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「春・夏になればコロナは落ち着く」を疑わしく感じる「インフル統計」の真実

プレジデントオンライン / 2020年3月6日 9時15分

地球上のさまざまな気候帯に新型コロナウイルスは感染している - 画像=世界保健機関(WHO)ウェブサイトより

新型コロナウイルスの感染拡大はいつになったら終息するのか。統計データ分析家の本川裕氏は「症状や感染の広がり方などが季節性インフルエンザに似ているという指摘がある。その前提でインフルの統計データを調べたところ、残念ながら『温暖地ではリスクが低い』とはいえなかった」という——。

■温暖な春・夏になったら新型コロナは終息するのか

新型コロナウイルスの感染リスクへの不安が高まっている。そのため、「どんな人」「どんな地域」で罹(かか)りやすく、また「死亡率はどれぐらいか」についてもデマや憶測が飛び交っている。

たとえば断片的なデータを見て、北海道で感染者が多い反面、沖縄で感染者が少ないので、「沖縄は暖かいからウイルスの活動が低下し、陽性が出にくいのではないか」という臆測が広まっている。ただし、感染症専門家の医師は、データが少ないため「新型コロナウイルスが温度に強いとも弱いとも言えない」と反論している(沖縄タイムス、3月1日)。

新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスは、症状や感染の広がり方などに似ている点が多いと言われている(※1)。それを前提にすれば、インフルエンザのデータ、特に「どんな人」「どんな地域」で死亡者が多いのかというデータが参考になりそうだ(※2)

※1:ニューズウィーク 日本版「新型コロナ、類似ウイルスのSARSよりインフルに近い特徴」(2020年2月20日)
※2:編集部註=世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は3月3日の記者会見で、新型コロナウイルスは季節性インフルエンザより感染力は弱いが、重症化する患者はより多く、致死率は3.4%とインフルエンザより高いと指摘している。

■インフル死亡者は沖縄など温暖な地域ほど少ないとは言えない

データが豊富にあるインフルエンザの統計を調べると、インフルエンザによる死亡者は沖縄など温暖な地域ほど少ないとは必ずしも言えない。これは新型コロナウイルスについても同様である可能性もあるだろう。

新型コロナウイルスに関しては、子どもは感染したり、死亡したりすることが少なく、高齢者は持病のある者とともにウイルスに弱いと言われる。こうした傾向がインフルエンザと同じかどうかを確かめてみたい。

■かなり高い年齢層と男性でリスクが大きい

インフルエンザも新型コロナも高齢者が罹るとリスクが大きいと言われており、また、実際、新型コロナウイルスによる犠牲者の年齢も70代、80代が多い。

図表1に2018年に日本国内においてインフルエンザで亡くなった人(全3325人)の男女・年齢5歳階級別の人数を示した。

インフルエンザ死亡数(2018年)

データを見ると、インフルエンザで亡くなる人は高齢者に集中していることがわかる。すなわち、65~74歳のいわゆる前期高齢者と比べて、75歳以上のいわゆる後期高齢者、中でも85歳以上の超高齢層で亡くなった人が圧倒的に多かったのである。

男女計の年齢割合では、75歳以上の死亡が84%(2809人)に上っており、そのうち85歳以上だけでも60%を超えているのである(2003人)。

5歳階級ごとでは、男性では「85~89歳」(414人)、女性では「90~94歳」(420人)の死亡者数が最も多い。

そうなると、通常あまり外出しないと見られるこうした年齢層がどこでインフルエンザウイルスに感染したかが問われよう。高齢者施設などでの感染か、同居する、あるいは訪問した子や孫から感染したと考えるほかない。新型コロナも同様だとすれば、こうした点をめぐる予防対策に重点を置くべきだろう。

男女別の特徴として男の死亡が多い点にも気づく。「55~59歳」から「80~84歳」までの各5歳階級の死亡数について比較すると、男のほうが女より死亡数が倍近くである場合がほとんどなのである。

