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「望まない人生」を回避するために必要なたった一つのこと

プレジデントオンライン / 2020年3月12日 15時15分

ジェレミー・ハンター『ドラッカー・スクールのセルフマネジメント教室』(プレジデント社)

なにが成果達成を妨げているのか。ドラッカー・スクールのジェレミー・ハンター准教授は「思考や行動をパターン化する『マインドレスネス』が、わたしたちの判断能力を奪い、可能性を狭める。そして、気づかないうちに望まない結果を引き寄せてしまう」という――。(第3回)

※本稿はジェレミー・ハンター著『ドラッカー・スクールのセルフマネジメント教室』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■「学びのサイクル」が成果をもたらす

「まず自分をマネジメントできなければ、他者をマネジメントすることはできない」

これはピーター・ドラッカーの有名な言葉です。自分自身のこと、つまり、自分の内面がわかっていない人に、組織やチームのマネジメントなどできないと彼は説いているのです。

さらにドラッカーは、「マネジメントの役割は、成果をあげることにある。これこそ実際に取り組んでみれば明らかなように、もっとも難しく、もっとも重要な仕事である」とも述べています。当たり前のことですが、企業や組織、チームにおいては、成果を生み出すことが最重要課題です。

そして、成果が出ていない人や組織が成果を出すためには、思考の幅を広げ、いままでとは違う選択肢を生み出し、そこから行動し、積み重ねた結果から学び続ける必要があります。この学びのサイクルが成果をもたらすのです。

■自分が見ているものは本当にそこにあるか

ドラッカーはまた、「最初から事実を探すことは好ましいことではない。すでに決めている結論を裏づける事実を探すだけになる。見つけたい事実を探せない者はいない」とも言っています(『経営者の条件』)。

人は自分が見たいものを見ようとします。その「ものの見方」は、それぞれの経験や価値観、過去に蓄えた知識や個々の嗜好によって自動的に決まります。人は自分自身のフィルターを通して物事を見て、それを現実として捉えます。しかしその現実は、その人の期待や値判断、思い込み、バイアス、身体感覚、感情など、多くの要素が複雑に絡み合った結果映し出されたものなのです。そしてほとんどの人は、自分にフィルターがあることすら意識していません。

セルフマネジメントを学ぶ目的は、自分のフィルターを外し、オプションを増やし、よりよい結果を得ることです。

自分の内面を理解し、自分自身をマネジメントできるようになって初めて、他者に影響力が発揮できるようになります。

しかし、わたしたちはしばしば、この順序を逆にしがちです。自分の内面に目を向けるのではなく、いきなり自分以外の誰かや何かを変えようとしてしまうのです。

学校教育においても社会人になってからも「自分はいま何を感じているのか(感情)」や「自分の身体にどんな感覚があるのか(身体感覚)」という、生きるうえで重要な問いと向き合う機会はほとんどありません。

自己の内側と外側に働きかけるセルフマネジメント

■願望や感情を起点に行動する

自分の考えていることはなんとなくわかるけれど、その奥にある感情や感覚に気づかないままやみくもに行動していると、その行動の結果についての評価もできません。頑張っているのに結果に結びつかない人は、そもそも「どういう結果を目指しているのか」を自分自身がわかっていなかったりします。

かといって、自分のことだけに集中して周りの人・環境・組織に目を向けなければ成果を出すことはできません。自分を取り囲むほかの人の存在もあってこそ、望む結果が出せるのです。ネットワークモデルの時代においては、ひとりで完結する仕事などほとんどありません。つまり、自分に向き合って瞑想していれば世界が救われるというような、単純な話ではないのです。

自己の内面を見つめ、自分の感情や願望を知り、そのうえで外側の世界に働きかけ、よりよい結果に近づけていくこと、これがセルフマネジメントです[図表1]。

セルフマネジメントができるようになると、チームや組織(企業やNPO、地方自治体や行政など)のマネジメントで成果を出せる可能性が高まります。その先に社会のイノベーョンがあります。自分が望む社会を実現するために、権力やパワーで強引に変化させようとたり、社会システムそのものを無理にコントロールしたりしてもうまくいきません。それよりも「わたしはどんな社会を望んでいるのか」「どんな社会であれば幸せを感じるのか」という自分自身の願望や感情を起点に行動し、周囲に影響を及ぼしていくことで少しずつ社会は変わっていくのです。

社会変革は「瞬間」のマネジメントから始まる

■マネジメントの最小単位

セルフマネジメントにおいて大事な単位は、瞬間です。瞬間はすべてのマネジメントにおいて最小の単位であり、瞬間から瞬間の間に何が起きていて、どのような体験を自分が得ているのかを知り、その体験から自分が何を感じ、どんな結果を得ているかを理解することからセルフマネジメントは始まります。

結果を変えるには「瞬間」に着目する

瞬間とは、文字どおり「瞬く間」です。人は生まれてから死ぬまで、瞬間の連続の中で生きています。あなたの人生は連なった瞬間の一つひとつから成り立っています。それらは人生が演じられる舞台です。各瞬間を約3秒間とすると、1日は28800瞬間あります。心理学者のミハイ・チクセントミハイとブランドン・ソレンソンは、寝ている時間を除くと1日は大体20000瞬間くらいと推計しています。

また、2010年のハーバード大学の研究によれば、わたしたちはその約半分の時間は気を散らしたり、ぼんやりしたりして過ごしているといいます。ということは、残りの10000瞬間をどのように捉えて、反応するかが、人生で得られる結果に大きく影響するということです。

