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手塚治虫が"とにかく死ぬのが怖い"という20代若手社員に贈る言葉とは

プレジデントオンライン / 2020年4月12日 11時15分

手塚治虫『まんが「火の鳥」に学ぶネガティブな世界からの羽ばたき方』(プレジデント社)

死とは何か。私は20代だが、寝る前にふと疑問に思うことがある。死とは突然やって来るもの。そう思うと何だか怖くなって眠れなくなる。あぁ神様……私だけが死なないようにしてもらえませんか。
編集部員Y
プレジデント編集部員。29歳男性。既婚。とにかく死ぬのが怖いと思って生きているが、偶然に手塚治虫作品に出合う。

■絶対に死にたくない若き編集部員の言い分

私は死にたくない。そんなことを言えば、なんて情けない人なんだと思う人がいるだろう。臆病者だと言う人もいるだろう。しかし、心の底から“死にたい”という人はいないはずだッ。

飛行機に乗るときも、ウソか本当かは知らないが、一番後ろの席に座ったほうが万が一のときに生存確率が高いというならそうするし、挙動が怪しい車や人がいたら距離を取る。駅のホームで電車が来るのを待っているときも、誰かに押されたとしてもホームの下に落ちない距離を保っている。最近流行している新型コロナウイルスも、感染しないためならマスクやアルコール消毒はもちろん、電車やカフェで咳をしている人が隣に来たら立ち上がる。

死んだら、すべてが終わりなのだ。確かに、死によって辛い思いや嫌なことからは解放されるかもしれない。しかし、家族や友人、仕事仲間にも会えなくなるし、今までの記憶もパーになるだろう。それに、死後の世界はよくわからなくて怖い。今まであった意識がなくなるというのは、どういうことなのかを考え始めるだけで不安になる。

「火の鳥」黎明編

■死への恐怖は尽きない

しかし、2020年現在も、人間の死亡確率は100%だ。死と向き合うために宗教が生まれたとも言われるが、今は技術もある。これまで宇宙事業をはじめ不可能を可能にしてきたアメリカの起業家イーロン・マスクが、脳とコンピュータをつなげる事業を進めている。それが発展すれば不老不死が実現する未来は近いかもしれない。ただ、脳とコンピュータが接続されてもハッキングされたら……と考えると、死への恐怖は尽きない。

そんなときに偶然出合ったのが、手塚治虫さんの漫画「火の鳥」だ。

「火の鳥」は手塚さんが晩年までライフワークとして描き続けた長編漫画だ。作品では、その血を飲めば、永遠の命が手に入るとされた火の鳥が、「死にたくない」などの煩悩を抱く人々の前に時代を超えて現れる。

「火の鳥」について、手塚さんは著書『ぼくのマンガ人生』(岩波新書)で次のように語っている。

「これに出てくる火の鳥は鳥ではなく、生命の象徴みたいなものです。この鳥にまつわって登場するさまざまな人間が、一人残らず命に執着している。(中略)そういうことに執着していろいろと苦しむのです。そういうことがテーマになっているのですが、これは言い換えればぼくの煩悩でもあって、ぼくも死にたくない。それをもう1人のぼくが、この火の鳥に姿を変えているのかもしれませんが、『いや、お前だってただの人間なのだ。いずれは死ぬ。だから死ぬまでの生きがいみたいなものをよく体験しておけよ』ということを自分自身に言い聞かせている」

なぜ手塚さんは「火の鳥」を描き始めたのだろうか。手塚プロダクションの松谷孝征社長は次のように語る。

「手塚は戦争を実体験しています。終戦のときは16歳。漫画にもしていますが、戦争で人も牛もバタバタ死んでいる光景を目の当たりにしていました。そのことが手塚に大きな影響を与え、命の尊さというものを『火の鳥』に限らず漫画全体のテーマとしていると思います」

「火の鳥」ヤマト編

■死にたくないといっても無理なのだ

手塚さんは前述のとおり「死にたくない」と著書に綴っているが、自身の生死について、実際にどのように向き合っていたのだろうか。

「亡くなる2週間くらい前から、手塚は寝たきりで意識もなくなってきたのですが、それでも起き上がろうとするのです。『頼むから仕事をさせてくれ』。これが最後の言葉でした。やるべき仕事をやり終えていないのだと。まさに『火の鳥』のテーマにもなっているように、生きるということがどういうことなのかがわかる言葉でした」(松谷社長)。

死を怖がっていても何も始まらない。死にたくないといっても無理なのだ。死なないことが幸せではなく、生きがいを見つけることが大事なのだ。生きるとか死ぬとかを考えることは大したことではないのではないか。手塚さんの言葉が胸にしみる。

「火の鳥」鳳凰編

手塚さんの作品は、鉄腕アトムやブラック・ジャックをはじめ、子ども向けの作品が多い印象だった。しかし、大人になってから読み返すと新たな発見がある。死について考え始めた、考えているという人は、手塚さんの作品をご覧になって、自分の考えを見つめ直してはいかがだろうか。

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松谷孝征
手塚プロダクション代表取締役社長
「漫画サンデー」(実業之日本社)で手塚治虫の担当編集者になったことが縁で、1973年、手塚プロダクションに入社し、手塚治虫のマネジャーになる。85年4月より現職。

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(プレジデント編集部 撮影=石橋素幸 漫画提供=手塚プロダクション)

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