■インフル死亡率が高いのは「女より男」「超高齢層」

人口10万人当たりインフルエンザ死亡数(2018年)

図表2には、人口10万人あたりの死亡数(死亡率とも呼ぶ)についても、男女・年齢5歳階級別の値を図示した。明確になったことは、「死亡率が超高齢層で顕著であること」、また「女性より男性の死亡率が高いこと」だ。

男性のほうがウイルスに感染しやすいのか、それとも感染した場合に重症化しやすいのか、そのどちらか、あるいは両方であろう。

この点については、海外の医学雑誌でも事実が指摘され「ホルモンの違い」、あるいはオスのほうが性進化の中で生存にとって「身体に余計な機能が多い」といった動物一般と共通する種々の要因仮説が提出されているようである。

新型コロナでは、男性のほうが女性よりリスクが高いとはあまり言われていないようだが、この点はインフルエンザとは異なるのか。今後の動向を注視していきたい。

また、新型コロナでは、子どもは感染したとしても症状が軽いと言われており、だからかえって周りに感染を広げてしまうという問題があると考えられている。

インフルエンザではどうだったかというと、やはり、10歳未満の子どもは、少なくとも2018年には、男子が7人、女子が12人とかなり少なかった。すなわち、重症化する子どもが少ないというのは、別に新型コロナだけの特徴であるとは言えないようだ。

■高齢層拡大が大きく押し上げているインフルエンザ死亡の増加

想像以上に超高齢者に偏った死亡リスクの特徴は、以前からのものなのか、それとも最近になって目立ってきている特徴なのだろうか。

図表3に2000年以降の年齢別のインフルエンザ死亡数の推移を追った。高齢層での死亡がますます目立つようにはなってきているが、従来75歳以上の高齢層でリスクが高かった構造自体は変わっていないようだ。

従来から高い75歳以上のインフルエンザ・リスク

本連載では、先月の記事(なんと1日50人以上「インフル死者」が日本で急増する不気味)で、近年インフルエンザによる死亡数が不気味な増加傾向をたどっている点を指摘した。その際に、インフル死亡数の増加の要因として「高齢層拡大の影響」について述べたが、具体的なデータは示していなかった。

■高齢者が増えるほど、インフル死亡者数も死亡率も高まる可能性

そこで、今回は「高齢層拡大の影響」について図表3にデータを示しておいた。

インフルエンザ死亡率の推移

一般に、時系列比較や地域間比較では、人口の増減などに左右されない指標として、10万人当たりの死亡数(死亡率)を、実数の死亡数に代わって使用される。

ここでも、年齢別死亡数の推移(図表3)と関連して、インフルエンザ死亡率の推移(図表4)を掲げている。2000年以降であると人口の増減はそれほど大きくないので、死亡数の動きと死亡率の動きはあまり変わりがない。

ここで注目したいのは「年齢調整死亡率」との差分の推移である。年齢調整死亡率は、もし、当初の年齢構成が不変であったとしたら、どんな推移をたどるかを年齢別死亡率から加重平均して計算したものである。これと普通の死亡率との差分の推移が高齢層拡大による要因効果と考えることができる。

図表4を見てみると、2010年ごろまでは、高齢層拡大の要因はあまり大きく影響していなかったが、それ以降は、死亡率増加の半分近くが高齢層拡大要因になってきていることが理解されよう。これはおそらく、団塊の世代が高齢化して、いよいよインフルエンザに弱い年齢層に達してきたからではないか。

もちろん、インフルエンザ死亡率の上昇がこうした年齢要因だけで説明できるわけではない。しかし、図表4の年齢調整死亡率で推移を追うと2018~19年の値は、それまでのピークである2005年の数値をそれほど上回っているわけでもない。

従って、年齢要因を除けば、インフルエンザ死亡の増加は、単なる周期的な年次変動の範囲内と見なすこともできるかもしれない。要するに、今後、さらに高齢者が増えるほど、インフル死亡者数も死亡率も高まる可能性があるのだ。