わたしたちが対処できるのは、「その瞬間に起きていること」だけです。過去や未来をいまこの瞬間に変えることはできません。人はいまこの瞬間から次の瞬間に起きる事象に対して反応し、決定し、行動し、結果として何かを得ています。人生はその繰り返しです。いままでと違った結果を求めるのであれば、まず瞬間に着目しましょう。これは、多くの人が見過ごしていることです。

全体像や大局を見ることは大切なことですが、瞬間の積み重ねが大局につながっていることを忘れないでください。新たな結果は、瞬間における新たな選択肢からしか生み出せないのです。セルフマネジメントとは、瞬間のマネジメントともいえるのです。

新たな結果は瞬間における新たな選択肢から生まれる

人の特性を理解し、変化のきっかけをつくる方法はたくさんあります。しかし、瞬間にフォーカスしているものをわたしはほとんど見たことがありません。すべては瞬間で起きているというのに。これは考えてみれば不思議なことです。わたしはなんとかこの領域にアクセスするツールを生み出すためにこのプログラムを開発したといってもいいくらいです。何度も強調しますが、瞬間のマネジメントができずして、今日や明日のマネジメントができるわけがないのです。

■望む結果を得るためのプロセス

もう少し詳しくセルフマネジメントのプロセスを見ていきましょう。わたしはこのプロセスをインテンション・リザルト・マップ(IRマップ)と呼んでいます。これは、いま得ている「望んでいない結果」を「望む結果」へと近づけていくためのロードマップです。このIRマップが使えるようになるには、準備が必要です。ここでは、簡単にIRマップとはどのようなものかをご説明します。

IRマップのひとつの使い方は、いま自分が手にしている「望んでいない結果」を逆から分析する、というものです。望んでいない結果は、自分自身のどのような意図や選択によってもたらされたのか、順に辿っていくのです。そしてその情報を基に、「本当に望む結果」に至るためにはどこに意識を向けるべきかを明らかにします。その意識の向け先や向けるときのエネルギーの強度によって、新たな選択肢が生まれます。新しい選択肢からは、新しい行動が引き起こされます。その行動から新しい結果が得られます[図表5]。

その結果を基に、このプロセスを繰り返すのです。そう、あなたが本当に望んでいる結果が得られるまで。IRマップは、望んでいない結果と望んでいる結果のギャップの背後にあるものを明確にするツールといえるでしょう。

IRマップの使い方は本書で詳しく説明していますが、ここではひとつだけ重要なことを覚えておいてください。あなたがいま手にしている「望んでいない結果」は、「本当に望む結果」に近づくための貴重な情報だということです。

インテンション・リザルト・マップ INTENTION RESULT MAP

■望んでいない結果をもたらす要因

望んでいない結果は望む結果を得るための出発点となりますが、そもそも望んでいない結果は何によってもたらされているのでしょうか。

そのひとつは、サバイバル反応といわれるものです。情動反応ともいいます。もうひとつはマインドレスネス(マインドフルネスの反対)です。順に説明しましょう。

①サバイバル・情動反応

わたしたちは何かに脅かされたとき強い感情に支配され、論理性や社会性が失われた状況に放り出されます。身体に危害を加えられるといったことだけでなく、予算が切られた、名誉を傷つけられた、無理な仕事を押し付けられた、といったこともこうした反応を引き起こす脅威となりえます。

脅威に直面すると、わたしたちの脳が示す選択肢は、攻撃するか、逃げるか、隠れるかです。相手のことを考えるとか、柔軟に対応するとか、創造性を発揮するとか、寛大に振る舞うといった選択肢は吹き飛んでしまうのです。そのような状況にあるときに、わたしたちは望んでいない結果につながる行動をとってしまいがちなのです。

②マインドレスネス

マインドレスネスはマインドフルネスと反対の状態です。人間の行動、思考、感情の90%は無意識的で自動的なパターンに支配されています。頭に浮かんでくるあれやこれやのことに気をとられ、目の前のことにまったく意識がいっておらず、しかもそのことに気がついていない状態です。人間の知覚能力には限界があります。脳はその限られた能力を効率的に使うため、思考や行動をパターン化する傾向があります。

たとえば、朝起きて無意識のうちに歯を磨く、いつも同じ電車の同じ車両の同じ場所に乗る、といったルーティンが生まれるのは、脳にとってそれが楽だからです。一方で、脳のこの性質は「わたしは○○すべき」「あの人はこう思っているに決まっている」といった思い込みも生みます。思考もパターン化したほうが楽だからです。マインドレスになればなるほど、こうした思い込みが入り込む余地が増えていきます。

サバイバル・情動反応とマインドレスネスは、日常的にわたしたちの判断能力を奪い、可能性を狭めています。そして、気づかないうちに望んでいない結果を引き寄せているのです。

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ジェレミー・ハンター クレアモント大学院大学 ピーター・F・ドラッカー・スクール准教授
クレアモント大学院大学のエグゼクティブ・マインド・リーダーシップ・インスティテュートの創始者。東京を拠点とするTransform LLC.の共同創設者・パートナー。「自分をマネジメントできなければ他者をマネジメントすることはできない」というドラッカーの思想をベースに、リーダーたちが人間性を保ちながら自分自身を発展させるプログラム「エグゼクティブ・マインド」「プラクティス・オブ・セルフマネジメント」を開発し、自ら指導にあたっている。「人生が変わる授業」ともいわれるこのプログラムは、多くの日本の企業幹部も受講しているほか、バージニア大学大学院でも講座を持つ。また、政府機関、企業、NPOなどでもリーダーシップ教育を行っている。シカゴ大学博士課程修了(人間発達学)。ハーバード大学ケネディー・スクール修士。日本人の相撲取りの曽祖父を持つ。

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(クレアモント大学院大学 ピーター・F・ドラッカー・スクール准教授 ジェレミー・ハンター)

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