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安倍政権の新型コロナ対策は「視野狭窄バカ」である

プレジデントオンライン / 2020年3月9日 15時15分

参院本会議に出席した安倍晋三首相=2020年3月6日撮影 - 写真=AFP/時事通信フォト

安倍首相の要請により始まった「一斉休校」は正しい判断だったのか。医師の和田秀樹氏は「安倍政権は、心理学でいう視野狭窄の状態に陥っている。目前の『感染拡大』にばかりとらわれてしまって、ほかの重要なことが冷静に考えられなくなっている」という――。

■「一斉休校」で学力低下という大きな代償を払うことになる

新型コロナウイルスで世界中がパニックのようになっている。

2月27日に、安倍晋三首相が3月2日から全国すべての小学校・中学校、それに高校と特別支援学校について、春休みに入るまで臨時休校とするよう要請する考えを示した。

そのため、何の準備もしていない学校現場は大慌てとなり、卒業式ができない子どもや小さな子供をもつ親御さんの困惑ぶりが伝えられると、翌28日には一転して、安倍首相は、衆議院財務金融委員会で「今回の要請は法的拘束力を有するものではなく、最終的な判断は学校を設置する地方自治体や学校法人などで行われるものだ。各学校や地域で柔軟に判断いただきたいと考えている」と述べ、萩生田光一文科相も同様のコメントを出した。

しかし、すでに休校で動き出した流れは止められず、結局、ほとんどの学校が春休み終了まで休校となった。

私の知り合いの私立進学校の校長は、少しでも子どもの学力低下を食い止めようと地域で唯一、授業を続けたが、周囲から有形無形の圧力を感じて、数日後にはやはり休校することに決めたという。

学校に限らず、コロナウイルス騒動の余波は多くの場に広がり、とくにスポーツ界では無観客試合が当たり前のようになっている。

あくまで個人的見解だが、私は対応がバタバタしすぎていると感じる。本連載ではこれまで本来賢い人たちがあるきっかけで思考停止のようなバカな状態になっている現象を報告しているが、今回もそれに該当するのではないか。

■安倍政権「稚拙な新型コロナ対策」の3つの盲点

心理学の立場から、3つの観点から新型コロナ騒動に対する疑問を述べたい。

(1)まず、一斉休校のような大きな代償を払ってまで感染の拡大を防ぐ必要があるのかということに対する多角的検討が足りないのではないかという疑問だ。

(2)次に、それだけのことをやって本当に終息に向かわせられるのかという疑問だ。

(3)最後は、厚生労働省は感染の拡大防止や予防的なことにばかりに重点を置きすぎていて、「感染後の対応」が二の次にされていないかという疑問である。

2月29日、内閣広報室は安倍内閣総理大臣記者会見をライブ配信
写真=首相官邸YouTubeより
2月29日、内閣広報室は安倍内閣総理大臣記者会見をライブ配信 - 写真=首相官邸YouTubeより

まず(1)「大きな代償を払ってまで感染の拡大を防ぐ必要性を多角的に検討していないのではないか」について。かつて世界で流行した致死率35%のMERSや10%のSARSなら、一時的に経済活動をストップしても感染拡大阻止に全力を挙げるべきだろう。

ただし、その場合は、学校の休校やスポーツ観戦の禁止というような手ぬるい処置ではなく、電車やバスの運休、企業の就業停止など、不特定多数の人との接触停止を2、3週間程度やるくらいの徹底が求められる。

一方、今回の場合、新型コロナウイルスの感染者数は3月4日時点で、中国で感染者が8万人を超え、2943人が死亡したとされている。致死率は3%を超えているから、かなり高いと言えるが、中国の人口を考えると爆発的な感染とまでは言えない。世界全体でみると、9万2722人が感染し、3155人が死亡しており、死亡率は似たようなものだ。

日本でもすでに268人中12人が亡くなっている。致死率は世界と同レベルだが、ほとんどが高齢者なのも確かである。

■アメリカのインフルエンザが日本に入るのを防ごうという話は聞かない

実は、アメリカではインフルエンザで今シーズンだけで1万2000人が亡くなっている。アメリカの場合、医者にかからないで死ぬ(医療費が高いため)人が多いので、3万人という推定もある。それでも、アメリカのインフルエンザが日本に入ってくるのを防ごうという話は聞かない。アメリカの場合、今年のインフルエンザが特別怖いということではなく、2017~18年のシーズンには6万人以上の死者を出している。ただ、その年でも、やはり「アメリカからの感染を防ごう」という動きを国も国民も取らなかった。

以上を踏まえ、スポーツ観戦はともかくとして、学校の休校のデメリットはかなり大きいと考える。なぜなら、インターネットなどを通じた在宅学習のインフラが十分でない日本では、ここ数年学力低下が懸念されている現状をより深刻なものにしてしまいかねないからだ。

また、この休校状態が長期間続き、成長期の子供たちが長い間家を出ないというような事態に発展すると、運動不足により骨や筋肉の発達に影響を与えかねない。

こういう費用対効果を考えないで、手っ取り早くできそうなことだけ、感染拡大防止のための対応をすることに疑問を感じるのだ。

■安倍政権は本当に「新型コロナ」を終息できるのか

次は(2)「本当に終息に向かわせられるのか」について。

インフルエンザウイルスの予防に関しては、一般的に、温度20~25度程度、湿度50~70%程度を保つことが予防のひとつといわれ、夏場に流行ることはほとんどない。しかし、新型コロナに関して、その傾向が確認されていない。夏風邪というのがあるくらいだから、夏場にも流行するリスクは決して低くない。

