フィンランド人が「1年は11か月」と言い切るワケ
プレジデントオンライン / 2020年3月2日 15時15分
※本稿は、堀内都喜子『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。
■フィンランド人の多くは7月にオフィスにいない
7月にフィンランド人にメールを送ると、「アウト・オブ・オフィス。8月××日まで夏期休暇中です」と、自動返信が送られてくる。しかもオフィスに戻ってくる時期は、1か月以上も先だったりする。フィンランド人のライフスタイルを知っていればもう驚くこともなく、そもそも7月にメールを送ろうとすら思わないが、あまりフィンランド人とのつきあいがない日本人からしたら衝撃だろう。
フィンランド人は、普段から残業を極力避け、オンとオフの切り替えをはっきりしているが、その文化は有給や夏休みの取得にも見られる。「休むことは生産性のためにも必要」という認識を皆が持ち、有給を使い切ることは社員の権利だと断言する。きっちり休んで心身共にリフレッシュするからこそ、その後に集中して働ける。頑張って働いてから休む、というよりむしろ、休むから後で頑張れるといった感覚なのかもしれない。
夏休みは通常6月から8月末の間にとるのが普通だが、中でも伝統的に7月は、夏休み真っ盛りだ。もともと農業中心だったフィンランドでは、冬に必要な大量の干し草を7月に準備する必要があった。準備にはかなりの労力が必要で、かつては家族どころか親せき総出の仕事だった。都会に出ていたり、工場などで働いたりしている人も長期の休みをとって、干し草づくりの仕事を手伝ったそうだ。
そんな名残から、夏期休暇は7月というのが定着したという。しかも、7月は一年の中で最も日照時間も長く、気温も高い。暗く寒い冬の長いフィンランドでは、7月が休みを楽しむのにもってこいなのだ。
■1年は11か月と割り切る
最近ではライフスタイルの変化や、夏の間も完全休業ではなく経済活動を維持するために、休みは7月だけでなく分散型になってきた。6~8月末までの間に、有給休暇をまとめて4週間、人によってはそれ以上に長い休みをとる。育児休暇と合わせて2~3か月休んだという男性も私の周りに複数いる。
その間、取引相手や同僚は困ることがないわけではないが「夏は何も進まない。大事なことは決めない。連絡もとれなくて当然」と最初から割り切ってしまえば、何とかなるものである。重要な打ち合わせや決め事は6月より前にし、1年は12か月でなく11か月と割り切ればいい。
■休み中はたとえ緊急の連絡でも受けない
また、普段やり取りのある人たちからは、6月ごろから「私は××から××まで夏期休暇をとるので、緊急の際は同僚の○○に連絡してくださいね」などと連絡が来るので、それほど困ることはない。面白いのは、緊急の場合は私の携帯に電話してね、という人がほとんどいないことだ。休みは休み、いくら携帯で連絡がつく時代になったとはいえ、邪魔するなという暗黙のルールが伝わって来る。
夏の間、多くの企業では最低限の業務をまわすため、社員が交代で休みをとるのが普通だが、小さな企業やお店、レストランやサービス業などでは思い切って3~4週間、完全に閉めて一斉に夏休みにしてしまうこともある。店の休業の貼り紙を見て「理解できない! レストランなんて夏が儲け時なのに!」と日本人の知人は憤慨していたが、社員やスタッフの休みの権利を侵害することはできない。
だから日本企業や日本人経営者がフィンランドでとまどうのが、残業や長期休暇を含めて労働者の権利の部分だとよく聞く。権利が強く守られているし、経営者もそれは遵守しないとならないからだ。
■正月早々、夏休みの計画を立てる
夏休み中は最低限の業務をまわし、できるだけ心置きなく休めるよう、いくつか工夫がなされている。例えば、休みはできるだけ交代でとり、計画は早めにすることだ。とはいえ、一番いい季節の7月に休みをとりたい人は多い。夏休みの半年前ぐらいから休みの希望を提出するのだが、周りの出方を見たり、上司や同僚と交渉したりし、早めに計画をたてていく。クリスマスや新年が明けて「ハッピーニューイヤー!」と言ったそばから、「夏休みの予定出してね」と言われる。
また、子どもがいる場合は、パートナーとの計画のすり合わせが必要となる。というのも6月頭から8月中旬まで学校が休みになってしまい、父親と母親が1か月ずつ休んだとしても足りないほど休みが長い。幼い子どもを一人家に置いておくわけにいかないので、祖父母の家にあずけたり、キャンプに行かせたり、パパ友・ママ友、近所に頼ったりする必要がある。
■自分の希望を気軽に上司に伝えられる風土がある
上下関係のあまりないフィンランドではあるが、やはり上司がより自分の都合を優先させて、家族をまだ持っていない若い人たちや、勤続年数の浅い人が少ししわ寄せを受けることはある。
調査によると、30歳以下の社会人のうち、約半分が4週間連続の夏期休暇をとれていない。全ての社会人では、4週間連続でとれていないのは27パーセントである。年間の有給休暇は100パーセント消化できていても、4週間連続の休みはとりづらい人がいることも確かだ。
フィンランドの法律によれば、夏期休暇は12勤務日以上の連続した休みを与えなければならないとなっている。ただ、小企業や、収益が厳しい企業ほど、まとまった休みはとりづらく、経営者や財務関係の職種も連続での取得が若干難しいようだ。
その一方で、4週間に残業時間を足して計6週間休みをとったとか、年間の有給休暇をすべて注ぎこんで夏休みではない11月に5週間の海外旅行にでかけたという友人、さらには有給では足りなくて、無給でも休みを数日足してもらったという友人も私の周りにはいる。
いずれも、上司に希望を伝え、理解を得て実現した。このように自分の希望を気軽に会社や上司に伝え、それに対して柔軟に対応してくれる企業風土がフィンランドにはある。「それが、社員のモチベーションにもつながるから」と上司の立場にいる友人は言う。
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ライター
長野県生まれ。フィンランド・ユヴァスキュラ大学大学院で修士号を取得。フィンランド系企業を経て、現在はフィンランド大使館で広報の仕事に携わる。著書に『フィンランド 豊かさのメソッド』(集英社新書)など。
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(ライター 堀内 都喜子)
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