼らの世代は、「自分の父親のような働き方をしたくない」と思っています。毎日遅い時間に疲れて帰ってきて、家では何もしない。楽しそうじゃない。そうした姿を反面教師にしようとしています。
僕らの子どもたちの世代が、変えていくのではないかと思います。今はまだ残念ながら過渡期なんです。
僕の予想では、今から10年、15年後には、男性が当たり前のように育休を取る社会になっていると思います。ジェンダーギャップのランキングも、95位くらいにはなっているんじゃないでしょうか。
ただ、それでも95位くらい。ほかの部分は変わっても、政治の世界のジェンダー平等はなかなか進まないでしょうから、そこが足をひっぱるでしょうね。
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ファザーリングジャパン代表理事
東京・池袋生まれ。1985年明治大学卒業後、有紀書房に入社、書店営業で全国の書店を歩く。86年リットーミュージック入社、音楽雑誌・楽譜等の販売に従事。88年UPU入社、雑誌「エスクァイア日本版」「i-D JAPAN」の販売・宣伝担当。94年大塚・田村書店の3代目店長になる。96年東京・千駄木の往来堂書店をプロデュース、初代店長を務める。2000年オンライン書店bk1へ移籍、02年まで店長。その後、糸井重里事務所を経て、03年、NTTドコモの電子書籍事業に参加。2004年楽天ブックスの店長。その後、クロスメディア事業に従事、07年退社。2006年11月、父親の子育て支援・自立支援事業を展開するNPO法人ファザーリング・ジャパンを創立、代表を務める。
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(ファザーリングジャパン代表理事 安藤 哲也 写真=時事通信フォト)
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