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ウーバー創業者がジョブズやベゾスになれなかった決定的理由

プレジデントオンライン / 2020年3月4日 11時15分

配車サービスのUber(ウーバー)の看板(東京都) - 写真=時事通信フォト

2019年末、ウーバーの創業者トラビス・カラニックが保有株式すべてを売却し、取締役も退任した。世界最大級のユニコーン企業をつくったカラニックとはどんな人物だったのか。その半生を追った『WILD RIDE(ワイルドライド) ウーバーを作りあげた狂犬カラニックの成功と失敗の物語』(東洋館出版社)の刊行にあわせて、立教大学ビジネススクール教授の田中道昭氏に聞いた——。

■「人間としての批判」が多い経営者

——田中さんはトラビス・カラニックを経営者や起業家としてどう評価していますか。

【田中】私は、2年前に次世代自動車産業における20名以上の経営者とそれぞれの企業を徹底的に分析しました。実は、そのなかでもウーバーの創業者であり前CEOのトラビス・カラニック(以下、カラニック)は、私がリサーチの途中から強い興味をもって、最も多くの英文での文献を調べたり英語での動画を観まくったりした人物の1人になりました。

それは、企業としてのウーバーを褒め称える声が多い一方で、人間としてのカラニックには批判の方が多いことに興味を持ったからです。

ウーバーはまさにライドシェアのみならずシェアリングエコノミーの代名詞となっています。その優れたビジネスモデルは、米国でも一般誌から専門的な経営誌に至るまで高く評価されています。いまやビジネススクールでも優れたケーススタディーの典型例です。

その一方で、話題の対象が創業経営者になると、とたんにトーンが180度変わってくるのです。カラニックが率いていた頃のウーバーは、その「野蛮」な事業展開で知られてきました。安全管理責任や旅客運送法を回避する手法が批判され、世界中で提訴や行政処分を受けてきました。法令遵守もお構いなしの拡大戦略をとることで、事業ではケタ違いの成功を収めることができたとも言えそうですが、批判の声は絶えませんでした。

■「性格に難あり」で済まされない犯罪的行為

——GAFAなどの企業の経営者と比較するといかがでしょうか。

【田中】革命児と言われるような創業経営者には皆、極端な2面性があると思います。スティーブ・ジョブズ然り、ジェフ・ベゾス然り。まず打ち出しているミッションは桁違いの大きさです。そして、周りの人も、その壮大な使命感に突き動かされて、実現不可能と思われる仕事も「やり切って」しまう。極めて優秀であると同時に、他人を強引に振り回し、疎まれる。優しいかと思えば怒り狂う。人間的には冷酷なところももち合わせていることも共通点でしょう。

企業を数兆円規模に成長させた起業家たちは、多かれ少なかれ人間的な欠点を持っています。もっとも、だからこそ、人としての良し悪しは別にしても、普通の人と比べて突き抜けられ、大きな成功をおさめることができたとも言えるわけです。ただ、欠点がありつつも、みんな社会の一員としてルールや法律を守っていました。

一方、カラニックはそうではなかった。本書に書かれていたものだけでもこんなにあります。大規模なセクシャルハラスメントで告発、Weymoから自動運転技術を盗んだとして提訴。さらに「グレイボール」というツールで法執行機関間捜査を妨害、「ヘル」というプログラムで競合のリフトの営業を妨害。シンガポールでは、発火の恐れがあってリコール対象になっていた車を、それを知りつつ貸与し続ける……。

これらは犯罪的な行為で、性格に難ありで済まされる話ではありません。私は彼には共感できないと思いました。

撮影=浦 正弘
立教大学ビジネススクールの田中道昭教授 - 撮影=浦 正弘

■短期中期なら強い「アウトロー」

——ジョブズたちとカラニックの決定的な違いはどこにあるのでしょうか。

【田中】ヒーローと悪役の違いでしょう。映画や漫画のヒーローは、べつに完璧な人間ではありません。それぞれ欠点や弱さがあって、それが愛される一因にもなっています。まさにジョブズがそうでした。一方、悪役は欠点があるのではなく、人間として備えておくべき大事なところが欠落していて、イリーガルなことも平気でやってしまう。欠点に対して言うと、欠陥があるとも言える。カラニックは、どう見ても後者です。

