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茂木健一郎「『麒麟がくる』は最高の脳トレである」

プレジデントオンライン / 2020年3月29日 15時15分

戦国の世は命を賭した「個性の見極め合い」が繰り広げられた時代だった。 - NHK=写真提供

■『麒麟がくる』は最高の脳トレである

近年の日本人の性格として、既成の観念を打ち破るのが苦手だとか、イノベーションを取り入れるのが遅いなどというイメージがある。

だから、デフレが続いているとか、失われた10年が20年、30年になろうとしているという論もしばしば見られる。

しかし、日本人の性格が固定されてしまっているわけではない。ましてや、遺伝子で決まっているわけでもない。

性格は、時代状況で変わる相対的なもの。だからこそ、過去を振り返って再体験する小説やドラマ、映画が性格形成の大切な糧となる。

2020年のNHKの大河ドラマ『麒麟がくる』は、明智光秀を主人公に戦国の世を描く。視聴率も良く、好調なスタートを切った。主人公の光秀役の長谷川博己の演技が印象的で、鮮烈な色彩の映像の美しさも評判を呼んでいる。

なぜ、日本人は戦国時代の物語が好きなのだろうか? いろいろな理由があるだろうが、1つ大きいのは、現代とは異なる日本人の性格、生き方の可能性が描かれていることかもしれない。

戦国の世は、武将たちの個性が際立ち、輝いた時代だった。

■武将たちが知と体力の限りを尽くし、天下統一を競い合った

織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、そしてもちろん、明智光秀。それぞれの武将たちが知と体力の限りを尽くし、天下統一を競い合った。それは、個性の「大競争」でもあった。

もちろん現代の社会でも、個性は大切である。学校の入試でも、会社でも、個性を切磋琢磨し、お互いの個性を見極め、響かせる必要性は高まってきている。

しかし、戦国時代の個性の輝き、その見極めやお互いの協力の必死さに比べれば、現代の日本は甘いと言うしかない。善し悪しは別として、戦国時代の個性の見極めは、まさに人生を懸けたものだった。

例えば、信長、秀吉、家康、光秀と武将を並べたときに、一体どの個性を評価するのか。誰に従ってついていくのか。その値踏みの真剣さは、現代の想像を超えている。

今でも、会社の中でどの上司についていくのかという、派閥のようなものがないとは言えない。しかし、出世争いで負けた上司のグループだったからといって、命までとられるわけではない。

戦国時代は、もし負け組の武将についていたら、自分はもちろん、一族郎党が命を失う、そんな時代だった。相手の個性や能力、可能性を見極める真剣さがまったく違うのである。

あなたが、本能寺の変の直前に光秀の側にいる武士だったとしよう。光秀の計画を知って、どうするか? 光秀が信長を討って、天下をとる可能性に懸けるのか? それとも、信長に警告するのか、あるいは、秀吉に知らせるのか? その決断が、自分の出世どころか、生き延びられるかどうかさえ左右してしまう。

『麒麟がくる』の見どころの1つは、登場人物の人柄、長所と短所をドラマの波乱万丈の中であれこれと受け止め、考えられることだろう。

人間の脳は、一寸先の未来がどうなるかわからないような状況で最も活性化する。平和な現代に生きている私たちは幸せだが、だからこそ、ドラマの中では真剣勝負のフィクションを求める。

明日をも知れぬ戦いの日々を明智光秀とともに体験してみるのは最高の「脳トレ」である。何しろ、その時点で光秀はその結果を知らないのだ。

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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。『幸せとは、気づくことである』(プレジデント社)など著書多数。

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(脳科学者 茂木 健一郎)

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