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「妖精さん」より厄介な「50代の妖怪」とうまく付き合う方法

プレジデントオンライン / 2020年3月4日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BernardaSv

出世に行き詰まった50代はモチベーションが下がりやすい。人事コンサルタントの麻野進氏は「やる気がなくて存在感の薄い『妖精さん』に加えて、周囲と摩擦を生んで迷惑を掛ける『妖怪』もいる。こうした最下位1割は『危機感』がないと腰を上げない」と分析する――。

■働かない50代はなぜ発生するのか

日本企業に勤めるサラリーマンは、60歳の定年という賞味期限が設定されています。

業種や企業規模、人員構成等による違いはあるものの、必要な経験年数と賞味期限の関係で、45歳前後で出世の決着がついてしまいます。

役員を目指せる勝ち組として残り続けるか、課長止まりか、管理職まで届かずか。人事制度として決まっているわけではありませんが、社内コンセンサスが出来上がっていくのがこの頃です。

ただ、本人がそれを自覚するのにタイムラグがあり、それが50歳という年齢です。

日本企業はいまでもある程度の年功序列運用は残っているため、50歳くらいで課長になれることもありますが、55歳の役職定年まで5年しかありません。いわば賞味期限切れが迫っているため、それ以上は望めないのが実情で、彼等を抜擢しようとする会社のモチベーションは乏しいのです。

かくして、負け組が確定したと自覚した50代はモチベーションが下がる可能性が高くなります。

これが企業業績が厳しい時期であれば雇用不安があるので、リストラされないように頑張りますが、「65歳雇用義務付け」「人手不足」「働き方改革」が注目される中、「働かなくても65歳まで安泰だ」というマインドが醸成されることになるのです。

■実は定年制よりインパクトが大きい「役職定年」

いまの50代、特に後半世代の多数は管理職の地位まで出世していますが、大企業の半数以上では、50代前半から後半にかけて「役職定年制」という自動的に後進にポストを譲る仕組みが適用されます。就いていた役職位の手当等がなくなり(残業代は対象となりますが)、手取り収入が減額されます。

一般的に、60歳定年退職後の再雇用で給与が大きく下がるとともに、仕事に対するモチベーションも下がると言われていますが、実は、60歳定年よりもこの役職定年制の適用が、本人のモチベーションダウンが大きいのです。仮に役職定年で給与減額が20%だとしたら、モチベーションの下がり方は70%以上のインパクトがあると言われています。

これは下がる金額の大小の問題ではありません。確かに組織の業績責任のプレッシャーから解放されてホッとする感覚もあるかもしれませんが、多くの元管理職は、まだまだやれるし、これまで身を粉にして会社に貢献してきた自負を持っています。給与減額以上のショックが大きいのです。

■存在感が薄いだけの「妖精」か、実害のある「妖怪」か

こうして残業代の請求できる一般社員に降職するのですが、ここで大きく分けて3つのタイプに分かれていくことになります。

一つは、管理職の任を解かれても、一定のパフォーマンスを維持し、立場を変えて組織に貢献する「頼れる兄貴」になるパターン。

二つ目は、「あまり貢献できなくても、大きな失敗さえしなければいい」というスタンスで、人畜無害で存在感の薄い「妖精」になるパターン。これは本人のマインドとしては完全にリタイヤモードとなっています。「いや、もうそういう立場ではないから」「あと数年で定年だし、いまから頑張ってもそれほど貢献できないし……」という雰囲気で気配を消そうとしているように思えます。

三つ目は、周囲のメンバーと摩擦を生み迷惑を掛けるなど実害のある、同じくこの世の者とは思えない「妖怪」パターン。

妖精も妖怪も無責任という点で共通していますが、妖怪は過去の栄光に囚われ、プライドが捨てきれないでいるのです。「こんな雑用などやらされてはプライドが傷つく」「自分の経験が活かせない」「こんなのは若い社員がやる仕事だ」という言動が節々に現れます。

しかしイマドキの上司としては、こちらの世界に実体のない妖精や妖怪であっても、会社からはヘッドカウントされる彼らを何とか使いこなさなければなりません。

■上司がやるべき3つのアセスメント

50代に限らず、60歳超え再雇用者も含め、シニア社員を組織に受け入れるのであれば、まず次の3つの項目を査定することが重要です。

一つ目は、50代以上のシニア社員の意識をアセスメントすることです。

例えば、「給与が下がっているのでモチベーションが下がるのは当然」「給与の減額分、仕事が減少するのは当然」「難しい仕事は若手がやるべき」「法律で65歳まで会社は雇用義務がある」「自分の経験にふさわしい役割がある」等々。

このようなことを直接上司に訴えることはないかもしれませんが、普段の言動やほかのメンバーの意見などからおおよそのマインドは把握できるはずです。

二つ目は、受け入れ側のメンバーがどういうマインドなのかという確認です。

例えば、「若い人は欲しいが、50代はいらない」「自分たちにとってメリットのある人に来てほしい」「現在の人員で充分だ」「年配者の成功体験など聞きたくない」等々。

こういうことも会議の席での発言はないかもしれませんが、職場の懇親会など無礼講でリラックスできる会であれば、容易に聞き出せる内容でしょう。

三つ目は、組織全体の環境についての考察です。

例えば、「過重労働または働き方改革で、みんな自分の仕事で一杯いっぱいで他人を構う余裕がない」、にもかかわらず「新たな知識やスキルの習得が必要で、他のメンバーに聞かなければ仕事が進まない状況」「これまでの専門性や経験が活かせる組織ではない」等々。