■寒冷地でリスクが高く、温暖地でリスクが低いとは言えない

次に、地域別のリスクについて見てみよう。

インフルエンザは冬場に流行し、死亡数も、寒く乾燥した時候に多くなる。そうだとすると、地域の寒暖差がインフルエンザ死亡率にも影響していると考えてもおかしくない。果たして、どうなのか。

これまで見てきたように、高齢者ほどインフルエンザ死亡率は高くなる。そのため、寒冷地であり、かつ高齢化の進んだ地域ほど、インフル死亡率も高いという現象が見られるはずである。

こうした考えから、図表5には、都道府県別に高齢化率とインフルエンザ死亡率(10万人あたりインフル死亡者数)との相関図を掲げた。単年度であるとバラツキも大きくなるので、ここでは、死亡率について2017~19年の3年平均を採用している。

高齢化の進んだ地域ほどインフル死亡が多く、寒暖差は無関係

インフルエンザ死亡率の都道府県トップ5は、上から宮崎、鹿児島、高知、島根、熊本である。すべて、九州、中四国といった西日本の県である。

逆に死亡率の低いほうの5位は、低い順に石川、愛知、神奈川、岡山、広島となっている。こちらは地方の拠点都市圏を含む県が多くなっている。

■宮崎、鹿児島、熊本、佐賀など暖かい九州地域で高いインフル死亡率

相関図の全体の分布を見れば、高齢化の進んで地域ほど、インフルエンザ死亡率が高いという一般傾向があることは明瞭である。点線で書き入れた一次回帰線がこの傾向を示している。

しかし、この一次回帰線から大きく外れた地域も多い。もし寒暖差が影響しているとするなら、一次回帰線より上(死亡率が高い)に寒い地域が分布し、下(死亡率が低い)に暖かい地域が現れているはずである。

ところが、実態はそうではない。むしろ、一次回帰線より大きく上に外れている(死亡率が高め)のは、宮崎、鹿児島、熊本、佐賀といった暖かい九州地域と栃木、群馬といった北関東の県である。

そして、一次回帰線よりかなり下(死亡率が低め)に位置する石川、新潟、長野なども、冬場、暖かい地域とは決して言えないのである。

また、寒冷地の代表である北海道や温暖地の代表である沖縄は、両方とも、むしろ一次回帰線の線上近くに位置している。つまり、それぞれの高齢化率において特段目立った(高い・低い)死亡率を示しているわけではない。温暖な沖縄がとりたてて死亡率が低いとは言えないのだ。

とはいえ、地域別のリスクとして確実に言えるのは、「高齢化率の高いエリアほど死亡率が高くなる」ということだけであり、それ以外の要因は、依然として不透明というのが実情である。むしろ、地域的な生活習慣や保健対策・体制が関係している可能性もある。

*ここで掲げた相関図の高齢化率は、通常の65歳以上人口比率ではなく、75歳以上人口比率をとっている。これは、75歳以上で特にインフルエンザ死亡のリスクが高いからである。実際、一次回帰線の当てはまり度を示す「R2乗値」は65歳以上人口比率であると0.3168と75歳以上人口比率における0.3678よりかなり低くなってしまう。

以上、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスが、同じような感染・死亡リスクがあるなら参考になると考え、インフルエンザ死亡数の男女・年齢構造、および地域構造についてのデータを紹介した。

確定したことはまだ何も言えないが、もしインフルエンザと新型コロナの感染の広がりに似たところがあるならば、上記の分析は感染防止に役立つかもしれない。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
1951年神奈川県生まれ。東京大学農学部農業経済学科、同大学院出身。財団法人国民経済研究協会常務理事研究部長を経て、アルファ社会科学株式会社主席研究員。「社会実情データ図録」サイト主宰。シンクタンクで多くの分野の調査研究に従事。現在は、インターネット・サイトを運営しながら、地域調査等に従事。著作は、『統計データはおもしろい!』(技術評論社 2010年)、『なぜ、男子は突然、草食化したのか――統計データが解き明かす日本の変化』(日経新聞出版社 2019年)など。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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