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日本でシェアビジネスが思ったほど広がらない根本原因

プレジデントオンライン / 2020年3月5日 11時15分

米配車サービス「ウーバー」の創業者、トラビス・カラニックCEO - 写真=AFP/時事通信フォト

シェアビジネスが世界中で広がりつつある。だが日本で動きは遅い。日本発のシェアビジネスも低調だ。問題はどこにあるのか。ウーバーの創業者トラビス・カラニック(以下、カラニック)の半生を追った『WILD RIDE(ワイルドライド) ウーバーを作りあげた狂犬カラニックの成功と失敗の物語』(東洋館出版社)の刊行にあわせて、立教大学ビジネススクール教授の田中道昭氏に聞いた——。

■なぜ「ウーバー」は日本で支持されなかったのか

——ウーバーはカリフォルニア生まれ。それに続くように世界ではライドシェア企業が次々と誕生しています。一方、日本ではいまだにライドシェア企業が出てきません。

【田中】まずアメリカでなぜ生まれたのかを考えてみましょう。ライドシェアは従来にない価値を顧客に提供しました。アメリカでは従来、タクシーを呼ぶのに10分かかっていましたが、ウーバーはアプリで呼ぶと3分で来る。なぜ早いかというと、ウーバーが膨大な走行データを持ち、3分後にどこに人が集まるのかAIで予測しているからです。ウーバーのビジネスの裏側はともかく、呼んですぐ来るのはとても便利で、そのカスタマーエクスペリエンスが消費者の支持を得ました。

では、なぜウーバーが日本で支持されなかったのか。まず日本はアメリカほどタクシーをつかまえにくいわけではないし、サービスレベルも悪くありません。それと、タクシー業界が既得権益を守るために強硬に反対したことも大きい。ライドシェアと白タクは本来違うものです。しかし、業界はライドシェアを白タクのように見せることに成功して、消費者もそのイメージでライドシェアを見るようになりました。

ここにはウーバーの戦略ミスもありました。いま指摘したように、ライドシェア会社の本質は「ビッグデータ×AI」企業。つまりライドシェア企業は単なる輸送業ではなくテクノロジー企業なんです。したがって、ライドシェアということ自体にこだわる必要はなく、タクシー会社と組んでタクシーアプリとして進めていてもよかった。そうすれば業界団体から敵視されることもなかったはずです。実際、中国のDiDi(滴滴出行)はソフトバンクと組んで日本に進出しています。これは賢い選択です。

一方、ウーバーは日本でも登場した当初はいつものようにアウトロー的なやり方で突破しようとして、強烈な反発を食らいました。どこかと組んだりフレンドリーなやり方をしていたら、おそらく結果は違っていたと思います。ライドシェア自体は社会的価値の高いサービスですから、そこは残念ですね。

——日本は規制が厳し過ぎて新規参入ができないという意見もあります。

【田中】総論としてはわかりますよ。ただ、ウーバーはカラニック時代には犯罪的な行為もいとわない企業で(前回記事参照)、いま振り返れば、当時のウーバーを参入させなかったのは正解だったといえます。ライドシェアとウーバーで主語と議論を分けるべき。一定の条件を満たしたライドシェアは日本でも規制緩和をして認めるべきですが、当時のウーバーのような価値観を持つ企業までそこに含めていいとは思いません。

立教大学ビジネススクールの田中道昭教授
撮影=浦 正弘
立教大学ビジネススクールの田中道昭教授 - 撮影=浦 正弘

日本は豊かだからイノベーションが生まれない

——日本ではイノベーションが生まれにくいという指摘についてはどうでしょうか。

【田中】いろいろと要因はありますが、一番大きいのは失敗が許されない社会であることでしょう。イノベーションはリスクを取って挑戦しないと生まれませんが、日本の大企業は失敗を許さない構造や文化です。アメリカで若くて優秀な人はそれを嫌ってスタートアップに就職したり自分で起業します。

それに対して、日本では優秀な人が大企業に集まってしまう。大企業に入れなくても、「年収300万円でも不自由なく暮らしていける。だから無理はしない」という若い人は多いですよね。カラニックが学生時代から起業をして、3回目でやっとウーバーで成功したのとは対照的です。

——なぜ日本ではそこまでリスクが嫌われるのでしょうか。

【田中】国民性の問題にされがちですが、それは違うんじゃないですか。日本人がリスクを取らないのは、リスクを取ってまで何かやる必要がないほどある程度の豊かさが確保されていることの裏返しです。

3年前、イスラエルの国家招聘「ヤングリーダーシッププログラム」に招待されて団長として訪問しました。国賓でいくと、最初にホロコーストミュージアムに連れて行かれます。そこで目の当たりにしたのは、ユダヤ民族が絶滅寸前までいった歴史です。イスラエルがテック系の起業家を数多く輩出しているのは、その記憶が刷り込まれていて、なおかついま現在も戦争が身近にあるから。今日が人生最後の日かもしれないという人生観と死生観が、そして強烈な危機感が彼らを突き動かしているのです。

日本も終戦直後の焼け野原から、のちの高度成長をリードする起業家や新しい技術が生まれました。イノベーションが生まれるかどうかは、危機感しだい。国民性のせいではないと思います。幸か不幸か、いまの日本にそこまで切迫した危機感はありません。イノベーションやグローバル競争という観点でいうと危機感の欠如は不利に働きますが、危機感を抱かずに済む情勢に日本があるのはいいことでもあるから、難しいですね。

ちなみに、イスラエルでは2回か3回起業に失敗した経験をもつ起業家の方が資金を集めやすいことを現地で聞き驚きました。イスラエルでは失敗経験をむしろ高く評価しているのです。

中国市場からの撤退は失敗か成功か

——ウーバーは巨大市場である中国からも撤退しました。本書でも、カラニックが中国市場で敗北した様子が生々しく描かれています。

【田中】日本と違ってブランディングはうまくいっていましたよね。カラニックのアウトローなところがウケたのか、それともそもそもウーバーの犯罪的行為が報じられていなかったのか。それはわかりませんが、中国でカラニックは悪役というよりヒーローとして迎えられていました。

アダム ラシンスキー(著)、小浜 杳(翻訳) 『WILD RIDE(ワイルドライド) ウーバーを作りあげた狂犬カラニックの成功と失敗の物語』(東洋館出版社)
アダム ラシンスキー(著)、小浜 杳(翻訳)『WILD RIDE(ワイルドライド) ウーバーを作りあげた狂犬カラニックの成功と失敗の物語』(東洋館出版社)

撤退したのは、DiDiと底のない戦いに突入することがわかったからでしょう。2016年8月、ウーバーはDiDiの17.7%の株式と引き換えに、中国事業をDiDiに売却すると発表しました。この時点で、DiDiにはアリババとテンセント両方の資本が入っていました。いわばオールチャイナで、向こうは国の威信をかけて倒れるまで戦う覚悟。撤退はいい判断だったと思います。

消耗戦になると、資金力のない企業は不利です。日本でもQRコード決済市場は消耗戦です。結果、先発だったorigamiが息切れしてメルカリに身売りしました。これからも事業者の淘汰は進むでしょう。中国市場におけるウーバーも似た構図ですね。

ただ、origamiがタダ同然で売却されたのに対して、ウーバーはあの取引でDiDiの筆頭株主になっています。ウーバーが得る利益を考えると、負けたとまでは言えない。負けは負けでも、いい負けだったのではないでしょうか。

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田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略、及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)などを歴任し、現職。主な著書に『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』(以上、PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)などがある。

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(立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授 田中 道昭 聞き手・構成=村上 敬 撮影=浦 正弘)

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