野村克也が語った最後の言葉「高野連の判断はナンセンスだ」
プレジデントオンライン / 2020年3月4日 19時15分
■フォームよければ肩は壊さぬ
2019年11月、高野連は投手の投球数を制限するルールを採用する方針を固めた。今春の選抜高等学校野球大会以降すべての公式戦に導入されるこのルールは、投手1人につき1週間で500球を超えて投球することを認めないとするものだ。この方針の背景には球数を制限しなければ投手の肘や肩を守れないほどに根強い勝利至上主義があった。一方で、野球評論家で名監督としても知られる野村克也氏は「ナンセンスだ」と切り捨てる──。*インタビューは2020年1月下旬に実施したものです。
この春の甲子園から球数制限が導入されるんだってね。1週間で500球までだと。まったく、どこから出てきた数字か知らないけど納得いかないね。そもそも、投手によって投げられる球数には個人差があるじゃないか。肩の強さだとか、才能のあるなしだとか。
それに、正しいフォームで投げてさえいれば、投手もそんなに疲れないものだと思うんだがな。というか、フォームさえ完璧なら投手は肩を壊さないとオレは思っている。稲尾(和久、歴代最多勝記録タイのシーズン42勝達成)、杉浦(忠、投手5冠達成)は最たる例。稲尾なんかの投げ方見てると、もう毎日でもOKという投げ方だね。
カネさん(金田正一)もすごい球を投げてたよね。練習量はすごかったなぁ、特に走り込みの量が。カネさんの通算400勝はもちろん未到記録。破る人は誰もいないんだよ。
■シダックス時代の後悔
オレはロッテで1年間、カネさんの下でプレーしたのだが、ベンチで言っていることはいつも同じだった。「下で投げろ、下で投げろ」って。もちろんアンダースローにしろっていう意味ではなくて、ちゃんと脚を使って投げろってことなんだよ。まぁ、カネさんの投げ方自体は、あまり下半身使ってない投げ方に見えたけど……。
ほかにも、昔のプロ野球にはすごい投手がいっぱいいたよ。130試合中70試合以上登板するとかね。もうカネさんの後継者は生まれないでしょう。無理だよ。
でも、フォームがぐちゃぐちゃだと、肩を壊す。だからこそ大切なのは、監督・コーチが「理想のフォーム」をしっかり熟知しておくこと。投げているピッチャーのどこを直せばいいか、どこを大事にさせるか。つまり、投げるのは腕なんだけど、カネさんが言うように脚で投げさせろということだ。
ただね、たしかに甲子園を初戦から決勝まで1人で投げ切るというのはちょっと無理があるわね。だからこそ、柱となる投手を2、3人つくる、それも監督の仕事なんだよ。
おれもアマチュア野球の監督をしたことがある。社会人野球のシダックスの監督時代のこと、都市対抗野球大会の決勝でな、エースだった野間口(貴彦、元巨人)は疲れていた。しかしオレは心配性なもんで、控えの武田(勝、元日ハム)に代えようとは思わなかったんだ。だから野間口に投げさせちゃって、負けてしまった。決勝戦まで行くと、そもそも1人で投げ切ろうというのは、ちょっと無理だよ。
たしかに、根性ある投手に「まだ投げられるか」と聞くと、ヘトヘトでも「投げます」と言ってくる。逆に、岩隈(久志、現巨人)なんかは楽天時代、すぐ「無理して投げて肩壊したら、誰が面倒見てくれるんですか」って登板回避していた。まぁ彼は彼で、そんな考えをしとったら駄目だ、エースなのに。話は戻るがピッチャーが疲れているかは、キャッチャーのミットを見ればわかる。ボールの回転数が落ちるとキャッチャーは受けたときミットが下がる。ミットは嘘をつかない。
それがわかっていても投げさせてしまうのは、もはや監督の資質の問題。名声のためか、金のためか、「勝ちたい、勝ちたい」という意欲が強すぎる。選手のコンディションとか考えずに自己中心で監督をやるから、選手がつぶれるんだよ。
そもそも球数制限というナンセンスなルールをつくった高野連がプロ経験者を寄せ付けない、あれがよくわからない。高野連は「高校野球は教育だから」と言う。プロ野球選手に本当に教育はできないのか、ただかき回されたくないからじゃないのかね。
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野球評論家
1935年、京都府生まれ。54年、プロ野球の南海に入団。70年からは選手兼任監督。その後、選手としてロッテ、西武に移籍し45歳で現役引退。ヤクルト、阪神、楽天で監督を歴任。野球評論家としても活躍。
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(野球評論家 野村 克也 構成=プレジデント編集部 撮影=村上庄吾)
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