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橋下徹「新型コロナで政府の初動が遅れた本当の理由」

プレジデントオンライン / 2020年3月11日 11時15分

※写真はイメージです。 - 写真=iStock.com/BBuilder

世界中で感染拡大が続く新型コロナウイルス。日本政府の初動が遅れたのは、時期尚早と繰り返す専門家会議の考えに引きずられたからだ。では、組織のトップは専門家の知見をどのように生かせばいいのだろうか。地方行政のトップとして外部の専門家を使いこなしてきた橋下徹氏の見解は? プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(3月10日配信)から抜粋記事をお届けします。

(略)

■重大な責任が生じる最終判断まで専門家に求めてはならない

専門家の専門的知見を最大限に有効活用すべきなのは当然だ。しかし、専門家に重要な最終判断を委ねることは間違っている。

これは、組織マネジメント上、よくやってしまう間違いの典型例だ。最終判断、特に重大な責任が生じる判断は、全責任を負う者が総合的に行うものだということを肝に銘じておかなければならない。

(略)

僕は、多い時には数十人の外部人材(専門家)を活用してきた。歴代の大阪府知事・大阪市長ではあり得なかった人数だ。そしてそんな中で外部人材(専門家)を使うことに大変な苦労を経験してきた。

このようにして専門家の使い方のノウハウを学んできた自負があるので、今回はそれを紹介したいと思う。

■新型コロナウイルス肺炎「騒動」の出発点は専門家の判断ミス

昨年末に、中国の武漢市で怪しい感染症が広まっているという噂が発生したが中国当局はこれを必死にもみ消していた。

そして今年に入って、その騒動がどんどん大きくなり、1月20日、ついに習近平国家主席が乗り出した。ここで、武漢市が新型コロナウイルス肺炎で大変なことになっていることが世界的に発信された。

日本において感染症に対して政治行政が積極的に対応するためには、まずはその感染症が「法律上に位置づけられる感染症」であることが必要である。

当時、日本において新型コロナウイルス肺炎は法律上の感染症ではなかった。そこで法律上の感染症に指定する作業(指定感染症への指定)が必要になるのだが、それは厚生労働省に置かれた厚生科学審議会の専門家が判断することになっていた。

この専門家会議は、新型コロナウイルス肺炎を指定感染症に指定するのは時期尚早として、指定を見送っていた。その主たる理由は、WHO(世界保健機関)がまだ非常事態宣言を出していないから、というものであった。

WHOも国際的な専門家集団とされているが、彼ら彼女らは、「大騒ぎするな。中国への渡航制限や、中国からの入国制限をやるべきではない」と言い続けていた。

(略)

このように新型コロナウイルス肺炎を指定感染症に指定しない専門家会議は頼りにならないので、安倍政権は、1月28日に政治判断(閣議決定)によって、指定感染症に指定した。法律上の建前は厚生科学審議会という専門家会議の意見を聴かなければならないことになっていたが、安倍政権は頼りにならないこの専門家会議の議論をすっ飛ばし、形式的に専門家の間で書面を回覧する持ち回り決議という方法で手続きを進めたのである。

こうして安倍政権は、政治判断による閣議決定によって、新型コロナウイルス肺炎を指定感染症に指定したわけで、ここでは厚生科学審議会という専門家会議は事実上まったく機能していなかった。

このように新型コロナウイルス肺炎が指定感染症に指定されたことによって、ここから日本政府は、様々な行動をとることができるようになったのである。

2月1日からは、中国武漢市からの入国制限が始まり、感染症法・検疫法の適用も始まった。すべては政治判断による指定感染症への指定から始まったのであり(厳密に言えば入国制限は、感染症を理由とする規定ではなく公安を理由とする規定を使うウルトラCをやったので指定感染症の指定とは関係ないのだが)、当時、専門家たちは、新型コロナウイルス肺炎に対してここまでの危機意識をほとんど持っていなかったのである。

(略)

いまさら「たら」「れば」の話をしても仕方がないし、今の法体系では、誰が対応しても同じ状況になってしまうのかもしれないが、今回の失敗で教訓となったことは、最初の重大な政治判断は、専門家に委ねてはいけないということだ。

専門家に意見を聴きながらも、常に政治が責任をもって判断するという姿勢を強く持たなければならない。専門家の見解を絶対視してはいけないのである。

■組織の責任者が専門家を扱うノウハウ

●専門家の「権威」を過剰に評価してはいけない
橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)
橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)

専門家はあくまでもその専門領域について知見を有しているのであって、他の領域についてまで専門的な知見を有しているわけではない。ある専門家の専門外の領域についての意見は、あくまでも専門外の者の個人的な見解として扱わなければならない。

ここでよく間違ってしまうのは、ある領域について権威を持っている人の意見を、他の領域についても非常に重く扱ってしまうことである。いわゆる「権威に負けてしまう」ということであるが、ここには注意が必要である。

(略)

専門家の意見はその専門領域のものについてのみ尊重するということが、組織運営上重要である。

●専門家は、世間から猛批判を食らうことは苦手である

(略)

●受託元の組織と戦うことは苦手である

(略)

僕も大阪市長時代、大阪市役所の不祥事を徹底調査するために、第三者委員会を設置した。そしてこの第三者委員会が、市役所に一切気兼ねすることなく調査できる環境を作った。

市役所組織に対しては、この第三者委員会は僕の名代であるので、第三者委員会の調査には従うよう命令した。調査に従わない場合には、懲戒処分等に付すことまで宣言した。

そうしたらこの第三者委員会が、バリバリに調査をやりまくって(笑)、これまでの市役所の問題点を次々に明らかにしていった。

ただし調査に行き過ぎもあり、憲法上の思想良心の自由(19条)を侵害するとの指摘があって、大問題となった。この調査は途中で撤回したが、その後の裁判により僕は大阪市長として法的責任を負うことになった。そして、橋下の調査は違憲だ! と散々メディアでも批判され、市長を辞めた後は弁護士会の懲戒手続きにも付された(最終的には懲戒処分にあたらないという結論)。しかしこれは、僕が専門家をフルに活用しようとしたことの責任であり、仕方のないことだ。

これくらい、組織の最高権力者であるトップが覚悟を決めない限り、専門家が受託元の組織を一切気にしないバリバリの働きぶりを発揮することはない。たいていは、受託元の組織の機嫌を損ねないように振舞うか、または受託元の組織とけんかして、組織から放り出されるかだ。

(略)

●総合判断(政治判断)を求めてはいけない

ここまでに挙げた3つの専門家の特性からすると、専門家に総合判断(政治判断)を委ねるわけにはいかない。これは専門家のみにあてはまることでなく、一般的に言えることだが、総合判断(政治判断)は、すべてを見渡すことができ、全責任を負う立場の者が行うべきである。通常は組織のトップである。

政治行政の領域においては、あらゆる分野の専門家の意見を聴きながら、役所組織を動かす権限を持ち、世間一般に対して全責任を負う首相(知事・市長)こそが総合判断(政治判断)をなすべきである。

(略)

(ここまでリード文を除き約2700字、メールマガジン全文は約1万3600字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.191(3月10日配信)の本論を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【専門家「フル活用」のノウハウ(1)】続くコロナウイルス危機! 政府はこうして専門家会議を使いこなせ》特集です。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)

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