入社後8回もの不本意な異動をポジティブなキャリアに変換できた理由
プレジデントオンライン / 2020年3月14日 6時15分
■数年ごとに職種を替えタフなゼネラリストに
キャリアのスタートは日本が好景気に沸く1988年。2年前に男女雇用機会均等法が施行され、働く女性の可能性が開けてきていた。大澤晶子さんは東京大学理学部に在学中だったが、日本企業がグローバルに展開しているビジネスシーンに魅力を感じたという。
そこで、同級生たちが大学院に進み研究職を目指す中、4年で卒業して日本生命保険相互会社に就職した。「いろんな職種や地域展開がある企業に勤めたいと思っていました。でも、大学のゴールデンコースからドロップアウトして始まったということでもありますね」
大学の研究室より広い世界を見たい、いろんな仕事を経験したいというゼネラリスト志向ではあった。しかし、入社してから8回も所属が変わったのは想像を超えていた。
「異動になるたび『必要ない』と捨てられちゃったのかと勝手に思って落ち込み、新しい部署でイチから始めるのも大変なので落ち込む。そこで2、3年経てば、仕事の幅が広がり楽しくなるんですが、そのタイミングでまた異動になるという(笑)。その繰り返しでした」
最初に配属されたのが資金債券部。日本生命は保険料などの巨額の資産を有価証券にし、利回りを出すために運用する機関投資家だが、学校プール債券という公共投資に近い商品を担当することになった。バブル経済の中、地道な実務から始められたのは結果的によかったが、ダイナミックな投資をしている先輩たちに追いつきたいという意欲も。そこで証券の勉強を自主的に始め、4年目からは留学公募制度によってUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)でMBA取得のために学ぶことに。ファイナンスの資格を次々に取得し運用のプロの道を歩むのかと思いきや、留学後に配属されたのは、なんと人事部だった。
「勉強してきたことはいったん捨ててくれと(笑)。そこで求められたのは、総合職で入った女性が長く活躍できるようにすることでした」
このときも予想外の異動に落ち込みつつ、厚生労働省の村木厚子さん(元事務次官)を講師に招き、女性社員向けの社内研修を企画した。まだキャリア女性の手本となる人が少なかった時代、村木さんが語ったのは、キャリアを長期的に見ることの大切さ。10年間でいくつかの部署を経験し、仕事の幅を思い切り広げるべきだということだった。
「今は“点”にしか見えないことが“線”になり、いつか大きな“面”になる。必ずそういうときが来るから、思い切りチャレンジして!」というメッセージに自分も励まされた。
「キャリアの方向性を見失っていたけれど、幅を広げるためにできることをやろうと思いました。村木さんの言葉があったから今があるというくらい心機一転した瞬間ですね」
■20年後の今も現役のシステム基盤を作った
キャリアのビジョンは見えてきたが、その後、証券管理部で主任から課長へとステップアップする段階では、「管理職失格」と厳しく指摘されたことも。40人ほどがいるその部署では、事務システムが不完全なために遅延やミスが発生していて、そのリカバリー作業でキャパシティーオーバーに。30代は、緊張状態で仕事に追われる日々が続いた。
「そのとき、前の人事部でお世話になった課長が心配してくださって『いくら1人で頑張っても限界がある。組織の力をいかに引き出すか、その環境を考えることが管理職の仕事だ。そのための時間を取っていないのはダメだ』と言われたんです」
■助言にも「納得がいかない!」と反発
ダメ出しされて悔し涙を流し、助言にも「納得がいかない!」と反発した。全社的なシステムの障害にもつながるような深刻なエラーが起きている状態で、とても根本的な解決を考える余裕はなく、悶々(もんもん)とした。だが、同僚から抜本的な改革を提案されて、大きな決断をする。
「NISSAY IT-XNET」という証券管理事務を支えるシステム基盤を立ち上げたのだが、約20年前、当時としては画期的なシステムゆえ周囲の反発が強く、それが完成するまでにはさらなる作業に追われた。だが、「そのシステムは現在も使われているし、他社に買ってもらえる商品にもなっているんですよ」と明るい表情で乗り越えた壁を振り返る。
「苦しいほど学ぶことが多い。死にものぐるいで知恵を絞りますから、成功したときより失敗したときのほうが自分の糧になると思います」
その後、ロンドン事務所では同時多発テロによる混乱を経験。地方銀行と取引する金融法人第二部担当部長に就任する直前には東日本大震災が起きた。まさにリスクに直面しながらキャリアを積み上げ、入社31年目で執行役員に。何十兆円もの資産運用をしていくうえで、サイバー攻撃や国際政治の不安定さなど、さまざまなリスクに対応している。
「キャリア初期に勉強した金融の知識や、人事部や広報部で鍛えたコミュニケーション術、各部署で築いた社内ネットワークなどが、すべて今につながっています。まさに『点が線に、線が面に』と村木さんがおっしゃった通りだったと思いますね」と長いキャリアを俯瞰(ふかん)し、後輩に助言を贈る。
「若い頃は先が見えないし、結婚などの問題もありしんどいもの。毎回100点でなくていいので、ひとつひとつの仕事にうまく可能性を残しておくと、40代で一気に人生の先が見えてくると思いますよ」
役員の素顔に迫るQ&A
Q 好きな言葉
人生感意気 (人生意気(いき)に感ず)
Q 趣味
ボランティアのオーケストラ活動
Q ストレス発散
ハープを演奏すること
Q 愛読書
サンテグジュペリ著『星の王子さま』
Q Favorite item
ロンドン事務所メンバーの送別の品であるコーギー犬のキーホルダー
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日本生命保険相互会社 執行役員 リスク管理統括部 部長
1988年、東京大学理学部卒業。日本生命保険相互会社に入社し、資金債券部、証券管理部などでキャリアを積む。2009年、総合職としては女性初の部長に就任。アメリカのUCLAでMBAを取得し、2度のロンドン事務所勤務を経験した国際派でもある。18年より現職。
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(日本生命保険相互会社 執行役員 リスク管理統括部 部長 大澤 晶子 文=小田慶子 撮影=市来朋久)
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