——突き抜けていたから成功できたという声もあります。

【田中】アウトローですから、短期中期なら結果を出せたのだと思います。私はライドシェアと白タクは別物だと表現してきた一方で、ウーバーの成り立ち自体は白タクであったと分析しています。認められてないところを強行突破して、イリーガルな営業で利益を出してきたわけです。そうした手法は、小さなときは見逃されても、ある程度のところまで行くと社会から排除されます。アメリカでは創業経営者であるカラニックの退任だけで済みましたが、日本なら企業ごと退場させられていたはず。いずれにしてもアウトローなやり方は現代社会ではいずれ通用しなくなり、成長は頭打ちになります。それを成功と言っていいのかは疑問ですよね。

そもそもアウトローが強みを発揮するのは、他のプレイヤーがルールを守っているときに「目的のためには手段を問わない」からです。一人だけ違うルールでやっているのですから、それは短期的には勝ってあたりまえ。でも、みんなと同じルールで戦ったらどうか。戦国時代のようにお互いに何でもありの状況なら、ジョブズやベゾスはもっとすごいことができていたんじゃないですか。

本書の中に、カラニックがイーロン・マスクに提携を持ち掛けて、あっさりと袖にされる場面が出てきます。マスクは自分が組むべきパートナーではないと思って、カラニックを相手にしていなかった。あのシーンが象徴的だったように思います。

カラニックは既存システムの矛盾を見抜く力があった

——ビジネスパーソンは、カラニックを反面教師として学ぶべきでしょうか。

【田中】全体としての評価はそうですね。ただ、部分的には参考になるところもあります。たとえばカラニックは、時代遅れの法律に戦いを挑みました。法律の制約要因は、イノベーションの原点です。私も外資系証券会社で「ストラクチャードファイナンス」をやっていたころは、既存の法律や会計制度の制約をいかにイノベーションを起こして乗り越えるかという視点で新しいものを生み出そうとしていました。カラニックもおそらくそこは同じです。既存の制約にはどのような矛盾があるのか、どうすればその矛盾を合理的に解決できるのか。それを見抜く力は卓越していたのでしょう。

写真=EPA/時事通信フォト
米配車サービス「ウーバー」の創業者、トラビス・カラニック氏 - 写真=EPA/時事通信フォト

しかし、課題解決の手段が不適切でした。普通は突破すべき制約を見つけたら、「ルールの範囲内で解決することはできないか」を考え、時には「ここを変えれば社会的課題が解決される」と訴えて社会を巻き込み、最終的に法整備につなげていくことを目指します。グーグルやアマゾンも、法制度という秩序を前提としてイノベーションを起こしてきました。

それに対して、カラニックは時間をかけることを嫌い、ルールや法律を無視してサービスを提供し、既成事実化を狙いました。結果的にイノベーションが生まれるスピードは早くなりました。しかし、新しいものが生まれるなら何をしてもいいのか。その判断や価値観は人によるかもしれませんが、私は「目的のためには手段を問わない」というのは現代社会では許容すべきではないと考えます。

■「両極端なもの」が同居している人物

——ウーバーは投資家から多額の資金を調達して成長しました。アメリカの投資家たちは、カラニックのやり方を許容していたのでしょうか。

アダム ラシンスキー(著)、小浜 杳(翻訳) 『WILD RIDE(ワイルドライド) ウーバーを作りあげた狂犬カラニックの成功と失敗の物語』(東洋館出版社)
アダム ラシンスキー(著)、小浜 杳(翻訳)『WILD RIDE(ワイルドライド) ウーバーを作りあげた狂犬カラニックの成功と失敗の物語』(東洋館出版社)

【田中】後からわかった部分もあるのでしょう。私も彼が犯したルール違反についてはこの本を読んで初めて知ったことが多々あったので。表現が難しいですが、彼は最大級に両極端な人で、正義感そのものも強いはずです。それが間違った方向に行って、「目的のためには手段を選ばず」になって最後は失敗した。そこがまさに彼の欠陥ですが、映画や漫画の中でも人が悪役に惹かれることがあるのと同じで、欠陥を含めてカラニックに惹かれた投資家もいたのでしょうね。

考えてみると、両極端なものが同居しているのはカラニックらしいですね。彼は自分が考えたビジネスモデルを「ビットと原子」と表現しています。ビットとはオンラインの世界のことで、原子は物理的なリアル世界のこと。従来のプラットフォーマーはビットの世界でプラットフォームを構築してきましたが、カラニックはそこに物質世界を掛け合わせて新しいプラットフォームをつくろうとした。カラニック自身も異質なものの掛け算のようなキャラクターで、それがビジネスモデルにも共通しているのは興味深いところです。

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田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略、及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)などを歴任し、現職。主な著書に『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』(以上、PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)などがある。

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(立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授 田中 道昭 聞き手・構成=村上 敬 撮影=浦 正弘)

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