これは医師としての私の推定だが、現在、新型コロナは東南アジアなどでも相当数の感染者が出ているのだから、高温多湿にも強い特質も備えているのではないか。(※)

※世界保健機関(WHO)は3月6日、「インフルエンザのように夏が来れば新型ウイルスが消失するの考えは間違った期待だ」と発言した。

武漢という都市は、日本企業の工場も多く、日本との交流が深い街だ。コロナウイルスがニュースになる前に日本に入ってきた中国人はかなりの数いるはずで、その中にかなりの数のウイルス保有者がいても不思議ではない。

2月29日、内閣広報室は安倍内閣総理大臣記者会見をライブ配信
写真=首相官邸YouTubeより
2月29日、内閣広報室は安倍内閣総理大臣記者会見をライブ配信 - 写真=首相官邸YouTubeより

ここへきて国内の企業は、テレワークや時差通勤を推進しているが、それでも依然として満員電車での通勤を余儀なくされている人は多い。ということは、近いうちに新型コロナ検査キットなどが普及すれば、感染(陽性)者数はどんどん増えると思われる。

春休みが終わった時点で、感染者が数千人(3月4日時点で1000人超)というような状況となって、はたして休校を解除して、1学期を始められるだろうか。オープン戦は無観客試合と決めたプロ野球もレギュラーシーズンに入ったからといって、観客を球場内に迎えることができるのだろうか。日本は密閉式のドーム型が多いのである。

4月になってもおそらく終息宣言は出せないと私は見ている。「新型コロナは致死率が低いから、学校に再び通ってもいいし、多くの人が集う場所でのスポーツ観戦も自由にどうぞ」という結論には至らないだろう。

■感染してしまった後の対応が二の次にされている

最後に(3)「感染してしまった後の対応が二の次にされていないか」である。これに関しては政府もマスコミも、「感染拡大の阻止」に力を置きすぎている。

この記事を書いている途中で、日本の島津製作所がわずか1時間で新型コロナの感染の有無を判定できる機械を開発したことを発表したというニュースが出た。

政府の検査態勢が後手後手だったと批判される中、これが普及すれば、かなりの人の検査が可能になる代わりに、感染者と判明する人はものすごい数で増えるだろう。そうなったときの準備・対策を厚労省はしているだろうか。おそらくそこまで手が回っていないに違いない。

■政府は心理学でいう「視野狭窄」に陥っている

今回の新型コロナの場合、高齢になるほど致死率が高く、若年者の死者がかなり少ない。

高齢者施設などに感染が広がらないような対策を採ることは以前からも行われてきたことだが、新型コロナ感染拡大を受け、それをより徹底しヌケのないような体制作りを介護の現場とともに進めるべきだろう。

現時点では、日本の致死率は他国と変わらないが、今後、感染者数そのものが増えたとしても致死率はむしろ下がる可能性が大きいのではないか。なぜなら日本は国民皆保険であり、また外来・入院ともに施設の充実度において他国より上だからだ。しっかりした医療体制が維持されるよう政府がバックアップすることが終息への道となるはずだ。

本稿で、私がもっとも声を大にして言いたいのは、今の政府やマスコミの対応は、心理学でいう「視野狭窄」に陥っているということである。つまり、「感染拡大」にばかりとらわれてしまって、ほかのことが冷静に考えられなくなっているということだ。

■一斉休校ではなく、やるべきことは他にあるはずだ

新型コロナから話がそれるが、自殺やうつ病を心理学的に研究する分野に「心理学的視野狭窄」という概念がある。たとえば、一部のうつ病の人が「自分は落伍者だ」「もう今後再就職は見込めない」のような考えにとらわれ、ほかの可能性が考えられなくなる現象である。

ほかの可能性が考えられないから、自分の悲観的な観念が絶対正しいと思ってしまい、さらに悲観的になって、最終的に「死ぬしかない」とか「生きていてもいいことはない」という発想にいたってしまう。なにかのきっかけで自殺するというのは、こういう心理状態にあるときだと研究者たちは分析している。

こういう人にほかの可能性も考えられるようにしてあげるのが、現在のうつ病のカウンセリング治療のトレンドだ。

自殺の研究者によれば、いじめ自殺というのは、いじめられた子が助けを求めず、「もう逃げられない」と考えてしまうから自殺にいたってしまうという。そこで、「いじめをなくす」といった100%実現が難しい目標を掲げるより、本人がほかの可能性も考えられるような心理教育・自殺予防教育のほうが、よほど実効性があると研究者たちは言う。私もこれに同意する。

安倍政権の新型コロナウイルス対策はある種の心理学的視野狭窄に陥っている。マスコミの報道にもそれを感じる。目前の現象(感染者拡大とその防止)にエネルギーを奪われ、その他の事後の対策・準備がおろそかになっているように見える。死亡者の多い高齢者へのケアを今から手厚くする、新型コロナ感染を疑って来院した大量の患者を受け入れる体制を整える、といった対処こそ優先すべきではないか。

読者の方におかれては、「不安なとき、危機に対応するとき」ほど慌てず冷静になって、安倍政権のような視野狭窄になっていないかを自己モニタリングして、なるべく多面的に検討したうえでの言動を心掛けてほしい。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。

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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)

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