これは50代以上のシニア社員の受け入れ時だけでなく、預かった組織をマネジメントする際に、管理者が最初に把握しておきたい重要事項なのです。

■シニアの妖精・妖怪への向き合い方

最も重要なことは、担当してもらう仕事にきちんと「意味づけ」をしているかということです。これは50代の妖精・妖怪に限らず、部下に業務を担当させる際の動機づけの基本です。

「自分の仕事がどのような貢献に繋がるのか」「何のためにその仕事をするのか、それが自分にとって意義があることか」。やらされ感ではない、内発的動機で業務を推進することができれば、どんな部下でもやる気がでるはずです。

若手社員であれば将来性を引き合いに出せば、どんな業務でも意味を持たせることが出来そうですが、妖精・妖怪にそのようなアプローチは可能かという疑問があるかもしれません。

ですが会社にとっても社員にとっても、幸か不幸か65歳、いや70歳までのキャリアを想定しなければならない時代になりました。それどころか人生100年時代に突入したので、80歳まで現役で稼がないと経済破綻する可能性があるのです。50代で隠居生活に入ることなどできない時代に我々は生きていると、理解させることで気づきが得られる可能性があるのです。

■あっちの世界からこっちの世界に引き戻す

組織には「2:6:2」の法則が働くと言われています。

全体の上位2割が、常に高い成果を上げるハイパフォーマー層。真ん中の6割が、大きな期待はできないがきちんと仕事はこなす標準層。下位の2割は貢献度が低く、能力不足だったり、モチベーションの低下だったり、理由はさまざまですが、成果を上げられない残念層です。

Jリーグの入れ替え戦のように、下位2割といってもそのうちの上半分の1割は、標準6割の下の層と入れ替え戦を戦っており、一定の競争心が見られます。ところが最下位の1割層には、現実世界で生きていない妖精・妖怪が生息しているのです。会社業績が厳しい時であれば、真っ先にリストラの対象となるため、危機感を持って踏ん張るでしょうが、昨今の人手不足や働き方改革、パワハラの法制化によってたかをくくっている節があります。それを現実世界に引き戻す必要があるのです。

■最下位1割は「危機感」がないと腰を上げない

もし、現実世界に生きていないのなら、まず自分の立ち位置を認識させることが必要になります。

2020年は、昨年の消費増税の影響で景気の悪化が確実ですし、6月には軽減税率さえ終わってしまいます。さらに昨年から本格化した米中貿易戦争による世界景気不安、加えて新型コロナウイルス肺炎の蔓延、さらにはオリンピック需要が3月には終了します。日経新聞を見ても企業の業績予想は軒並み「減益」となっています。

少なくとも自分はローパフォーマーであるという認識があるのであれば、こういう世界情勢に翻弄されるであろう自社の中での自分の立場は相当危ういことは分かるはずです。

■それでもダメなら業務改善プログラム

ローパフォーマーに対しては態度の悪さと能力の劣化に気付かせること、そして、役割を明確にして、業務に対して役割を明確化して作業に当たらせる。自分の思い込みや経験で走りがちな姿勢を改めさせることまで必要かもしれません。

業績改善プログラム(PIP: Performance Improvement Program)という考え方があります。ローパフォーマーに対して、期間を区切って具体的な業績目標を掲げ、その期間内に定期的な評価や指導面談を繰り返して、業績改善を促すことです。

まず、対象者にある課題を出します、本人にとって一見、難しいかもしれませんが、格付けられている等級レベルのものを設定します。そして期限を設定して、課題に取り組ませます。

■猶予期間を与え、周囲と緊密に連携する

目的は「業務改善」ですが、期限内に課題をクリアできなければ、降格や減給などのペナルティを課すことになります。やり過ぎるとパワハラと訴えられる可能性があるので、一定の猶予期間を与えること、課や部の責任者が勝手に着手するのではなく、人事、労務の担当者と緊密に連携する必要もあります。

政府は「成長戦略」の一環で、70歳までの就業機会の確保を提言していますが、その前に会社が悲鳴を上げる可能性がありますし、仮に乗り越えたとしても60歳定年後の再雇用の条件は、50代の働き方で決まるのです。65歳、いや70歳までサラリーマンとしてのキャリアをつなごうとすれば、50代で妖精・妖怪になってあっちの世界に心があっても、現実の肉体はこっちの世界にいることを自覚させなければなりません。

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麻野 進(あさの・すすむ)
パルトネール代表取締役
関西学院大学法学部政治学科卒。国内系大手コンサルティングファームにて、医療機関を中心に、マーケティング、人事管理等のコンサルティングを担当した後、人事・組織コンサルティングファーム取締役、SI系コンサルティングファーム シニアマネージャーを経て、現職。企業規模、業種を問わず組織・人事マネジメントに関するコンサルティング活動に従事。近著に『イマドキ部下のトリセツ』(ぱる出版)など。

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(パルトネール代表取締役 麻野 進)

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