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なぜ安倍首相は周囲の制止を振りきって「一斉休校」を決断したのか

プレジデントオンライン / 2020年3月3日 17時15分

新型肺炎対策で記者会見に臨む安倍晋三首相(右端)=2020年2月29日、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

安倍政権が新型肺炎の対応で混乱を極めている。集団感染が起きたクルーズ船の政府対応は世界中の批判を集めたが、2月27日に唐突に発表した一斉休校要請では、これまで安倍晋三首相を支えてきた「お友達」の間での亀裂が表面化した。長期政権の「末期症状」を分析しよう――。

■根拠を論理的に示せないので、政治決断を示すしかない

2月29日午後6時、首相官邸。安倍氏が開いた記者会見は異様な空気に包まれていた。首相官邸は安倍氏の「本拠地」であるはずなのに、アウェーのようだったのだ。2日前に行った一斉休校要請は「拙速だ」「根拠がない」「説明がない」とすこぶる評判が悪く、逆風を一身に受けての会見だった。

安倍氏は冒頭、新型コロナウイルスについて「中国での広がりに続き、韓国やイタリアなどでも感染者が急増しています。わが国ではそこまでの拡大傾向にはない」と、海外と比較すれば日本の被害拡大は深刻ではないというアピールに腐心した。

その後は「私が決断」「私の責任」といった言葉を連発。おそらく「一斉休校要請」の根拠を論理的に示せないので政治決断を前面に出すしかなかったのだろう。

■14年前は「首相の決断」を繰り返して短命に終わった

安倍氏は2006年、初めて首相に就任したころ、必要以上に「首相の決断」「私のリーダーシップ」という言葉を繰り返していた。

しかし、カメラに向かって自信なさそうな表情で語るため、むしろ「虚勢を張っている」という印象を与えてしまった。そして結果的に支持は低迷。1回目の首相は短命に終わった。永田町生活の長い関係者は、今回の会見を見て「14年前のことを思い出す」と語る。

会見時間は約36分間。冒頭、安倍氏の「演説」は20分近くを占め、言いたいことだけ言ったという印象はぬぐえない。質疑に応じたのは、事前に文案を提出していた5社に限られ、それも原稿を読み上げて一方的に会見を終えた。ジャーナリスト・江川紹子さんらが「まだ質問があります」と声を張り上げて挙手をしたが、会見は打ち切られた。この様子についてSNSでは批判の書き込みがあふれた。

■読売新聞も社説で「戦略性を欠いていた」と批判

朝令暮改とはこのことだ。25日、政府がまとめた基本方針では「イベントの自粛は求めないが、主催者に改めて必要性の検討を要請する」と、あくまで主催者の自主性に委ねる方針だった。ところが翌26日、首相は大人数が集まる全国的なスポーツ、文化イベントは2週間中止、延期、規模縮小などを要請。そして翌27日には「休校要請」だ。

もちろん、状態が日々緊迫感を増しているのは事実だが、あまりにも場当たり的すぎる。安倍政権の応援団的な役割を果たしてきている読売新聞ですら3月社説で「新型コロナウイルスは未解明な部分が多いとはいえ、安倍内閣のこれまでの対応は戦略性を欠いていたと言わざるを得ない」と手厳しい論評をしている。

危機管理を得意とする安倍政権が、まさに究極の危機対応で迷走している。

■「チーム安倍」の要、今井補佐官と菅房長官が関係悪化か

さらに深刻な問題がある。「チーム安倍」が崩壊の危機にひんしているのだ。今回の一斉休校要請は、安倍氏の懐刀である今井尚哉首相補佐官が進言したと言われる。経産官僚出身の今井氏は、他の省庁を軽視する傾向があると指摘されてきたが、今回はまさに典型だった。

「一斉休校」を発表する27日の午後、安倍氏は萩生田光一文科相、藤原誠文科事務次官を呼び、方針を通告した。萩生田氏らは休業補償の問題など、懸念は表明したが、同席した今井氏らは、十分に対応できると答え、再考するそぶりも見せなかった。

そして、一連の意思決定に菅義偉官房長官が関与した形跡はない。菅氏と今井氏は、2人とも安倍政権を安定的に維持してきた功労者であることは誰も異論はない。しかし2人は昨年のある時から関係が悪化しているとみられている。

■今回、今井氏は「菅氏抜き」で一斉休校要請を進めた

昨年の4月、菅氏は「モテ期」にあった。新しい元号の「令和」を発表して「令和おじさん」のニックネームをつけられたころだ。次第に「ポスト安倍の有力候補」と言われるようになった。菅氏本人は「ポスト安倍」に意欲があるような言質は取らせない。しかし、そのころから、菅氏と今井氏が対立構図で語られることが増えた。

官僚から上り詰めた今井氏は安倍氏と運命共同体だ。安倍政権が続く限り、間違いなく権力の中枢に居続けることができる。ただし安倍氏が首相を辞めれば今井氏も権力から遠ざかる。だから今井氏にとってのベストシナリオは、安倍氏が2021年に自民党総裁の任期が終わっても4選を果たしてくれること。菅氏が対抗馬にのぼることは好ましくない。

今回、今井氏が「菅氏抜き」で一斉休校要請を進めたことで、2人の微妙な関係は、新しい局面に入ったといえる。

■与党内からも安倍氏を公然と批判する声が高まりつつある

菅氏だけでない。一斉休校要請は、政権中枢内のさまざまなところであつれきを生んだ。先に触れたように萩生田氏は文科相でありながら当日まで知らされず、しかも進言は受け入れられなかった。安倍氏の側近を自任する萩生田氏としては屈辱的なできごとだった。

与党・公明党への連絡は、発表直前。岸田文雄自民党政調会長への連絡も直前だった。岸田氏は翌28日、記者団に「唐突感はいなめない」とつぶやいた。慎重居士の岸田氏がこうした不満を表明するのは珍しい。

連立のパートナーである公明党。安倍氏から総裁の座の禅譲をうかがって接近を図っている岸田氏。政権運営で欠かせない要所から疑問、不満の声が上がる。

新型コロナウイルスの問題が本格化して以来、安倍内閣の支持率は低下の一途をたどる。それ故、与党内からも安倍氏を公然と批判する声が高まりつつある。つい数カ月前まで続いた「安倍1強」という影は、今はない。

安倍氏は3月2日、参院予算委員会で「緊急事態宣言の実施も含めて立法措置を早急に進める」と述べた。だが、安倍政権そのものが緊急事態になってきたようにしかみえない。

(永田町コンフィデンシャル)

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